日ロ両国のアイデンティティに関する比較論(プロジェクト「日ロのアイデンティティの比較研究」の経過と成果)

開催日時 2015年6月24日(水)15:00〜18:00
開催場所 京都産業大学 第二研究室棟 会議室
報告者 河原地英武(本学外国語学部教授)

概要

研究の背景

 世界問題研究所では「日ロのアイデンティティの比較研究」というプロジェクトを現在進めている。その一環として当該プロジェクトにかかる所員は、2015年5月29日(金)から6月2日(火)まで、ロシアのモスクワ国立国際関係大学にてロシア側の研究者と共同研究会を行った。
 本研究はその成果を河原地教授の考察を踏まえながら報告したものである。

プロジェクトの概要

 現在の日ロ関係は、一見、北方領土問題によって停滞しているように見えるが、文明史的視野に立ち、現今の国際情勢の変化に照らしてみれば、両国には多くの共通項・共通利益が存在する。本プロジェクトは、日ロ関係を軸とした近現代史を眺望し、それによって得られた知見を現下の国際情勢分析に活かすことによって、日ロ外交の行き詰まりの要因についての考察を行い、今後の両国関係の展望を開こうとするものである。

基本的な問題意識

 日ロは古来から、自国が特別な国であると認識してきた。そこで日ロのアイデンティティを探る過程、すなわち初めて「自己」と「他者」を認識する2つの視点がある。まず、日ロそれぞれがヨーロッパ文明と出会うことであり、いまひとつが、日ロの出会いである。

近代日ロ関係の帰結としての日露戦争

 ヨーロッパに対する後進性の対応として、国内では日ロ共に、ヨーロッパ化推進派と独自性を守ろうとする伝統派に二分されていた。しかし日本は後進性の自覚をもとに前者を、ロシアはビザンチン帝国の継承者としてのプライドから後者を選ぶこととなった。
 そして日露戦争によって、日本は文明国であることを示すことができ、ロシアは立憲制を欠く旧体制の破綻を明らかにしてしまうという帰結が生じた。
 しかしながら、第二次世界大戦に向けて、日本は軍国主義・敗戦国へと道をたどることとなり、一方のロシアは、ロシア革命を経て社会主義政権を樹立したものの、連合国側の一因となり戦勝国となった。
 さらに冷戦期には、日本は西側陣営の一員として、ロシアは東側陣営のリーダー格として頭角を現すことになったが、この時期は欧米的価値観が基準となる時代であった。

「勝者」と「敗者」モデル(東郷モデル 2013.12.23)

(I) 〜1905 (II) 〜1945 (III) 〜1991 (IV)  〜2014
ロシア V-------⇒--------D D-------⇒--------V V-------⇒------SD Rise?
日本 D-------⇒------- V V-------⇒--------D D-------⇒------SV Decline?

D=Defeat; V=Victory; SD=Self Defeat; SV=Self Victory

結語

 日ロは、欧米的な価値に重きを置きつつ、勝者と敗者を相互に繰り返しながらアジアを舞台として敵対してきた。しかしながら近年では必ずしも欧米的な価値観が絶対的に優位であるとはいえず、ロシアのプーチン政権はユーラシア文明圏の盟主として独自の世界構想を目指しているように感じられるし、日本もまた安倍政権の根底に日本的な固有の美意識が潜んでいるように思われる。さらに両国ともアジアに国益の中心を見出し、中国に対して苦労している。
 このような中で、日ロが共通のビジョンを持ち、これまで西洋文明が担ってきた世界をリードする価値観としての普遍性を持ちうるのか、ということを継続して考察していく必要がある。


  • 発表の様子(河原地教授)

  • 質疑の様子
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