令和元年度 学部授業・カリキュラム改善に向けた「年間報告書」

1.「学習成果実感調査」についての分析結果

外国語学部は2019年度から複言語主義を旗印とする新カリキュラムをスタートさせた。これがどのような教育的効果を生み出すのかを継続的に検証し、必要に応じて迅速に対処することを目的として、本学部では、全ての開講科目で学習成果実感調査を実施した。具体的に春学期は、対象となる634科目のうち605科目で実施し(実施率95.43%)、履修者延べ13,408人のうち10,814人が回答した(回答率80.65%)。秋学期は、対象となる598科目のうち582科目で実施し(実施率97.32%)、履修者延べ12,761人のうち9,726人が回答した(回答率76.22%)。
この大規模調査の分析は、各学期、二段階で行った。第一段階はセクションごとで、対象科目を18に分け(「学部基幹科目」、「基礎演習」、「研究演習」、「特別英語」、「英語学科」、「ヨーロッパ言語基幹科目」、「ドイツ語専攻」、「フランス語専攻」、「スペイン語専攻」、「イタリア語専攻」、「ロシア語専攻」、「メディア・コミュニケーション専攻」、「アジア言語基幹科目」、「中国語専攻」、「韓国語専攻」、「インドネシア語専攻」、「日本語コミュニケーション専攻」、「国際関係学科」)、カリキュラム委員が分析を行った。この一次分析では、学部平均に対する各セクションの位置を把握したうえで、高く評価できる点、改善を要する点を明らかにした。それに基づいて、第二段階として学部全体の分析を行った結果、幾つかの動向を読み取ることができた。

春学期

  • 学部基幹科目および学科基幹科目の数値が全般的に低かった。特に抽象的な内容の科目が苦戦しており、その対策としては具体的で面白い事例を組み込んでいくことが考えられる。
  • 1年次生対象の基礎演習では出席および学習時間の数値が良好で、1年次生のモチベーションの高さがうかがわれる。一方、3、4年次生対象の研究演習では、学習時間をはじめ、ほとんどの項目で学部平均よりも数値が高い。大局的に見て学部のカリキュラムがうまく機能していると言えるだろう。
  • 平均値には表れない数値のばらつきを指摘するセクションも幾つかあった。全体として高い質のレベルを維持するためには、科目担当者間の意見交換の機会を増やすことや、学生全員に丁寧に授業の内容や目的を説明することが考えられる。
  • 自由記述からは、学生の真面目さが感じられる。また、映像の利用やMoodle等によるリソースの提供に対する評価が高い。学生のニーズに対して、教員が誠意をもって応じていることの証であろう。
  • 非常勤の教員の授業で人気の高いものが幾つかある。それらの見学の機会などを設けることは、学部全体の授業の質向上につながると思われる。

秋学期

  • 春学期の結果を踏まえて、出席、シラバス確認、事前事後学習の指示、評価方法の明示などに配慮したことによって、積極性、理解度、面白さ、満足度などが向上したセクションが多かった。
  • 学生および教員の間で統一したポリシーを共有するために、シラバスだけではなく、コーディネーターの教員が細かい配慮を行い、各回の教員の指示も丁寧に行うなど、各セクションで様々な工夫を凝らしている。
  • 授業形式(語学、講義、ゼミ)、必修か選択か、配当年次などが、学生の「実感」に影響することは避けられないとはいえ、学生のニーズをよく把握して、ミスマッチを解消する努力が続けられている。
  • 留学の出発・帰国によって、クラスの人数が増減して雰囲気が変わることがある。

これらの動向について、学部の全ての教員が情報を共有し、十分に問題意識を持ちながら、優れた部分を更に伸ばし、不足した部分を補っていくことが今後の課題である。

2. 「公開授業&ワークショップ」についての報告 

(1)参加人数

  1. 「公開授業」:
    今年度の公開授業「英語圏文化論Ⅰ」(2019年6月13日(木)1時限・S302教室、ギリス フルタカ アマンダ ジョアン教授)には、11名の教員およびオブザーバーとして事務職員1名が参加した。アクティブラーニング型のこの授業の中心となるグループワークでは、教員の一部も学生たちとともにディスカッションに加わった。
  2. 「ワークショップ」:
    公開授業の翌週、6月19日(水)の教授会の後、15時から16時30分までS102会議室で行ったワークショップには、校務等で参加できない教員を除く32名が参加した。前半は、公開授業を担当したギリス教授が、科目の概要についてスライドを使いながら解説した。後半は、質疑応答だけでなく、公開授業から浮かび上がってきた問題点である「事前・事後学習のあり方、特に授業外における学習時間」についてグループ・ディスカッションをした後、全体で意見交換を行った。

(2)ワークショップでの意見交換内容

今年度の公開授業の「英語圏文化論Ⅰ」は、2014年に始まって以来、ギリス教授が工夫を積み重ねてきたもので、内容言語統合型学習(CLIL)および反転授業(Flipped class)の興味深い一例である。それについて外国語学部教授会構成員の約7割が知識を共有し、議論を深められたことは、今年度の重点テーマの一つである「異文化間コミュニケーション能力を育むための複言語統合型学習のより効果的な実践」を推進していく上で、非常に意義深いものであった。
ワークショップのグループ・ディスカッションで特に注目したのは「事前・事後学習のあり方」で、「どれくらいの時間の事前・事後学習が望ましいか」、「どうすれば事前・事後学習の時間を確保できるか」などについて活発に意見が交わされた。英語および英語以外の言語の、ネイティブおよび非ネイティブの教員の、授業改善に対する強い熱意が感じられたワークショップであった。

(3)その他研修会等

①FD研修会:複言語主義に基づく新カリキュラムにおける中心的科目「英語で学ぶ〇〇の社会・文化」の開講に向けて
2019年8月28日(水)教授会終了後(14:30~)、S102会議室
外国語学部は2019年度から複言語主義を旗印とする新カリキュラムをスタートさせた。その最も特徴的な新科目「英語で学ぶ〇〇の社会」「英語で学ぶ〇〇の文化」は、2年次生を対象としており、2020年度から開講されることになる。それに向けて専任教員が中心となって授業設計を進める中で、このFD研修会では複言語主義の理念や方法論を改めて確認した。具体的には、2019年2月27日に外国語学部が行った教育シンポジウム「新たな外国語教育をめざして——複言語主義、アクティブラーニング、CLIL」の特別講演の一つ、京都大学の西山教行教授による「外国語教育の刷新に向けた複言語主義」の映像を見た。機材の不具合のため中断し、映像の残りの部分はオンラインで個別に見ることとなった。

②FD研修会:留学のあり方を考える——語学留学だけに終わらせないために
2019年12月4日(水)教授会終了後(14:00~15:00)、S102会議室
今年度の重点テーマの一つ「カリキュラムにおける「留学」の位置付けの再検討」に取り組むべく、長期留学から帰国した学生たちの報告を聞くという形でFD研修会を行った。報告を行った3名は、音楽や料理といった個人テーマを出発前に設定することによって、留学先の人々とより深く交流することができた学生たちである。人間的な変化・成長の場としての留学を有意義なものとするために、教員がどのようにサポートしていくことができるのかを考える貴重な機会となった。

③FD講演会:留学アセスメントを用いた留学前後の能力変化の分析(講師:一橋大学国際教育交流センター長・阿部仁准教授)
1月15日(水)教授会終了後(15:00~16:30)、S102会議室、参加者40名(教員38名、職員2名) 12月の研修会に引き続いて、さらに留学のあり方について考えるために、講師として一橋大学国際教育交流センター長・阿部仁准教授をお招きして講演会を開催した。まず1時間ほど阿部先生に、留学アセスメント・テストを導入した背景、その内容、そして今後の課題について、お話しいただいた。その後30分にわたって質疑応答が活発に行われた。次年度には留学アセスメント・テストの導入を検討する予定であるが、その準備段階として非常に多くの示唆を得ることができた講演会となった。

3. 総括

(1)1. と2. において確認された、本学部の授業・カリキュラムの長所

本学部は多くの学科・専攻に分かれ、様々なタイプの授業がある。現代グローバル社会の縮図を思わせる、その多様性こそが本学部の長所である。2019年度に始まった新カリキュラムの旗印である「複言語主義」を体感しながら、学生たちはまず学内で外国語とその背景となる文化を学ぶことができる。そしてその後、充実した留学プログラムを通じて、外国で語学力を伸ばし、同時に人間力も高めることができる。

(2)1. と2. において確認された改善すべき点

授業内容が多様であるがゆえに、時に学生たちは自分に合った学習の方法や環境を、うまく見つけられないことがある。その問題を解決するために、教員は学生のニーズをより良く把握して、的確な指導をきめ細かく行っていく必要がある。

4. 次年度に向けての取り組み

今年度は、新カリキュラムの基幹である「複言語主義」をテーマとする公開授業、ワークショップ、FD研修会を行って、それを授業でより効果的に利用する方法を模索した。そして「複言語主義」の実践の場である留学をカリキュラムの中により適切に位置付けるべく、留学に関するFD研修会、講演会を行って、留学アセスメント・テストの導入について検討した。その第一歩として、春の海外実習の参加者が「留学の学習成果分析BEVI-j」を受験した。これを踏まえて、次年度は、留学アセスメントについての取り組みを進めることを考えていた。
しかし、コロナウイルス感染拡大にともない、3月下旬に次年度の最初の2週間をオンライン授業による特別授業対応期間とすることになり、急遽オンライン授業の準備を始めた。結局、予定されていた特別授業対応期間は中止になったが、オンライン授業の準備の過程で、教員のICTスキルの必要性が如実に感じられた。そもそも、従来から教員のICTスキルの必要性は感じられていたが、これを契機とし、次年度には教員のICTスキル向上を目指したい。ただし、教員のICTスキル向上は、オンライン授業のみを目的としているのではなく、教育の質のより広範な改善を目指すものである。オンライン授業のスキルは、通常授業における事前事後学習の促進、反転授業の事前教材の作成、欠席者への指導などにも役立つ。更に、オンライン授業用の動画教材作成の経験は、学生を引き付け引き込む授業展開を構成するうえで有益である。また、数年後に控えるBYOD化に対応するためにも、教員のICTスキル向上は不可欠である。更に、スマートフォンが普及し、ほとんどの学生が常に情報端末を携帯しているという未だ嘗てなかった状況が現出しており、これを教育に活用することも考えるべきである。そして、会社業務をはじめ社会で進むICT活用に適応できる人材の育成を見据えた教育を実現するためにも、教員のICTスキル向上を目指すものである。
よって、次年度は、今年度進めてきた留学アセスメントについての取り組みを進めつつも、教員のICTスキルの向上に本腰を入れて取り組んでいきたい。
PAGE TOP