益川塾セミナー「コロイド分散系と断熱対ポテンシャル」

2018.05.29

益川塾では下記の通り、セミナーを開催いたします。
皆様のご参加、お待ちしております。
講師 曽我見 郁夫(京都産業大学 名誉教授)
講演題目 コロイド分散系と断熱対ポテンシャル
日時 2018年6月4日(月)13:30~
場所 京都産業大学 1号館1階 学びのスペースB
対象 一般・学生・教職員
申込 事前申込は不要。当日、直接、1号館1階 学びのスペースBへお越しください。
参加費 無料
概要 コロイド分散系は、可視光の波長に近い粒径をもつ粒子が安定に分散する溶液であり、ほとんどすべての生命体が内包する重要な熱力学系である。この分散系で生起する現象は豊饒であり、それらの多様な現象を記述し得る数理物理の体系は、今も尚、発展の途上にある。
1940 年前後に、ロシアとオランダの研究者が独立に分散系のヘルムホルツ自由エネルギーを計算し、コロイド粒子に対する遮蔽斥力ポテンシャルを導出した。彼等は、このポテンシャルとファンデルワールス引力の線形結合を用いて、分散系中で生じる粒子凝集が ‘‘添加塩の価数の6乗 に比例する’’ という経験則の証明に成功した。これは、物理学の手法でコロイド現象を解明した画期的な第一歩であり、以来、彼らの名を冠した Derjaguin-Landau-Verwey-Overbeek (DLVO) 理論が ‘‘コロイド科学の標準理論’’ と位置づけられてきた。
1970 年代に入ると、均質な試料粒子が生成され、観測技術も急速な進歩を遂げる。その結果、 分散系で不純イオンを除去すると、オパールのような美しい虹彩色を放つコロイド結晶が成長することが発見された。DLVO 理論は、この現象を小イオン濃度が適当な値をとると遮蔽により斥力効果が低下して ‘‘DLVO ポテンシャルの第二極小’’ が生じた結果であると解釈し、「添加塩の濃 度を増加するとコロイド結晶は安定化する」ことを予言した。
この予言を検証するために、1973 年に Hachisu(蓮) 等は、粒子の体積分率と添加塩の濃度の異 なるコロイド分散系の状態を観察した。塩濃度が低い領域では、分散液はブラッグ回折により美しい虹彩色を発し、コロイド結晶の形成が確認される。そのような状態から塩濃度を増加させると、共存領域を経て、虹彩色が失われる。すなわち、添加塩濃度を増加させると、結晶は安定性 を失って溶融するのである。この蓮の発見を契機に、表面電荷の大きいコロイド分散系で多様な 相転移現象が見出され、DLVO 理論の欠陥が明らかになって来た。
蓮等との討論を経て、Sogami は分散系のギッブス自由エネルギーの研究に着手し、1983 年に、 化学ポテンシャルの総和としてギッブス自由エネルギーを計算することにより、コロイド粒子の断熱対ポテンシャルが弱い長距離引力成分を持つことを示した。それ以来、長距離引力の存在の実験的な検証とギッブス自由エネルギーの理論に関して、35 年以上にわたって論争が続いている。
この講演では、コロイド分散系の研究史を簡単に紹介した後、近年の理論発展を報告する。新しい理論 [1] では、分散系の熱力学量が「母集団平均」に基づいて構成される。その際、小イオン が粒子の外部領域のみに存在することに注目し、排除体積を系の熱力学変数として選ぶことによ り、系のギッブス自由エネルギーがルジャンドル変換と化学ポテンシャルの総和の二つの方法でヘルムホルツ自由エネルギーから導出可能であることが示される。
[1] I. S. Sogami, PTEP, Issue 3, 1 March 2018, 033J01.
お問い合わせ先
京都産業大学 研究機構(益川塾)
〒603‐8555 京都市北区上賀茂本山
Tel.075-705-3105
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