Ⅰ ごあいさつ

古来、人は自然災害や疫病など抗うことのできない出来事に出会ったとき、その不安をさけるため、神や仏に祈りを捧げてきました。また、日々の暮らしのなかで、年中行事や人生儀礼など時の節目に儀礼を繰り返すことによって、何事もなく平穏無事な幸せが続くことを願ってきました。そこには、科学や合理性で割り切ることのできない、経験知から生み出された知と技があります。
東アジア恠異学会は、平成13年(2001)4月に京都百万遍の喫茶店で産声を上げた小さな学会です。「怪異」をキーワードに、様々な記録に残されている不思議なコトやモノについての研究を進め、「怪異」の背後に潜む国家や社会、人間の心性を読み解くことに挑戦してきました。
歴史学、文学、民俗学、地理学、宗教学等、特定の学問領域の研究者が集まる学術団体とは異なり、多彩で緩やかな集まりであることを特徴としています。そして、「学際(きわもの)」という位置に立ち、自由自在に学問領域を行き来することから、既成の学問に地殻変動を起こすべくチャレンジをしてきました。この展示では、「吉兆」と「魔除け」をとりあげ、これまでの研究成果をふまえ、人々が願いや祈りを託した文物を通して、祥瑞災異思想や卜占技術など東アジアにおける思想や文化を知る手掛かりとします。一つひとつの展示品は身近な暮らしとともにある些細なものですが、そこから広がる東アジア世界に思いをはせていただければ幸いです。
最後になりましたが、学会設立20周年を記念した展示の場をご提供いただいた京都産業大学むすびわざ館の関係者の皆様に感謝いたします。

2021(令和3)年2月
東アジア恠異学会 代表
園田学園女子大学 教授
大江 篤

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