植物の光合成電子伝達におけるフェレドキシンを起点とする電子分配の一端を解明

生命科学部/植物科学研究センターの本橋 健教授のグループは、光合成電子伝達に関与する2つの経路の植物変異体解析から、光合成電子伝達の下流に位置するフェレドキシンからの電子分配の一端を明らかにしました。研究成果は、国際科学誌「Plant and Cell Physiology」(2022年1月発行)に掲載されました。 
本研究は、桶川 友季研究員(研究当時:京都産業大学(現 岡山大学助教))と本橋 健教授を中心に行われ、京都産業大学と岡山大学の共同研究の成果です。

研究背景

光が当たると、陸上植物の葉緑体チラコイド膜光合成電子伝達装置は、二酸化炭素固定に必要とされるNADPH, ATPを生成する経路をはじめ、様々な経路に電子を供給し光合成反応を行います(図1)。この際、Zスキームとして知られる光合成リニア電子伝達(図1青線)や、PGR5が関与する光化学系Iサイクリック電子伝達に電子が供給されます(図1黄線)。これとは別に、光合成や代謝反応を制御するチオレドキシン(Trx)システム(図1緑線)にも電子が供給され、二酸化炭素固定を担うカルビン回路酵素のジスルフィド結合を還元し活性化することで、二酸化炭素固定反応を制御しています。
これらの経路へ流れる電子はフェレドキシン(Fd)と呼ばれるタンパク質を起点として様々な経路に分岐しますが、その電子分配の全容は明らかになっていません。今回、これらの電子伝達経路のうち、チオレドキシン経路のひとつであるNADPH-Trx reductase C(NTRC)経路と光化学系Iサイクリック電子伝達経路の変異体を作成し、それらの電子分配における寄与を解析しました。

研究概要

陸上植物の葉緑体チオレドキシンシステムには、NTRCとFd/Trx経路の2つの経路があり、これらが協調的に機能し、効率的に光合成反応を制御しています。NTRC経路を欠損したntrc変異株では、葉緑体レドックスバランスが崩れ、植物の成長阻害が観察されます(図2, ntrc)。その原因は、Fd/Trx経路により制御されるカルビン回路酵素活性化の抑制だと考えられています。一方、Fdからの電子はPGR5依存光化学系Iサイクリック電子伝達経路にも供給されるため、葉緑体のレドックスバランスに影響を与える可能性があります。本研究では、ntrc pgr5 二重変異株を作成し、その影響を植物の生育、光合成電子伝達活性、二酸化炭素固定に関わるカルビン回路酵素の活性化について解析しました。
ntrc変異株では生育阻害が観察されるのに対し、PGR5依存光化学系Iサイクリック電子伝達経路も欠いたntrc pgr5二重変異株では、その成長阻害が回復しました(図2)。別の光化学系Iサイクリック電子伝達経路を欠いたcrr2-2変異体では同様の生育回復は観察されなかったことから、この生育回復はPGR5経路が関与していると考えられました。次にntrc pgr5二重変異株での生育回復の原因を検討すると、ntrc変異株では非光化学的消光(non-photochemical quenching, NPQ)が高く、光合成電子伝達が野生株と異なっているのに対しntrc pgr5変異株ではそれが解消していました。また、この関与はNTRCのPGR5依存光化学系Iサイクリック電子伝達経路への直接的相互作用によるものでないこともわかりました。
そこでntrc pgr5二重変異株での生育回復の原因が、変異株におけるFdからの電子分配の変化によるものである可能性を検討するため、Trxシステムからの電子で活性化されるカルビン回路酵素の活性化状態を調べました。その結果、ntrc株で活性化が不十分であったカルビン回路酵素(FBPase, SBPase)は、ntrc pgr5株でそれらの活性化は回復していました。
今回明らかにされたことを総合すると、ntrc pgr5二重変異株の生育回復は、2つの経路の電子分配が変化したことでカルビン回路酵素の活性化が回復したことによると考えられます(図3)。本研究から、植物はNTRC経路とPGR5依存光化学系Iサイクリック電子伝達経路の電子分配を適切に保つことで、光合成の二酸化炭素固定を担うカルビン回路の活性化を適切に制御していることがわかりました。光合成電子伝達における電子分配の全体像を理解するにはまだ長い道のりが必要ですが、今後のさらなる研究でそれを明らかにすることが期待されています。

論文

 
タイトル Maintaining the Chloroplast Redox Balance through the PGR5-Dependent Pathway and the Trx System Is Required for Light-Dependent Activation of Photosynthetic Reactions
(光合成反応の光依存活性化には、PGR5依存経路とTrxシステムを介した葉緑体レドックスバランスの維持が必要である)
掲載誌 Plant and Cell Physiology
掲載日 2022年1月21日
著者 桶川 友季(京都産業大学(現 岡山大学))、津田 夏暉(京都産業大学)、坂本 亘(岡山大学)、本橋 健(京都産業大学)
DOI 10.1093/pcp/pcab148

謝辞

本研究は、JSPS科研費 新学術領域研究 (JP19H04733, JP21K06219)、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(S1511023)、京都産業大学植物科学研究センターの支援を受けて実施されました。
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