COP26と気候危機 2021.11.09

温暖化対策を協議するCOP26が、10月31日に英スコットランド・グラズゴーで開幕した。主な争点は、もちろん、温室効果ガスの削減目標を引き上げ、世界の気温上昇を産業革命前と比べて1.5度程度に抑えることである。言うまでもなく、「1.5度の気温上昇」は人類に深刻な悪影響を与えるかどうかの境界となっており、パリ協定での努力目標になっている。

近年、「温暖化問題(Global Warming)」や「気候変動問題(Climate Change)」と呼ばれていたグローバル問題は、「気候危機(Climate Crisis)」と表現されることが多くなっている。この最たる理由は、温暖化がもたらす被害が顕著化してきており、今後、さらに悪化する恐れがあるからである。

世界各国の科学者で作る国連のグループである「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2021年8月に発表したレポートでは、地球温暖化が人間活動によるものであると断定され、2011年から2020年までの世界の平均気温が、温暖化が起きる産業革命前と比べてすでに1.09度上昇していることが発表された。さらに危惧されるのは、今後、産業革命前と比べて世界の平均気温が1.5度上昇した場合、50年に1度の頻度で起こる極端な高温は発生頻度が約8.6倍に、また10年に1度の大雨の頻度も1.5倍になると試算されていることである。

世界平均気温上昇を1.5度以内に抑えるために、国際社会は温室効果ガスの排出を即座に、迅速に、そして大量に減らさなければならない。平均気温上昇を1.5度未満に抑えるには、世界の温室効果ガス排出量を2030年までに2010年比で45%削減し、2050年頃に実質ゼロにする必要がある。しかし、COP26開幕前に国連気候変動枠組み条約事務局が発表した最新の報告書では、パリ協定下で提出された各国の排出目標を足し合わせても2030年の排出量は2010年に比べて「16%増加」することが指摘され、このままでは世界の平均気温は今世紀末までに少なくとも「2.7度上昇」してしまうことが危惧されていた。

COP26の前半の1週間が終了した。本会議中に世界第4位の排出大国であるインドが2070年までに排出ゼロを目指すことを公表し、その他の経済発展が著しい途上国も排出削減目標を更新したことは大きな成果である。これらの目標通りに削減が進めば、今世紀末の気温上昇は1.8度に抑えられるとの試算が国際エネルギー機関から公表されたことで、後半の交渉にも大きな弾みがついた。
11月9日から、各国の閣僚級の交渉が始まる。今後の温暖化対策に決め手となるルール作りに合意し、各国に削減目標の引き上げを強く迫ることで「コモンズの悲劇」をなんとしてでも避けなければならない。今回のCOPは「世界にとって最後のチャンス(world’s best last chance)」であると言われている。

実のところ、この原稿を書きながら2009年のコペンハーゲンで行われたCOP15を思い出している。京都議定書に次ぐ、新しい枠組みに合意できるかどうかが大きな争点となっていた中、議論は大いに紛糾し、国際社会は苦し紛れにコペンハーゲン合意に「留意する」ことを決定して閉幕した。大学院生だった当時、大阪を拠点にする環境NGOに同行し、その様子を早朝から深夜まで追いかけた。この時、国益とグローバル益の両立の難しさや、グローバル・ガバナンスの実現の難しさを肌で実感した。それ以来、「企業を中心とした非国家アクターが作り出すプライベート・ガバナンス」や、SDGsに代表される「目標策定型ガバナンス」など、いかにして温暖化問題を解決に導けるか、様々なガバナンスの形態に着目しながら研究に没頭してきた。

「将来の世代の欲求を満たしつつも、現在の世代の欲求を満足させるような開発」という考え方はもう古い。「現在及び将来の世代の人類の繁栄が依存している地球の生命維持システムを保護しつつ、現在の世代の欲求を満足させるような開発」の時代が来ているのである。

 

井口 正彦 准教授

グローバル・ガバナンス論

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