令和元年度 学部授業・カリキュラム改善に向けた「年間報告書」

1.「学習成果実感調査」についての分析結果

令和元年度も昨年度の情報理工学部の新設に伴い、一部のコンピュータ理工学部開講科目の廃止および情報理工学部開講科目の新規開講が年次進行で行われているため、前年度との比較は必ずしも適切でない状況が継続している。今年度は情報理工学部所属学生は2年次に進級している。初年次(1~2年次)の教育と3年次以降の講義科目との履修状況の違いを分析する目的からは、学部専門科目をこの2つのカテゴリーで分けて統計を行った。また、1~2年次開講の初年次科目に関しては、履修者を1~2年次生と3年次生以上に分類して個別に統計を取ることを希望していたが、今年度になり初めて業者がこの作業に対応可能となった。昨年度は1年次生開講科目を「情報理工学部開講科目」、2年次生以上の開講科目を「コンピュータ理工学部開講科目」と分けて統計を行ったが、今年度は「情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目(1・2年次生)」、「情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目(3年次生以上)」と「情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目以外」の3つに分類された。移行期のため、各カテゴリーに属する講義科目および履修学生に変動があるが、大雑把には昨年度の「情報理工学部開講科目」と「コンピュータ理工学部開講科目」が今年度の「情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目(1・2年次生)」と「情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目以外」に対応すると考える。情報理工学部のカリキュラムでは、コース選択を反映したコース要件科目が2年次に新たに開講されたり、3年次以降で開講されていた選択科目が1~2年次開講科目に前倒しされたりしているため、各カテゴリーに含まれる講義科目にも前年度からある程度の変動がある。

情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目以外(昨年度のコンピュータ理工学部開講科目)

学習成果実感調査は、対象科目数35科目(全履修者数2,530名)のうち35科目に対して実施(実施率:100%)した。また回答者数は1,224名であり、回答率は48.38%であった。なお、平成30年度は対象科目31科目(全履修者数2,360名)に対して31科目の実施率100%であり、回答者数は1,096名であり、回答率は46.44%であった。年々、回答率の低下が続いていたが、今年度は若干の改善が見られる。全科目における出席回数に関して、78%の学生が出席率80%以上であると回答している(昨年79%)。履修に関してシラバスを確認したかどうかに関する質問に対しては、88%の学生が確認したと回答している(昨年86%)。過去3年連続して回答率の低下と出席率の上昇の傾向が生じていたことから、履修登録を行った学生の内、継続して授業に参加する集団と参加しない集団の二極化が進行していると考えた。学習成果実感調査が実施された学期後半に授業に参加している可能性が高い前者の集団のみが統計の対象となると考えると、回答率の低下と出席率およびシラバス確認率の上昇の相関は説明できる。今年度は回答率の若干の上昇と出席率のわずかな低下が見られることから、学期末の段階で授業に参加している学生のレベルも頭打ちして、定常化したと考えられる。

情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目(1・2年次生)(昨年度の情報理工学部開講科目)

学習成果実感調査は、対象科目数16科目(全履修者数1,215名)のうち16科目に対して実施(実施率:100%)した。また回答者数は927名であり、回答率は76.30%であった。なお、平成30年度は対象科目19科目(全履修者数1,441名)に対して18科目の実施率94.74%であり、回答者数は880名であり、回答率は61.07%であった。昨年に比べての回答率の上昇の一因としては今回が1・2年次生のみを対象とした統計を取っているためであると考えられる。【参考に「情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目(3年次生以上)」では、対象科目数12科目(全履修者143名)のうち8科目に対して実施(実施率:66.67%)、回答者数は32名であり、回答率は22.38%となる。】全科目における出席回数に関して、88%の学生が出席率80%以上であると回答している(昨年度は84%)。履修に関してシラバスを確認したかどうかに関する質問に対しては、76%の学生が確認したと回答している(昨年度は77%)。「情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目(1・2年次生)」は「情報理工学部/コンピュータ理工学部 初年次科目以外」と比べて、出席率は高いが、シラバスの確認の割合は低いことから、1、2年次においてはシラバスを確認する勉学意識の高い学生とシラバスを確認しない勉学意識の低い学生が未だ混在しており、後者の集団は必修科目にはとりあえず出席しているものと考えられる。これは昨年度と同様の傾向である。これらの勉学意識の低い学生は2、3年次以降の選択科目への出席率の低い集団の予備軍である可能性が高いと予想され、初年次での意識改革が必要と思われる。

2.「公開授業&ワークショップ」についての報告

(1)参加人数

  1. 「公開授業」:
    科目名:「プロジェクト演習」
    担当教員名:赤崎、岡田、永谷、青木、荻原、中島、宮森
    実施日:7月5日(金)4~5時限
    実施時間に講義を担当する教員も居り、参加人数は数名に留まった。
    秋学期は公開授業を実施せず。
  2. 「ワークショップ」:
    春学期実施日:7月10日(水)13:15~14:45、参加教員22名
    秋学期実施日:11月27日(水)13:15~14:45、参加教員23名

(2)ワークショップでの意見交換内容

春学期、秋学期共にワークショップでの議論の内容は議事録としてまとめ、全教員で内容確認、承認を行い、資料として共有・保管している。以下には議論の項目と概要のみの記載に留める。

春学期

  1. 「プロジェクト演習」の総括と来年度以降の運営方法に関して(永谷先生他担当者)
    来年度から新学部生が受講するプロジェクト演習に関して担当スタッフでの決定事項の説明。具体的なテーマや配属方法、コース制との関連などに関して、担当者での議論で出された意見や最終決定案の説明。
  2. 学生実験の実施方法変更に係る現状報告(蚊野先生)
    今年度実施した変更内容と現在までの運用状況、現在までの問題点と今後想定される問題点などの説明。留年予備軍の中間層の学生への指導に対する考えの説明。
  3. 情報理工の教育カリキュラムの現状把握・コン理と比べての傾向と対策(平井先生)
    情報理工学部の学生の傾向と対策に関して意見の説明。コン理の学生の留年者状況と合わせて、今後の教学指導の方針に関しての意見。特に、コース制に関しての学生の認識と選択に関しての状況説明。
  4. 情報理工学部生の特別研究Ⅰ配属方法に関しての意見交換(水口先生)
    来年度から新学部生を受け入れる特別研究での配属方針などに関して教務担当者からの意見の説明。今後のプロセスの予定に関して説明。

秋学期

  1. 「プロジェクト演習」の来年度以降の運営方法に関して(赤崎先生他担当者)
    来年度から新学部生が受講するプロジェクト演習に関して春学期のFDワークショップで永谷先生から担当スタッフ会議での方針の説明が行われた。詳細に関しては具体的な内容が決定していなかったため、その後の担当スタッフ会議での決定事項の説明を行い、学部スタッフ全員から意見を聞いた。
  2. 修学支援(寺子屋)の現状把握と今後の方針に関して(林原先生)
    コンピュータ理工学部開設時の修学支援の一環として、寺子屋の制度が新設された。過去においては、数学、学生実験、プロ演、特別研究での研究室配属などに関して多くの相談の場として機能していた。しかし、今年になって利用者が激減している。林原先生から現状での修学支援の問題点の説明を行ってもらい、寺子屋の継続などに関して学部スタッフでの検討を行った。
    現状のままの継続ではなく、今後の具体的な改善策として、a)例年、閑散期・繁忙期があるようなので、それに合わせた効率的な人員(アルバイト学生)の配置になるように工夫する;b)演習科目などは特に、「開講科目」のそれぞれに紐付いた「支援」をする方が有効性が高いように思われるので、寺子屋と各科目のTAとの連携を深める方向で運営方法を修正するのが良いのではないか;などの提案が行われた。
  3. 特別研究・修士課程での学生指導の問題点の共有(安田先生)
    特別研究、修士課程で学生を落第させることは難しいが、卒論指導や修論指導が困難な学生は存在する。最終的な合否は指導教員に委ねられているため、各教員が悩み(自分だけが厳しいのか?)を抱えることになる。特別研究Ⅱを履修している学生のどの程度が卒論を提出出来ず留年するのかも把握できていない状況である。修学に問題がある学生はコンピュータ理工学部では増加していると思われる。ワークショップでの議論の時間が足りず、安田先生から問題を提起して頂き、学部全体である程度の情報共有を行うことで、教員の孤立化を緩和すべきではないかとの提案のみがなされた。

3. 総括

(1)1と2において確認された、本学部の授業・カリキュラムの長所

本学部の授業・カリキュラムの長所は、情報理工学において基盤となるプログラミング能力を身につけるために、グレード制と少人数制を導入していている点にある。プログラミングは数学と同様に積み上げ型の学問であるため、基本的なことが理解できていないと、より発展的な内容についてのプログラミングをすることができない。そのため、「基礎プログラミング演習Ⅰ」の内容をしっかり理解した上で、「基礎プログラミング演習Ⅱ」を履修するというグレード制は、プログラミング能力の習得に有効である。また、プログラミングの習得には、プログラミングを理解している教員やTAに気軽に質問できる環境が必須であり、少人数化により本学部はそれを実現している。
「情報理工学実験A・B」は学部生全員が1年間に渡り、多様な実験テーマを回り、自分が行った作業内容に関して第3者に説明するためのレポートの作成スキルの向上を目指している。目的、方法、結果、考察の各項目で説明する内容の違いや図、表の記載の形式など理工系の報告書作成の基礎を学ぶことに重点を置いている。この実験で身に付けるスキルは、3年次春学期での「プロジェクト演習」、3年次秋学期の「情報理工学特別研究Ⅰ」、および4年次の「情報理工学特別研究ⅡA・ⅡB」での研究活動の基盤となる。
尚、情報理工学部での教育システムの最大の特徴であるコース制の有効性に関しては、第一期生(現在の2年次生)が令和2年度秋学期開講の「情報理工学特別研究Ⅰ」の履修において研究室配属が行われた後に判断されるべきものである。

(2)1と2において確認された改善すべき点

授業内での理解向上と事前・事後学習に取り組むように学生に促すことである。本学部の学習は積み上げ型であり、それを習得するためには学習時間が必要である。そのための基本としては、講義に出席している学生がその内容を理解できるような講義内容に改善していく必要がある。しかしながら、授業内で学習分野の全てを身に付けさせることは難しいため、学生の事前・事後の学習時間は必要不可欠である。そのためには、事前・事後学習において、具体的にどのようなことに取り組めば良いのかを指導するなど、学生が学習する時間を取るような方策を行う必要がある。一方、プログラミング演習の強化が学生の初年次教育としての学修姿勢の改善に十分な効果を上げていないという現実からは、問題の深刻さを学部全体で共通認識し、方向転換の必要性を検討して行くべきである。
「情報理工学実験A・B」においては、多様なテーマの学習による広範囲な学びのメリットを生かす一方で、教育目的と成績評価に関しては異なる実験テーマ間での最低限の方針の共有を目指し、学生に対して一貫した教育目標・達成基準を示すことが必要と思われる。
コンピュータ理工学部では、講義に参加しなくなる学生数の増加および留年率の上昇が問題となっていた。情報理工学部になり、入学者の傾向に顕著な変化が見られるようであるため、新しい教育システムがコンピュータ理工学部では深刻な問題となったドロップアウト学生の減少に有効であるのかどうかは今後も慎重に観察して行く必要がある。
コンピュータ理工学部開設と同時に立ち上げた修学支援(寺子屋)は情報理工学部の1、2年生に対しては有効に活用されていない現状を分析し、開講科目とのより効果的な連携を科目担当教員やTAの協力により進めて行く必要がある。

4.次年度に向けての取り組み

  1. 情報理工学部の教育カリキュラムの有効性の状況把握(コース制は機能しているか?、ドロップアウト学生は減少したか?)
  2. 情報理工学部での「プロジェクト演習」の教育効果の検証(コース制との関連)
  3. 情報理工学特別研究Ⅰの研究室配属にコース制が有効に機能しているかどうかのチェック
  4. 修学支援(寺子屋)の効果的運用の検討
PAGE TOP