総合生命科学部 板野直樹教授と今野兼次郎助教らの国際共同研究グループが、がん幹細胞性制御の新たな機構を解明 Journal of Biological Chemistryの"Paper of the Week"に選定されました。

総合生命科学部生命システム学科の板野直樹教授、同動物生命医科学科の今野兼次郎助教、チェンマイ大学医学部(本学協定校)のPrachya Kongtawelert准教授らの国際共同研究グループは、がん細胞のがん幹細胞性獲得に働く新たな作動原理を解明しました。

 本研究成果は2014年7月30日付で、米国科学雑誌Journal of Biological Chemistry電子版にて公開されました。

掲載論文名

 Excessive hyaluronan production promotes acquisition of cancer stem cell signatures through the coordinated regulation of Twist and the TGF-β-Snail signaling axis

著者

 Theerawut Chanmee#(京都産業大学先端科学技術研究所)、Pawared Ontong#(京都産業大学工学研究科、文部科学省国費外国人留学生)、望月信利(京都産業大学生命科学研究科)、Prachya Kongtawelert(チェンマイ大学医学部)、今野兼次郎*(京都産業大学総合生命科学部)、板野直樹*(京都産業大学総合生命科学部)(#同等貢献、*責任著者)

研究概要

 近年、多くの癌において、「がん幹細胞(がん源細胞ともいう)」の存在が報告されており、この細胞が自己複製とがん細胞への分化によって癌を形成するという概念に注目が集まっています(図1)。がん幹細胞は、従来の化学療法や放射線治療に抵抗性を示すことから、転移や再発を引き起こす最大の要因と考えられ、根治的治療の標的として重要視されています。しかしながら、細胞ががん幹細胞性を獲得する機構については、未だ解明されていません。

 進行性乳癌では、ヒアルロン酸の過剰な産生は予後不良と相関することが、臨床病理学的に示されてきました。そこで研究グループは、ヒアルロン酸を過剰に産生する乳癌発症マウスを遺伝子導入技術により作製し、詳細に解析しました。その結果、ヒアルロン酸を過剰に産生する乳癌では、がん幹細胞様細胞が有意に増幅していることを見出しました(図2)。さらに、ヒアルロン酸の産生下に作動するシグナル因子を解析し、細胞外液性因子のTGF-βやTNF-α、そして転写因子のSnailやTwistが、がん幹細胞性の制御に中心的な役割を果たしていることを明らかにしました(図3)。本研究の成果は、がん幹細胞性を喪失させる新規技術の開発につながるとともに、その技術を癌の根治的治療法として展開するための基盤となりえます。

 本研究成果は、文部科学省科学研究費(23590478, 26430125)、京都産業大学共同研究プロジェクトなどの支援を受けました。

図1. がん幹細胞の自己複製と細胞分化による癌形成過程の概念図
がん幹細胞は、細胞分裂によって自己と同じ特徴を持つがん幹細胞を生み出すと同時に、がん細胞へ分化して癌を形成する。

図2. ヒアルロン酸過剰産生乳癌と対照乳癌におけるがん幹細胞のフローサイトメトリー解析
ヒアルロン酸過剰産生乳癌(Has2ΔNeo)では、対照乳癌(Has2+Neo)に比べて、がん幹細胞様細胞が増幅している。


図3. ヒアルロン酸産生下に作動するシグナル因子群が、がん幹細胞性を制御する機構の概念図
Has2; ヒアルロン酸合成酵素2, HA; ヒアルロン酸, HA receptor; ヒアルロン酸受容体, TGF-βR; TGF-β受容体, TNF R; TNF-α受容体, EMT; 上皮間葉転換, CSC-like cells; がん幹細胞様細胞

 
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