環境問題における市民団体の役割についての日中比較

開催日時 2015年10月28日(水)15:00〜18:00
開催場所 京都産業大学 第二研究室棟 会議室
報告者 焦勉従(本学法学部准教授)

発表概要

はじめに

 中国では、深刻な大気汚染、水質汚染、土壌汚染、がん村など、環境問題が拡大の一途を辿っている。膨大に資金を投入したり、また、優れた法整備が整えられたりといった様々な制度改革を行っているにもかかわらず、環境悪化が止まらない。本報告では、環境問題における両国市民団体の役割の違いを比較分析し、中国の市民団体の現状と課題を明らかにする。

環境問題の範囲と市民団体の定義

 本報告では、環境汚染(大気汚染、水質汚染、土壌汚染)、環境保護、地域再生(持続可能な地域の実現など)を対象とし、原子力問題、越環境問題、地球温暖化問題などについてはここでは範囲外とする。

 また、NPO、NGO、財団法人、生協、被害者団体、婦人会など、組織形態に関係なく、環境問題に取り組んでいる全ての団体をここでは市民団体とする。

環境問題における中国の市民団体の役割

 中国の環境NGOは1990年代中後期から発展してきた。当時の中国は計画経済から市場経済への返還に伴って、様々な資源が社会に解放され、人材、物質、制度の面においてNGOが発展する基礎となった。また、中国の環境NGOはマスメディアと良好な関係にあり、共通の使命、責任、そして利益によって、環境保全における公衆参加を促すために緊密なパートナーシップを築いている。この両者の成長に伴い、中国の環境ネットワークは、環境保護機関、全人代、全国政協、専門家グループなどと連携して形成され始めた

 2011年以降には中国共産党・政府によって「生態文明建設」(=持続可能な開発)と「環境保護法治」強化の流れが推進されており、優れた法整備がなされている。しかしながら、課題として、社会団体や個人が原告となって提起されたもので勝訴判決にまで至っているものは極めて少数で、なかには審理にすら付されていないものもあり、そもそも環境公益訴訟の原告適格に符合する団体も少ない。

環境問題における日本の市民団体の役割

 日本の環境問題では、訴訟に至らなかたものと、訴訟に至ったものが存在する。

訴訟に至らなかったケース

 環境訴訟にならなかった事例としては、滋賀県環境生協(琵琶湖浄化石けん運動、菜の花プロジェクト)や北九州市の大気汚染・水質汚染問題が挙げられる。これらの事例が解決の方向へと向かった要因としては、自治体・行政・企業がスクラムを組んだということが挙げられるが、何よりも婦人会などの市民団体の熱意がこれらのアクターを動かしてきたと言える。

訴訟に至ったケース

 訴訟に至った事例としては、いわゆる四大公害裁判が挙げられる。

 政府は経済成長主義で開発を進めるために公害防止や環境保全を後回しにしてきた。このため、深刻な公害を防止するために住民の世論や運動が公害を告発し、対策を要求せざるを得なかった。

 住民の要求が公害対策として実現するために二つの独自の方法がとられた。ひとつが環境保全派の首長を地域レベルで当選させることでいわゆる革新自治体を誕生させたこと、いまひとつが、公害裁判である。自治体と企業が一体となっているような「企業城下町」では、被害者が社会的に差別され公害を告発することが困難であり、最後の手段として裁判所に救済を求めた。

両国市民団体の役割の比較

 ここで両国市民団体が持つ共通の役割としては

  1. 問題を社会的に認知させる役割(課題設定)
  2. 専門的な知識と経験を蓄積し、実践性を持っていること
  3. 政策提言とその実施に向けたロビー活動
  4. 環境教育・研究

 といったことが挙げられ、それぞれに異なる点としては

  1. 環境訴訟について、日本は被害者団体の長年の戦いによって様々な被害の救済制度、環境基準、予防原則などの公害対策の原理が生まれてきた(bottom-up型)が、一方で中国は、日本よりも優れた法整備が存在するものの、執行過程において様々な問題を抱え、市民団体はまだ大きな成果を得ていない(top-down型)。
  2. 環境改善の市民活動については、日本は生活者レベルの市民運動が大きな成果をもたらした一方で、中国の市民団体はより多くの生活者レベルの市民を巻き込むことに成功していない。
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