アフリカツメガエル卵母細胞の排卵と成熟過程の試験管内での再構成に、世界で初めて成功

2019.10.17

京都産業大学生命科学部の佐藤 賢一教授とトクマコフ アレクサンデル研究助教らのグループは、アフリカツメガエルの雌成体内の卵巣において卵母細胞が成熟し、受精可能になる過程の一部(卵母細胞がホルモン依存的に卵巣から離脱し成熟する過程)を、試験管内で再構成する実験に世界で初めて成功しました。

【本リリースのポイント】
  • アフリカツメガエルの卵母細胞は、雌成体内の卵巣において数ヶ月間以上にわたる卵形成期をへて「十分に成長した、かつ未成熟な(受精能をまだもたない)」卵母細胞(卵核胞germinal vesicleという構造をもつことから“GV卵”と呼ばれる)となる。
  • GV卵は、ホルモンの働きにより、卵巣内の臚胞細胞層という体細胞のシート構造から離脱し(排卵)、輸卵管内の移動をへて体外へ放出(産卵)される。この一連の過程の途中でGV卵は卵核胞崩壊(germinal vesicle breakdown)をへて受精能を獲得(成熟)する。
  • 本論文は、アフリカツメガエル卵母細胞のホルモン依存的な排卵と成熟の過程の試験管内再構成を可能とする新規の方法論を示し、かつこのシステムの中におけるMAPK(マップキナーゼ)とMMP(マトリクスメタロプロテイナーゼ)の生理機能についての新しい仮説を提示するものである。

リリース日:2019-10-17

発表内容

両生類無尾目のアフリカツメガエル(学名Xenopus laevis)は脊椎動物のすぐれた発生研究モデルの1つとして、様々な知見を提供している。今回の研究で私たちは、アフリカツメガエル雌成体の卵巣内にある未成熟卵母細胞が受精および発生開始可能な状態に移行するために必要なホルモン依存性の2つの過程、排卵と成熟を試験管内で再構成することに世界で初めて成功した。この試験管内再構成実験系を用いて、タンパク質リン酸化酵素MAPK(マップキナーゼ)が排卵と成熟の両方において、マトリクスメタロプロテイナーゼMMPが排卵において、それぞれ重要な役割をもつことが特異的阻害剤を用いた実験から明らかとなった。  
以上の研究成果は、アフリカツメガエルやヒトを含む他の脊椎動物の卵母細胞がもつ生物学的機能をよりよく理解することに貢献することが期待される。

事業・研究領域・研究課題

  • 神戸大学バイオシグナル総合研究センター平成28年度共同利用研究課題(281027)
  • 研究代表者:トクマコフ アレクサンデル
  • 日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究C(15K07083)
    研究代表者:佐藤 賢一

背景

アフリカツメガエルは両生類の一種で体外受精生物種、私たちヒトは哺乳類の一種で体内受精生物種である。このようにカエルとヒトには大きな違いがある一方、脊椎動物かつ四足動物に属すること、卵細胞が受精可能な状態にあるときの細胞周期が「第二減数分裂中期」であることなど、生物学上の共通項も多くある。このことや、アフリカツメガエルがもつ卵細胞が直径約1mmという大きさに恵まれていること(ヒトをはじめとする多くの哺乳類はその数分の1以下のスケール)、その飼育や管理が簡便であることなどから、アフリカツメガエル卵細胞は、卵の形成、成熟、受精、ならびに発生開始、および細胞周期制御やアポトーシスなどを研究するための優れた世界標準モデルとして長年研究対象となっている。

内容と成果

アフリカツメガエルの雌性配偶子、すなわち卵細胞(egg)は雌成体内の卵巣(ovary)でその形成を遂げる。この時期を卵形成期(oogenesis)と呼び、 卵巣内にある卵細胞のことをより正確には「未成熟卵母細胞(immature oocyte)」と呼ぶ。未成熟卵母細胞には受精能がない。卵巣内で十分に成長をとげた未成熟卵母細胞(fully grown immature oocyte)は、プロゲステロンのようなステロイドホルモンの働きにより、卵巣組織(臚胞細胞層)から離脱し輸卵管内の移動を経て、体外に放出される。この間、卵母細胞は成熟し受精可能な状態になる。この現象をovulation(排卵)と成熟(maturation)、そして産卵(spawning)といい、当該卵細胞のことを「成熟卵細胞(mature oocyte)または未受精卵(unfertilized egg)」と呼ぶ。  
本研究で我々は、プロゲステロン依存的な排卵および成熟の過程を試験管内で再構成すること、すなわちin vitro reconstruction of Xenopus oocyte ovulationに世界で初めて成功した。また、この再構成実験系を用いた生化学的および薬理学的実験などから、タンパク質リン酸化酵素マップキナーゼ(MAPK)がプロゲステロン依存的な排卵および成熟の両方に、マトリクスメタロプロテイナーゼ(MMP)が排卵に、それぞれ重要な働きをもつことを示唆する結果を得ることに成功した。

今後の展開

以上の結果は、アフリカツメガエルにおけるホルモン依存的な排卵と成熟の分子メカニズムを明らかにすること、さらにはアフリカツメガエルやヒトなどの脊椎動物の卵細胞がもつ生物学的機能をよりよく理解することに貢献するものである。

参考図

図1 卵母細胞のプロゲステロン依存的な臚胞細胞層からの離脱および成熟反応過程の試験管内再構成。(A) 5 mg/mLコラゲナーゼで30分間処理した臚胞細胞層付き卵母細胞をプロゲステロンでさらに処理すると、臚胞細胞層からの離脱および成熟反応過程を効率よく誘導できる。(B) 5 mg/mLコラゲナーゼで30分間(青)または2時間(赤)処理した臚胞細胞層付き卵母細胞のプロゲステロン非存在下での臚胞細胞層からの離脱。(C) 5 mg/mLコラゲナーゼで30分間〜2時間処理した臚胞細胞層付き卵母細胞のプロゲステロン非存在下での臚胞細胞層からの離脱。
図2 試験管内における排卵・成熟モデルの検証。(A) 試験管内における排卵・成熟モデルの模式図:WS+(ホワイトスポットの有無)、FL+(臚胞細胞層の有無)。(B) 5 mg/mLまたは (C) 50 µg/mL コラゲナーゼ処理(30分間)を受けた臚胞細胞層付き卵母細胞のプロゲステロン非存在下での臚胞細胞層からの離脱および成熟。(D) BおよびCにおける中間体(WS+FL+ および WS-FL-)の出現頻度の比較(有意差なし)。
図3 MMP阻害剤GM6001は臚胞細胞層からの離脱を阻害する。(A) コントロール実験、(B) GM6001添加実験、(C) AおよびBにおける中間体の出現頻度(有意差あり)。
図4 MAPK経路阻害剤U0126は臚胞細胞層からの離脱と成熟を阻害する。(A) MAPKリン酸化に対するU0126の効果。(B) 卵核胞崩壊(GVBD)および (C) 臚胞細胞層からの離脱に対するU0126の効果。

論文タイトル

英:In vitro reconstruction of Xenopus oocyte ovulation
和:アフリカツメガエル卵母細胞の排卵および成熟過程の試験管内再構成

著者

トクマコフ アレクサンデル(京都産業大学)
松本 祐汰(京都産業大学(2018年9月卒業))
磯部 拓海(京都産業大学(2019年3月卒業))
佐藤 賢一(京都産業大学)

責任著者

トクマコフ アレクサンデル(京都産業大学)
佐藤 賢一(京都産業大学)
お問い合わせ先
研究に関すること

佐藤 賢一 教授(サトウ ケンイチ)kksato@cc.kyoto-su.ac.jp
トクマコフ アレクサンデル 研究助教 tokmak@cc.kyoto-su.ac.jp
603-8555 京都市北区上賀茂本山
京都産業大学生命科学部産業生命科学科

広報に関すること

京都産業大学 広報部
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