京都産業大学キャンパスマガジン サギタリウス 2013 Dec. vol.62
Voice of Sagittarius 京都産業大学の先生を徹底解剖! 経営学部 沈 政郁 准教授 研究テーマは、同族企業 (Family business)。所有構造・役員構造・家族構造の3点について長期間にわたって収集したデータを基に、多角的に企業を分析する。"婿養子の経済効果"を考える。そんな経済の見方があることを知っていますか?
Voice1 世界的な思い込みを覆しつつある、1本の論文との出会い。
会社を誰に継がせるかという問題は、世界中の経営者が頭を抱える難問です。株式会社が発達する以前は「血のつながり」 1を基準として一族の中から選ぶのが主流でしたが、1900年代の米国では、「能力」を基準に、一族の外から専門経営者を選ぶケースが増えてきました。その流れから、現代では「会社の所有者と経営者が分離している」状態を主流として、世界的に議論が進んでいました。ですが10数年前、世界27カ国のトップ30社について所有者と経営者の実態を調査した1本の論文が、世界的な見解を覆しました。その論文が明らかにしたのは「アメリカとイギリス以外の国では、多くの大企業が今なお家族経営である」という事実。「家族企業」というテーマは、それを期に最前線のテーマとして扱われるようになりました。博士課程の頃、その論文に触発された私は、4年間取り組んだ地方財政の研究から一転、日本の全ての上場企業の経営データについて調査を開始したのです。
1
解説:特に「血縁」を重視した事業承継はイタリア、韓国、東南アジアで盛ん。
Voice2 企業経営の謎を解く、「人間のドラマ」を探し出す。
まず私が着手したのは、3500社以上にものぼる上場企業の50年以上にわたる経営記録を全て一つのデータセットにまとめることでした。これにより、日本の上場企業の約6割が家族経営であるという結果を明らかにしたと共に、データのユニークさ 2 が世界的な関心を集め、現在の研究者としてのキャリアに至りました。昨年は、先述のデータから、「婿養子である経営者がもたらす経済効果を検証」した論文を発表。誰が経営を担うのかという観点から業績を比較し、創業者、婿養子、創業者の血縁者、非家族企業の順で業績が良いという結果が得られたことにより、日本企業における「婿養子」という「経営手法」の有効性を主張しました。また、豊富なデータによる分析が評価され、今新しく執筆中の論文は経営学の分野の世界最高学会である「Academy of Management」で最優秀論文賞を受賞しました。
このような研究で私が試みているのは、経済理論を重視した従来の見方ではなく、「人」の側面から見ることで、より生き生きと企業活動を捉えることです。例えば、ホテルから自動車、ファッションなど、さまざまな業種に事業を展開する多角経営は、収益性から見れば、合理的でない場合もあるでしょう。しかし、韓国の家族経営の企業(財閥)には「内輪もめが多い」傾向があることを分析の要素に加えると、兄弟げんかを避けるためにあえて全く異なる業種に展開している、という実態も見えて来るのです。上場企業の業績や経営陣の氏名が一律に並ぶだけの資料 3にも、実はそうした合理性だけでは割り切れない人間ドラマが隠されている。それらを丁寧に紐解きながら、企業のあり方を再定義していきたいと考えています。
2
解説:1960年〜2010年の間に、東証はもちろん新興市場を含む全市場を網羅したデータは、世界でも類を見ない。
3
解説:先生が利用したのは、会社の事業に関する重要事項が網羅されている「有価証券報告書」。
Voice3 教員として素直に共感した、「建学の精神」を伝える。
私の専門は経済学ですが、講義で学生に伝えたいのは、挑戦すること、世界を目指すこと…そう、まさに本学の建学の精神そのものですね。私自身、博士課程の頃は研究に行き詰まり、自分の限界を感じていましたが、ゼロから始めたこの研究に全力を尽くした結果、世界トップクラスの研究者と共同研究をする機会を得て、新しい道が開けていった。私にとって、過去7年間はまさに「イノベーション」でした。イノベーションを掲げる京都産業大学の学生にこそ、同じように自分の可能性が広がる経験を重ねてほしいと思っています。

沈先生のハマりもの!京都の街を散策するのが楽しみですね。

歴史を感じながら、京の街を散策することが好きです。なかでも感慨深かったのは、比叡山の延暦寺。ここからたくさんの宗派が生まれ、日本全国に飛び立って行ったという、日本仏教の総本山たる懐の深さが感じられました。

課外活動として、学生と一緒に京都の街を巡ることがあります。将来、世界と関わることになった時に、自国についての知識を持っておくことは学生一人一人において大切ですからね。

沈先生のハマりもの!京都の街を散策するのが楽しみですね。

→先生が最近訪れたのは、大原の三千院だそうです!

先生の最近の受賞歴

「Academy of Management」での最優秀論文賞(2012年)

トップページに戻る
「Voice of Sagittarius」バックナンバー
PAGE TOP