令和3年度 学部授業・カリキュラム改善に向けた「年間報告書」

1.「学習成果実感調査」についての分析結果

文化学部では各年次演習科目(ゼミ)における少人数かつ段階的な学びを重視している。令和3年度はコロナ禍であったものの、感染拡大防止に努めながら演習科目や実習科目を中心に対面授業が実施された。調査対象科目は92の演習科目中、秋学期の回答者数は264名、回答率は45.4%だった。
春学期の結果についてはすでに中間報告において報告しているので、今回は秋学期の結果について分析する。設問1(授業参加の程度)において、15回の授業回数のうち、12回以上出席した学生の割合は90%だった。設問2(履修にあたってシラバスを確認したか)において、確認したと答えた学生は91%だった。昨年度と同様の高い割合であり、演習科目に対する意識の高さがうかがえる。設問2-2(シラバスに記載された準備学習等の指示を参考に学習を進めた)では「そう思う」(41%)「どちらかといえばそう思う」(29%)で7割の学生が日頃から授業外学習に取り組むことができた。また、設問3「1回の授業あたりの事前・事後学習に費やした時間」について、3時間以上と答えた学生の割合は26%であり、春学期の15%から伸長が見られた。学部の学びの根幹である演習科目において、学生の自覚を促し、学部教育の総合的な達成度にもつながることが期待される。設問5(協働学習の意義)では、83%の学生が協働学習の意義を実感できたと好意的に回答し、設問6(調査研究の面白さの実感)では、92%の学生が調査学習の面白さを実感したと回答した。春学期と同様、秋学期も演習科目の特色であるグループワーク・調査研究・フィールドワークの意義を実感したことがうかがえる。設問7(文化に関する興味・関心が深まった)に関して、「強くそう思う」・「そう思う」との回答は97%にのぼり、春学期より10%上昇した。設問8(文献を読むことの大切さ)に関して、91%の学生が大切だと感じてはいるが、設問9で文献を読む習慣が身についたと回答した学生は57%だった。読書に関しての設問は春学期の数値とさほど変化がないが、今後も引き続き読書の習慣などを促す必要性がある。設問10(総合的に見てこの科目に満足しているか)では、98%の学生が「強くそう思う(54%)」「そう思う(44%)」と答えた。このことからも、学生は演習科目での学びを好意的に捉えていることがわかる。
また、秋学期独自設問である設問4-1(この授業形態として最も適しているもの)に関しては、82%が対面授業、11%が混合型(対面授業と遠隔リアルタイムの)、5%が遠隔授業(リアルタイム)、2%が遠隔授業(オンデマンド)と回答した。少数ではあるが、演習科目の履修をオンライン授業で希望している学生もいることがわかった。続いて、設問4-3では、遠隔授業(オンデマンド、資料・課題提示)以外を選んだ学生に対して、録画配信の希望を尋ねた。27%が録画配信を希望する一方、49%は希望しないことがわかった。学生主体の討論やプレゼンテーションが多く行われるアクティブラーニング型演習の録画を視聴は必要ないと感じている様子が窺える。例えば、4-2の回答の理由の自由記述では、「特に見返して学びを深める種類の授業ではないと思うからです。アドバイスに関してはメモを取ったりできる」「ディスカッションなどが中心だから後から見る必要はあまりないと感じるから。」との理由が見受けられた。一方、授業録画が必要と答えた学生は「私は欠席したことがないため録画配信を利用する必要はなかったが、都合により欠席した際に授業内容を確認できる」「新型コロナウイルス感染症の危険性が随時考慮され、対面授業と遠隔授業の切り替えがもっと柔軟になされるべき」と回答している。令和3年度秋学期は比較的社会状況が落ち着いた時期もあったが、1月以降は全国的にもオミクロン株による感染者が増えた。感染予防と学びの保証の両立のためにも、より柔軟な対応を希望している学生もいることが明らかになった。

2.「公開授業&ワークショップ」についての成果報告

(1)公開授業とワークショップ

①公開授業
  • 科目:京都文化演習IB京都文化演習IIB合同ゼミ
  • 担当教員:奥野 圭太朗講師
  • 実施日時・場所:10月4日(月)3限目11310演習室 
  • 参加人数:16名 (教員6名、学生10名)
②ワークショップ
  • 実施日時/場所:10月4日(月)4限目11310演習室 
  • 参加人数:教員5名

(2)ワークショップでの意見交換内容

合同ゼミのやり方について意見交換があった。春学期の最初にも合同ゼミを行なっている。3年次は、4年次の卒業レポートの進捗を聞くことにより、具体的にイメージすることができる。
秋学期の最初にも再度合同ゼミを行い、3年次も4年次も進捗を共有することができた。3年次の夏休みに、すでにインタビューを行い卒業レポートに向けてすすめている学生の発表があり、どのようにしたらそのようなペースで進められるのか情報共有があった。
調査方法についての意見交換があった。文化学部の学びの中でも思想、歴史、文学については文献研究になることが多い。しかし、観光の分野においては、インタビューやフィールドワークなどの調査を行なっている。調査方法を3年次ゼミの中で盛り込むことが望ましいが、その場合授業時数的にもタイトなスケジュールであるとの意見が出された。そこで、ゼミでの学びを継続的に行う方法として2年次から同じ担当教員のゼミに入り、文献研究、調査方法などを学んでいくやり方と、あえて異なる教員が2年次と3年次の演習を担当することが議論された。異なる教員の元で学ぶこともより広い視点から事象を考察することができる。また、学部の教員数からも、すべての教員が2年次から4年次までの演習を担当することへの課題も議論された。

(3)その他研修会等

① 春学期FDセミナー
テーマ:「授業録画方法について」
概要:初めに井尻香代子学部長から令和3年度の方向性と履修者状況についての確認の挨拶があり、久米カリキュラム委員長からシンプルな授業録画方法への説明がなされた。次いで、グループに分かれてコロナ禍の授業のあり方、授業録画、BYODについての意見交換がなされた。当日の様子はTeamsで録画し、当日参加できなかった教員にもパワーポイントスライドと共に動画で提供した。グループでの情報交流が行われた。授業録画やBYODについての授業実践などのアイディアについて意見が交換された。特に、アクティブラーニング型の授業における授業録画に関しては、学生が自由に意見を出しにくくなるのではないかなどの懸念も意見交換に出された。
実施日時/場所:4月7日(水)13:30-14:30  オンライン
参加教員数:18名

② 秋学期FDセミナー
テーマ:「文化学部のキャリア教育はどうあるべきか」
概要:初めに久米裕子カリキュラム委員長から、文化学部におけるキャリア教育の現状と問題点および今後の取り組み案について報告があり、これを受けて、松尾千晶先生が、これまでのご経験とキャリア教育の本質について話をされ、歴史・思想・文学・芸術に関する学びは生き方の幅と選択肢を広げるもので、文化学部はキャリア(働く+暮らす)を豊かにできる学部であると述べられた。続いて中沢正江先生が、文化学部が抱える問題点を整理し、それぞれどのような対応が可能であるかを具体的に示された。なお研修の様子はTeamsで録画し、当日参加できなかった教員にも動画で提供している。
報告・講演の後のディスカッションでは、キャリア教育は学生を一定の型にはめて企業戦士を作りあげる教育ではなく、今は学部の特性・学生の特性に合わせたキャリア科目を提供する時代であり、一人一人の学生が自分なりに考えて社会の中で生きていく力を育む教育であること、「就職」と「就活」は別物であり、キャリア教育では「どう働くか」について考える必要はあるが、就活支援は不要であること、対外的なアピールとしての「広報戦略」と学生のための「キャリア教育」を分けて考える必要があること等を共有した。今回の研修を通じて、キャリア教育に対する様々な「誤解」が解消され、キャリア教育について議論する土台が学部内にできた。
実施日時:3月15日(火) 15:00-17:30  11201教室およびオンライン
参加教員数:15名(うちオンライン5名)
(うち、オブザーバー参加:松尾千晶共通教育推進機構准教授・中沢正江共通教育推進機構准教授)

3. 総括

(1)1と2において確認された、本学部の授業・カリキュラムの長所

文化学部では演習科目は最大でも15名程度となっており、きめ細やかな少人数教育を実現している。学部の授業・カリキュラムの長所は少人数の授業での担当教員やクラスメートとの対話を通して、学生が自ら選んだテーマを深く掘り下げられる学びができることである。特にコロナ禍でオンライン授業を余儀なくされた2020年度入学生にとって、今年度2年次の基礎演習では、教員やクラスメートとの対面での議論を通して、研究テーマに関する学びへの手応えと刺激を受けたと思われる。学習成果実感調査からも、演習科目に関してはより高い水準で学生は満足して取り組んでいることが明らかになった。また、公開授業における奥野先生の3・4年次合同演習の取り組みに関しては、学年を超えて研究内容を共有することでお互いに相乗効果があることも見受けられた。文化学部の少人数教育の特性を生かし、教員と学生また学生同士が密なコミュニケーションをとり、フィードバックの機会を増やすことで、学生が学修成果を実感しやすい環境を提供することができると考えられる。

(2)1と2において確認された改善すべき点

本年度より京都文化学科に「観光文化コース」がスタートし、定員も増えた。今年度より京都文化学科では、コースの垣根を越えて演習を履修できるようになった。また、異文化コミュニケーション演習では、京都文化学科と国際文化学科の学生が共に同じ演習で学んでおり、コースや学科を超えた学びの共有がカリキュラムとして機能している。加えて、国際文化学科の新カリキュラムで、「英語プログラム」「国際貢献プログラム」「文化政策プログラム」が始まって3年目が経過した。これらのプログラムは実社会を意識した学びを展開し、卒業後のキャリアに結びつける目的で創設された。秋学期FDセミナー「文化学部のキャリア教育はどうあるべきか」で議論されたように、卒業後の自分の理想的な自己を見つめられるためにも、学部全体として科目の再確認や体系化をさらに進めるためにも、今後はカリキュラムの見直しが必要になってくるだろう。

4.次年度に向けての取り組み

文化学部では、来年度も引き続き初年時ゼミ(京都文化学科は「京都文化フィールド演習」、国際文化学科は「入門セミナー」)、2年次ゼミ(基礎演習)、3年次ゼミ(文化演習Ⅰ)、4年次ゼミ(文化演習Ⅱ)を対象に学習成果実感調査・公開授業・ワークショップを行う予定である。学習成果実感調査がオンラインでの回答になったこともあり、今年度春学期55%、秋学期45%の回収率であった。学部全体の実態を掴むためにも来年度はより多くの学生からアンケートの回答を回収できるよう努めたい。
加えて、文化学部では、本を読むことの重要性の意識を高めることを重視している。学部独自の事業である「むすびわざブックマラソン」プロジェクトを通してより高次の読書体験が期待できる。しかし、現時点ではゼミによるブックシート提出実績の差が大きく、 「年間計画書」の目的の一つであった初年次ゼミや2年次ゼミにおける学びの連動については、十分な調査結果が得られなかった。今年度後半には、教育開発支援制度の予算による「文化学部の学びを深める読書体験共有体制の展開」プロジェクトにより、学生が読書体験をより自由に共有できるようなブックシートや読書交流アプリの開発も進めてきたことから、次年度は一歩踏み込んだ取り組みが実現できると考えている。学部カリキュラムとしては、国際文化学科ではコース再編(総合文化コース・地域文化コース)が行われて4年目となり、来年度完成年度を迎える。また、京都文化学科では今年度より観光文化コースが開始され、今後一層「京都文化フィールド演習」の充実が期待される。両学科において協力できる方法も含め今後のカリキュラム改革を目指すとともに、より魅力ある学部教育の将来構想につなげたい。
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