黒坂 光 新学長インタビュー
ー舵取りが難しい時代だからこそ、大学の原点に立ち返るー

2021.03.19

黒坂 光 学長
2020(令和2)年10月1日、生命科学部の黒坂光教授が学長に就任しました。

2016(平成28)年に始動した中長期事業計画「神山STYLE2030」の第一段階を経て、大きく発展した京都産業大学。その一方で、少子化や新型コロナウイルスの感染拡大といった厳しい課題にも直面しています。

こうしたなかにあって、黒坂学長は今後どのように大学運営に取り組んでいかれるのでしょうか。「原点に立ち返る」ことの必要性や、在学生・卒業生への思いをうかがいました。

1.大学の原点に立ち返り、文化と産業に貢献する

——この度は学長へのご就任、おめでとうございます。黒坂学長は、今後の大学運営において「原点に立ち返る」ということを重視されているとうかがいました。「原点」とはどのようなことか、お聞かせください。

大城 光正 前学長(現理事長)が学部の新設や施設の改装、さまざまな組織の再編等を行われたことで、大学としての体制はすでに整ってきています。また学外に目を向けると、18歳人口が減少していくという、非常に舵取りが難しい時代でもあります。

そうしたなかで次に何をすべきかと考えたとき、原点に立ち返ることが一番重要なのではないかと思いました。原点とはすなわち、京都産業大学の「建学の精神」です。
建学の精神の冒頭には「大学の使命は、将来の社会を担って立つ人材の育成にある」という一文があります。人材育成こそが大学の役割。その大きな目的のために、目先のことだけでなく長期的な視点でものごとを捉えながら、教育と研究を行っていきたいと考えています。

具体的には、学部ごとの教育目標が重要となってきますので、学部長と密に連携をとりながら、そのリーダーシップのもとで教育課程の編成や学修成果の可視化などの取り組みを支援していくつもりです。
——教育と研究を進めていくうえで、どのような方向性をお考えですか?
本学の進むべき道は「文化と産業への貢献」にあると思います。

まず「文化」ですが、本学は開学当初から京都・上賀茂の地にあり、ワンキャンパスで続いてきました。
これは非常に珍しく、また非常に価値のあることです。
開学当初の2学部から10学部にまで発展できたのも、京都という文化の中心地にあり、その文化に目を向けて、研究・教育を行ってきたことが関係しているのではないかと思っています。

京都には歴史文化遺産や伝統産業がたくさんありますので、今後は学生が地域に出て活躍・貢献できるような機会をさらに増やしていきたいと考えています。
地元地域に貢献するということは、とりもなおさず文化への貢献にもなります。

また、文化の根底にあるのが基礎研究です。ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典先生が「基礎科学を文化として捉える社会になってほしい」とおっしゃっているように、基礎研究にしっかり取り組むということも、文化への貢献であると考えています。

そして「産業」について。京都産業大学は名前の通り、象牙の塔に閉じこもるのではなく、外に開かれた大学をつくるというのが開学当初からの目的でした。その原点に立ち返るということです。文化と同じく、京都には多くの産業がありますので、地元産業との連携も強化していきたいと思っています。

——さまざまな研究があるなかでも、なぜ今基礎研究が大切なのでしょうか?
黒坂学長の研究室の様子(研究テーマ:神経発生に関わる糖転移酵素の機能解析)
最近は研究の成果がすぐ商品になる、何かの開発に役立つといった応用研究にばかり目がいきがちですが、応用だけの研究というのはありえません。

きちんとした基礎があり、研究を積み重ねた結果として、応用的なところにまで発展させることができます。
ですから長い目で見れば、基礎研究をしっかり行っている大学こそ、応用研究を産業にまでつなげることができるのです。
また学生には基礎研究を通して、読解力や文章力、論理的な思考力を身につけてもらいたいですね。社会人になったとき、課題を見つけて解決できるのは、そのような基本的な力を確実に身につけている人です。あらゆる授業で、「基礎を学ぶ」ということを徹底したいと考えています。

2.四季折々に美しいキャンパスと「上賀茂ブランド」

——先ほど「地域との結びつきをさらに強めていきたい」というお話がありましたが、本学の立地の魅力はどういったところにあると感じておられますか?

こんなに美しい大学は、ほかにはないんじゃないかと思います。四季それぞれに違った風景を見ることができ、春の桜や秋の紅葉は、観光地で見るよりも綺麗なのではないかと感じるほどです。
神山天文台(春)
菖蒲池(夏)
中央図書館(秋)
三叉路(冬)
以前、生命科学部を退任された先生は、最終講義で本学のことを「日本一美しい大学」とおっしゃっていました。
多くの大学で教鞭を取られた方が、そう言い切るほどの魅力があるんですね。

在学中の学生はそんな美しさよりも、便利さのほうに目が行きがちですが、卒業したときにはきっと、「もう一度キャンパスを訪れたい」という原動力になるのではないでしょうか。


それから京都のなかでも、上賀茂という土地にあるということ。

世界遺産に登録された上賀茂神社があり、立地自体がひとつのブランドになっています。
その「上賀茂ブランド」も、これから大いにアピールしていきたいところです。
——黒坂学長は生命科学部の教授としても、教壇に立っていらっしゃいます。この度学長に就任されたことで、視点はどのように変化されましたか?
黒坂学長と学生(上賀茂周辺地域が描かれている「葵祭の図」陶壁画を背に)
やはり学長になったからには、大学全体を見渡さなければなりません。私自身は理系でして、実験室で白衣を着て試験管を持つというようなことを専門としているのですが、本学ではやはり社会科学・人文科学系の学部のほうが多いんです。

私にとってはフィールドが違いますので、そうした分野を専門とされる先生方と密に情報交換をしながら、すべての学部にとって不利益にならないように務めていきます。

3.自分を高める「自己愛」と、卒業時に覚える「自校愛」

——学生には、これからどのように成長してほしいとお考えでしょうか?
2018(平成30)年 京都産業大学同窓会 第9回長崎県支部総会
ひとつは「自己愛」を育んでほしいと思います。
自分を愛するということは、自分を高めると言い換えることもできます。

社会に出た多くの方が感じることですが、卒業後に長く活躍していくうえで、大学での学びというのはとても重要な要素。

だからこそ在学中には、知的鍛錬を重ねて自分のことを磨き上げ、就職するときには「どうぞ自分を見てください」といえるようになってほしいです。

もうひとつは「自校愛」ですね。
これまで何度か本学同窓会支部総会に参加させていただいたことがあるのですが、卒業生のみなさんはいつも歓迎してくださって、大学に対する熱い思いがとても伝わってくるんです。

そんな強力な応援団が社会にはたくさんいるということに、学生にも気づいてもらいたい。
そして卒業するときには「京都産業大学でよかったな」という自校愛をもってもらえたらと思います。

——「自己愛」と「自校愛」を育むために、どのような学生生活を送ってほしいと思われますか?

たくさんのことを経験してほしいです。大学での学びは、講義だけではありません。もちろん講義はとても大切なのですが、課外活動やアルバイトなど、若いときの経験すべてが、将来につながる大きな財産になるはずです。

この広いキャンパスには、約15万人もの学生が集まっています。これをフルに活用してもらいたい。
キャンパスに来てたくさんの友人とコミュニケーションをとることで、さまざまな考えに触れることが、論理的な思考力やリーダーシップの鍛錬になると思います。
——ワンキャンパスというすばらしい魅力がある一方で、今は社会全体が新型コロナウイルスの感染拡大という難題に直面しています。この厳しい状況とどのように向き合っていくのか、お考えをお聞かせください。

大切なのは、ウイルスのことを正しく知って、正しく恐れるということ。
すでにキャンパスに入る全員に対して検温を行う、教室などにパーティションを設置するなどの対策を行っており、今後も続けていくつもりです。

また、学内にPCR検査センターを設置し、2020(令和2)年11月下旬に稼働しました。
寮生などを中心に検査を行い、安心・安全なキャンパス環境を整えています。
「先端生命科学特別研究」講義の様子(黒坂学長研究室内)
学生も非常に協力的でして、「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」のインストールをお願いしたところ、ほぼ100%対応してくれました。とても心強く思っています。

私自身、生命科学部の研究者としてウイルスに関する知識ももっておりますので、合理的な対策を継続していきたいと思います。

4.講義や学び直しの機会を通して、卒業生との結びつきを強める

——卒業生の方とは、今後どのようにコミュニケーションをとりたいとお考えですか?

先ほどもお話したように、卒業生のみなさんがとても熱い思いで本学のことを応援してくださっているということを、在学生には知ってもらいたいと思っています。
そのための接点として、より多くの卒業生の方に講義に参加していただく機会をつくることなどを考えています。

また、現代社会はすさまじい勢いで進化しており、社会人になってからの「学び直し」が必要になってきています。そこでひとつの方向性として考えているのは、約15万人の卒業生のみなさんが学び直しをしやすい、リカレント教育の環境を整えること。実現までにはまだ時間がかかりますが、そうしたことでも卒業生と大学との間に強い結びつきができるのではないかと思います。

——学び直しの機会というと、公開講座のような形でしょうか?

それもありますし、最近は新型コロナウイルスへの対策でオンライン授業も可能になりました。
遠方にいらっしゃる卒業生の方にも、オンラインであれば気軽に母校と接していただけるのではないかなと考えています。

——最後に、卒業生の方へメッセージをお願いします。

いつも熱いご支援をいたただき、誠にありがとうございます。
みなさんの熱い気持ちを在学生にフィードバックするのが、私の重要な仕事。本学同窓会の方々の力をお借りしながら、学生の教育を行っていきたいと思っています。

また卒業生のみなさんにも折を見つけてキャンパスに足を運んでいただき、大きく変わったキャンパスの様子を一度見ていただけましたら幸いです。
これからもみなさんと一緒に大学を盛り上げていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

黒坂学長(「葵祭の図」陶壁画を背に)
取材日/2021(令和3)年1月27日(水)

黒坂 光 新学長インタビュー動画

プロフィール

学長/黒坂 光(くろさか あきら)

1986(昭和61)年 京都大学大学院 薬学研究科博士後期課程 修了。
1986(昭和61)年 薬学博士(京都大学)。
1986(昭和61)年 京都産業大学国土利用開発研究所に奉職。
その後、工学部教授、総合生命科学部長、理事、副学長などを経て、2020(令和2)年10月、京都産業大学学長に就任、現職。研究分野は「神経糖鎖生物学(神経発生における糖転移酵素の機能解析)」。

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