入賞

「その情報は「本物」ですか」

法学部 法律学科 2年次生 谷定 昌樹

審査員講評

 筆者が震災に関連する「情報」をテーマとして論述している点で注目に値する。個々人が容易に不特定多数人に対して情報を発信できる時代であるがゆえに、各人が責任をもって情報を取り扱わなければならないこと、また、被災地の食品に対する風評被害や被災者に対するいじめなどの二次的被害が科学的根拠に基づかない偏見によるものであって、科学的に正しい知識を涵養する必要があることなどを論じているが、説得力のある内容であろう。

 そして、正しい情報に耳を傾けることが必要であるというのも、そのとおりである。しかし、同時に留意して欲しいことは、そもそもテレビやラジオの情報であれば正確な情報であるといっても良いのかどうかということである。いかなる情報源から提供された情報であっても、各自がその情報を吟味するための批判的な目をもつということがむしろ肝要であるように思われる。

作品内容

「その情報は「本物」ですか」谷定 昌樹

 最初に地震のことを知った時には正直言ってあまり実感が無かったように思います。なぜならその地震らしきもののことを知ったのは四条のゲームセンターへ向かう市バスの中であり、情報源にしても宮城の方でどうやら大きな地震が起きたらしいという某SNSでの友人のつぶやきによるものだったからです。その時は、マグニチュードはどれ位のものなのだろうか、そもそも本当に地震は起こっているのか、などと気になりながらも軽く流して携帯電話を閉じたことを覚えています。しかし、その地震らしきものこそが、現在の東日本大震災であり、マグニチュード9.0にして死者1万5000人を出してしまった最悪の震災だったわけです。その日以来連日放送され続ける被災地の状況、特に津波によって海付近の家がまるまる飲み込まれていく様がとても衝撃的であり、高台から「走れー!」などと叫ぶ周囲の人の声は見ていて胸が締め付けられるような思いでした。

 その後の復興に関しては被災地からの対応が遅いといった不満の声や福島第一原子力発電所事故の放射線量について正しい数値を公開するよう世界から批判を受けてしまうということもありながら、自衛隊を10万人も投入した被災者の救出活動と救援物資の輸送やアメリカ軍のOperation Tomodachiによる福島第一原子力発電所の事故対応は、自分の目にはすばらしい対応のように映りました。また、津波による被害を受けた方々への家の掃除からマッサージをしてまわる人など多くのボランティアや芸能人からの義援金の報道を見ていると日本はまだまだ頑張れるのだと安心できました。「頑張ろう!日本!」のスローガンのもと国を挙げて被災地の復興に取り組むなか自分もごくごく微細ではありますが募金をしたり、昼間に洗濯機を使わずに夜に使うなどして、電気を使う時間をずらしてみたりしてみました。

 しかしながらその一方で津波や瓦礫に押しつぶされるなど直接的な被害とは違った一部の心無い、被災者やボランティアの方々のせっかくの気持ちを逆なでするような行為を行っている人の存在に、はらわたが煮えくりかえるような気分にさせられたこともまた事実です。具体的にいえば二つの出来事が挙げられます。まず一つ目は震災に乗じたデマの拡散です。被災地では避難先の体育館にはテレビがなくラジオ一台といった状況の場所も多くテレビや電話、ラジオ、インターネットといった通信機能がほとんど失われている状態で正確な情報を求める声が相次いでいました。その弱みにつけこむかのようにTwitterで【拡散希望】と題し、「コスモ石油のタンクが爆発したので有害物質が雨に混じって降りそそぐから注意して」「放射能汚染地域は300キロ」といった根も葉もないデマが流されたことは記憶に新しいです。そのほかにも実在する電力会社を名乗り「多くの人に知らせて」などと節電を呼び掛けるチェーンメールや放射能漏れにはヨウ素が効果的であると煽り、「海藻や昆布を食べてください」といった嘘か本当か分からないツイートが横行しており真に受けた被災者がヨウ素の含まれるうがい薬を買い込んでしまうという事態も実際に起こってしまいました。そして結局のところコスモ石油も電力会社もそのような事実はないと発表することとなってしまいました。どうしてこのようにデマを流す人がいるのかが自分には全く理解できそうもないですし、やりきれない気持ちでいっぱいです。一応メディアもTwitterの怪しい【拡散希望】、チェーンメールの「多くの人に知らせて」に警鐘を鳴らしてはいましたが最後は情報を受信送信する自分を含めたユーザーにかかっていると思います。なぜならばチェーンメールの文面を真に受けてしまい多くの人に間違った「善意」で送信してしまい不安な気分の人を増やしてしまうという事態は一人がその送信を思いとどまることで確実になくすことができるからです。実は自分のところにも震災から数日後「善意」であろうチェーンメールが回ってきたことがあります。当時はテレビを家にいる時はほぼ毎日つけっ放しにしていたためデマだとすぐに判断することができました。しかしテレビのように正確な情報源がなかったらと考えると正直「善意」で他の人にも転送してしまっていたのではないかと思います。Twitterやメールは身近なものであり、思っている以上に情報が広まりやすいものなので普段はもちろんのこと、有事の際には特に一人一人が責任を持って取り扱わなければならないのだと深く考えさせられた一件でした。

 二つ目は被災者に対する風評被害の問題です。福島第一原子力発電所の事故の影響もあり、被災地付近の放射線量を「自分の県は大丈夫だろうか」「飲み水からの健康への影響は」という風に心配することはごく当たり前のことであると思います。地震の直接の被害を受けてもいないのに大げさだということでは決してないはずです。残念ながら被災地の土壌や牛の牧草から国の基準値を超える放射線量が検出されたことは事実です。自分も市場に出回った商品が回収騒ぎになっているというニュースを見るのはとてもたえがたく思います。しかし基準値を下回っており安全だと証明されているはずの野菜や牛肉の売り上げが、がくんと下がってしまうというのは少しおかしいと思います。テレビのインタビューを見ると農家の方はとても困惑しているように見えました。また、震災の影響で福島県から避難してきた子どもがいじめられたというニュースを耳にして愕然としました。被災してしまっただけでも大変だったと思いますがいじめられた理由はなんと「放射能がうつる」といったなんら科学的根拠に基づかない偏見によるものだったからです。中にはそのようなことを恐れて福島県から避難した子どもにどこからきたのかを隠しておくように言う親もいるそうです。これでは被災者の方も踏んだり蹴ったりであまりにもひどいと思いますし、とても腹立たしいです。そういう自分も小学生時代には放射線について学校で教えられた経験はありません。ならば今の子ども達が放射線と放射能の違いも分からないというのは無理もない話だと思います。だからこそこれからは政府の教育方針を含めてまずは親や学校が手本になり放射線の正しい知識をしっかり教えてあげることが必要だと強く思いました。

 東日本大震災は津波、瓦礫など人が一人で立ち向かうにはあまりにも大きすぎるでしょう。しかし上記のようなデマ、風評被害といった二次災害は一人一人が根拠のない噂に惑わされず正しい行動を取ることで確実に防ぐことができるはずです。この震災をきっかけに膨大な情報があふれている現在だからこそテレビやラジオなどの正しい情報に耳を傾けることの必要性を強く感じました。

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