理学部の澤田涼研究員と諏訪雄大准教授が超新星内部の元素合成問題についての論文を出版

2021.02.15

成果

理学部宇宙物理・気象学科の澤田涼研究員(日本学術振興会特別研究員)と諏訪雄大准教授は、超新星内部のニュートリノ駆動風に関する研究成果をまとめ、新しい論文をThe Astrophysical Journalから出版しました。

掲載論文

題目:A Consistent Modeling of Neutrino-driven Wind with Accretion Flow onto a Protoneutron Star and Its Implications for 56Ni Production
(原始中性子星への降着流を伴うニュートリノ駆動風の一貫したモデル化と56Ni生成への影響)
著者:澤田涼、諏訪雄大
掲載誌:The Astrophysical Journal, 908, 6 (2021年2月8日オンライン公開)
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/abd476
また、以下からプレプリント版のダウンロードが可能です。
https://arxiv.org/abs/2010.05615

背景

太陽の約10倍以上の重さを持つ星は、その一生の最後に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こすことが知られています。この超新星は、大型望遠鏡であれば1年に1000件以上観測されており、静的な宇宙において人類のタイムスケールで宇宙を“進化“させる動的な現象です。しかし、超新星爆発がどのようにして起こるのか、その爆発メカニズムについては、シナリオが提言されてから80年経ってなお、完全には理解されていません。「超新星の爆発機構解明」は、天文学に残されている未解決問題のひとつです。近年のスーパーコンピューターによるシミュレーション計算では、超新星爆発は従来の理解よりもゆっくりとした爆発をすることが示唆されています。しかし最近、これらのゆっくりとした爆発では、超新星の内部で生成される56Ni の観測量を説明できないことが指摘されてきました(ニッケル生成量問題)。澤田研究員と諏訪准教授は、この超新星の爆発機構についての研究を精力的に行っています。

研究概要

超新星爆発後、中心に残される原始中性子星の表面からニュートリノ駆動風と呼ばれる質量放出が長時間続きます。このニュートリノ駆動風は、「ニッケル生成量問題」の解決策の1つとして多くの研究で注目されていました。

通常、ニュートリノ駆動風を計算するには複雑なニュートリノ輻射輸送方程式と流体力学方程式をスーパーコンピューターを用いて数値的に解かなくてはいけません。しかしこういった詳細なシミュレーションは計算コストが非常に高く、現状では長時間計算が困難です。一方、ニュートリノ駆動風に必要な物理を取り出した物理モデルを構築することで、長時間の追跡結果が可能になります。

この論文で澤田研究員と諏訪准教授は、「ニッケル生成量問題」の解決策の検証のため、複雑な式に物理的、数学的に適切な近似を施すことで、中性子星への降着とそれに伴うニュートリノ駆動風を記述する物理的モデルの作成に成功しました。そして本論文のモデルに基づいた結論として、ニュートリノ駆動風でニッケル生成量問題を解決することは難しいことを示しました。また本研究から、超新星の爆発シミュレーションでニッケルの総生成量を十分な精度で見積るには2秒程度まで計算を追跡すればよいことを示しました。

参考

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