【情報理工学部】【PRECIOUS PLASTIC KYOTOイベントDay1】循環するプラスチックと環境教育のトークセッション

2023.02.02

ボリビアのカラフルな景色を説明する松本氏

京都を拠点に「PRECIOUS PLASTIC」※の活動をされておられる、PlaRialの松本 恵里佳氏を14号館1階のファブスペースにお招きし、プラスチックと環境教育に関するトークセッションが開催されました。
普段は見えない、プラスチックの流通やプラスチックが引き起こす環境問題、それに対する松本氏の取り組みを聞かせていただきました。

(学生ライター  情報理工学部 3年次 徳山 倖我)


※PRECIOUS PLASTICとは  コミュニティ単位で「自分たちの出したゴミ」のリサイクルを可能にするオランダ発のオープンソースプロジェクト。大きなリサイクル施設を利用しなくても、地域・個人レベルでプラスチック問題に関わり、リサイクル活動を可能にできる。

動機はボリビア。環境問題に対する自発的な行動を促したい。

学生時代は興味がある事もなく、ゆったりと学生生活を過ごしていたけど、環境教育の授業を受けたことがきっかけで、国内外ボランティアへの参加や環境教育の資格を取得したりとアクティブに活動し始めたという松本氏。大学で学んだ環境教育の知識をアウトプットできる場を求め、新卒でJICA海外協力隊に参加されました。松本氏が配属された国はボリビア。ボリビアの美しい自然や豊かな生態系に期待をし、日本から旅立たれました。しかし、ボリビアで活動する中で目にしたのは市の最終処分場にあった大量のゴミ。そこには豚や牛といった家畜もいたそうです。最終処分場にはプラスチックゴミや生ゴミに加え、電化製品や注射針などの医療系廃棄物までもが分別されることなく捨ててありました。
松本氏がボリビアで実際に目にしたゴミ山
会場で話を聞く学生たちは「ゴミが土に分解されない」や「ゴミを動物たちが食べたら死んでしまう」など、考えられる問題点を挙げていきました。
この最終処分場での影響は動物たちだけに及ぶものではありません。雨が降ったらどうなるでしょうか。雨水がゴミの層を通って地層に浸透し、地下水や川を通り、植物を渡り、雲になってまた雨になります。このゴミの層を通った水は、全ての循環経路を汚染してしまう可能性もあると問題を語る松本氏。それにより、地域の住民が健康被害を訴えていることもあったそうです。

ボリビアの最終処分場の問題点を話す学生と松本氏

この地域に定着しているゴミをポイ捨てしてしまう習慣を改善するため、松本氏はマイコップ・マイバッグの持参を推奨するイベントやワークショップ、最終処分場の見学ツアーなどを実施し、例年に比べてゴミを大幅に削減できました。しかしながら、それでもキリがありません。原因は、市民の日常的に出る使い捨てプラスチックゴミの削減に対するモチベーションにあまり変化が見られなかったためです。解決策を模索する中で松本氏が見つけたプロジェクトが「PRECIOUS PLASTIC」でした。

ボリビアの最終処分場と動物たち。

株式会社YOKOITOが運営するデザインスタジオ「新工芸舎」
リサイクル施設を導入しようと思うと、多額の資金や労力が必要です。ですが、PRECIOUS PLASTICであれば市の予算でも取り組みが可能で、ゴミ問題の啓発にもなると松本氏は考え提案されました。 いざ、プロジェクトに取り掛かろうと思うと、機材のパーツが手に入らなかったり国内情勢の影響で異動せざるをえなかったりしたため、ボリビアではプロジェクトを立ち上げられませんでしたが、いつかはボリビアにもPRECIOUS PLASTICを展開していきたいと語られました。現在は京都を拠点にされており、株式会社YOKOITOが運営するデザインスタジオ「新工芸舎」の協力のもと、活動されています。
プレゼンテーションの最後に、今後のビジョンを話されました。環境教育とは、「人間と地球環境との関わりについて理解を深め、環境の回復、創造に向けた知識や関心を高める教育」と定義づけられていますが、自分にとっての環境教育とは「自発的な行動を促すきっかけづくり」と語る松本氏。本当の意味で環境問題に向き合う必要性が個人、企業を問わず求められている社会になっています。「敷居は低く、楽しく興味の幅を広げながら問題を知り、自発的な行動を促せるような体験型環境教育がしたい!」とビジョンを話されました。

レッツ、PRECIOUSPLASTICデモ!

レクチャーの後は、PRECIOUS PLASTICのデモンストレーションをしていただきました。参加学生たちに捨てる予定だったプラスチックを各自で集めてきてもらい、それらを粉砕機で砕くところから行いました。

学生が持ってきたプラスチックゴミ
それらを粉砕したもの
いよいよ粉砕されたプラスチックを使用した射出成形のデモです。金型を射出口に取り付けます。最終的にこの金型に溶けたプラスチックが流れ込み、形が成形されます。先程砕いたプラスチックを射出成形機に入れます。
射出成形機内は200度近くの温度になっており、プラスチックが溶けます。テコの原理で射出成形機内のプラスチックに圧をかけていき金型に流し込みます。

射出成形の金型を取り付ける様子
テコの原理でプラスチックに圧力をかける松本氏

金型を取り外して、オープン!できたてのプレートをみんなで観察しました。

射出成形後、金型とできたプレート
使用した工具類
この特徴として、射出口のところにおへそのように跡が付いており、そこを中心にマーブル状に色が広がっていました。また、金型に対して出来上がったプレートの方が少し小さいことも発見しました。冷えると収縮するようです。みんなでにおいを嗅いでみましたが、ほのかに工房のような、倉庫のようなインダストリアルなにおいが感じられました。その正体はシリコンルブスプレー。金型にプラスチックが付かないよう、離型剤として利用されていました。

Q&Aコーナー

デモが終わった後は、松本氏に学生やスタッフからの質問に答えていただきました。
Q:世界的にどの程度の人が参加している取り組みなのですか?また、日本ではどのくらいの人が取り組んでいますか?
A:PRECIOUS PLASTICはヨーロッパ発の取り組みですが、アフリカ・オセアニア・アジア・北アメリカなど、世界中に広がっています。
先進国のリサイクルへの取り組みはよく聞く話ですが、アフリカでも取り組まれているのは興味深いですよね。アフリカにはインフラが弱い国が多く、大規模な施設は持てないことが多いのですが、小規模でも導入できるPRECIOUS PLASTICを活用し、アップサイクル製品を販売して生計を立てたりもしています。
アジアでは韓国・中国・インドネシア・フィリピンなどでも盛んに取り組まれており、日本でも10ヶ所ほどの拠点があります。
Q:海外のPRECIOUS PLASTICではビジネスとして、実際にどのような形で取り組まれているのでしょうか?
A:海外では製品を作って販売しているところが多いです。その中でPRECIOUS PLASTICに取り組む団体も分業化されていて、プラスチックを収集する所、粉砕する所、製品を作る所、販売する所など、サプライチェーンが築かれているパターンもあります。一方、日本はビジネスというより、Fabやものづくりに携わっている人が技術に興味を持って始められている方が多い気がします。
Q:種類の違うプラスチックを混ぜて出力することは可能ですか?
A:今は技術の発展によって可能なメーカーはあります。PRECIOUS PLASTICも融解度の近い物なら可能ではありますが、塩化ビニールなどが混ざると危険なので注意が必要です。
Q:プラスチックの回収ルートは?
A:プラスチックを粉砕し産業廃棄物にしているメーカーや、プラスチックをよく扱う知り合いから譲ってもらいます。
Q:どれくらいの汚れまでならプラスチックは再利用できますか?
A:「汚れ」はどこまでクオリティを求めるかによります。見た目が汚くなったり、汚れが蓄積して射出口が詰まる恐れがありますが、一応汚れも含めて作れます。一方、紫外線により劣化した物は再利用できません。
Q:PRECIOUS PLASTICでは、どのくらいの大きさまで作れますか?
A:私が使っているのは大きさが限られますが、板材や角材を作れる装置などもあります。しかし、それらの機械はものによっては1回3,000円くらいの電力を消費するため、また他の資源が必要になります。
Q:PRECIOUS PLASTICのやり方は独学ですか?
A:PRECIOUS PLASTICは基本オープンソースなので、先駆者が出した情報を参考にしながら学んでいます。あとは新工芸舎の方を中心に、いろんな方に教えてもらっています。
Q:なぜ京都を拠点にしているのですか?
A:就活で大阪と東京の行き来をしている時に、ついでに京都の友達とランチをしたり、帰りによったコワーキングスペースでPRECIOUS PLASTICの話をしたらとても盛り上がって、京都は良いところだし、勢いで始めちゃいました(笑)
Q:PRECIOUS PLASTICは教育や問題提起として良いと思いますが、現実的なプラ問題の解決策になっていますか?
A:やはり施設ではなく、個人規模で「マテリアルリサイクル」をできるところだと思います。
リサイクルには、サーマルリサイクル・ケミカルリサイクル・マテリアルリサイクルの3種類があります。その中でマテリアルリサイクルは、プラスチック素材からプラスチック製品を作り出す手法です。
現在はサーマルリサイクルの割合が高いので、ケミカル・マテリアルリサイクルの認知のためにも1つの解決策になると思います。

最後にこの記事で、読者の皆さんはプラスチックを悪者だと思いましたか?
リサイクルの世界は、単純にプラスチックを減らせば良いという訳ではなく、プラスチックが悪者とは限りません。
海や土、動物や人間に、プラスチックの悪い影響を及ぼしてしまう「流通」の問題ではないでしょうか。プラスチックの流通が、一般市民の中で可視化されないため、そこに意識が向かないのではないでしょうか。
PRECIOUS PLASTICは、日常的に見るプラスチックがどの様に分別され、廃棄され、再利用されるのか、プラスチックがどの様に世の中を循環しているのかを知るきっかけになります。私たちも、物をつくることでPRECIOUS PLASTICに関わり、循環の一部になれると良いなと感じました。

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