木村成介准教授と中山北斗研究員らの国際共同研究グループが、植物が周囲の環境に応じて葉の形を変化させる異形葉性のメカニズムを解明

 総合生命科学部生命資源環境学科の木村成介准教授と中山北斗客員研究員(日本学術振興会特別研究員 SPD)らの国際共同研究グループは、アブラナ科のRorippa aquaticaを用いて、植物が環境に応じて葉の形を変化させる「異形葉性: heterophylly」という現象についての研究を進め、この植物では環境の変化に伴いKNOX1と呼ばれる遺伝子の発現が変化し、その結果として植物ホルモンのジベレリンの内生量が変化することで葉の形が変わることを明らかにしました。

掲載論文名

Regulation of the KNOX-GA gene module induces heterophyllic alteration in North American lake cress
The Plant Cell (2014) doi:http://dx.doi.org/10.1105/tpc.114.130229

著者

中山北斗(日本学術振興会、京都産業大学)、中山尚美(University of Edinburgh)、Sumer Seiki(University of San Francisco)、小島美紀子(理化学研究所)、榊原均(理化学研究所)、Neelima Sinha(University of California,Davis)、木村成介(京都産業大学)

発表内容

 生物は周囲の環境に応答し、時にはその形態を変化させます。この現象は表現型可塑性と呼ばれ、多くの生物で見られます。植物では、周りの環境に応じて葉の形態を変化させることが古くから知られており、この現象は「異形葉性: heterophylly」と呼ばれます。この異形葉性は多くの植物で見られ、形態学的な記述は数多く存在していますが、これまでその詳細な制御メカニズムは明らかになっていませんでした。

 そこで研究グループでは、生育環境の違いによって顕著な異形葉性を示すアブラナ科のRorippa aquaticaという植物をモデルに選び、異形葉性の制御メカニズムの解明を目的として研究を行なってきました。このR. aquaticaは北米の湖沼などに分布し、水位が上昇するなどして水没すると複雑に分岐した細い葉を、一方地上(気中)では比較的単純な形態の葉を形成することが知られていました(図1AおよびB)。

 研究グループの形態学的、発生学的、そして分子生物学的解析を行ない、R. aquaticaは水中と気中との違いだけでなく、気中でも生育温度の変化によって異形葉性を誘導出来ることを明らかにしました(図1Bおよび1C)。また、それら様々な環境の違いによって誘導される異形葉性は、基本的に共通のメカニズムによるものであることを明らかにしました。またその際に、KNOTTED 1-LIKE HOMEOBOX (KNOX1)と呼ばれる遺伝子の発現量および発現パターンが変化することを見いだしました。加えて、KNOX1遺伝子に制御されると考えられる植物ホルモンのジベレリン(GA)生合成遺伝子の発現も変化しており、葉の中のGAの内生量が変化していることを明らかにしました。また、実際にGAの量を変化させてみたところ、葉の形が変化することも確認しました。さらに筆者らは、このKNOX1遺伝子とGAとの関係に影響を与える因子の探索のために高速シークエンサーを用いたトランスクリプトーム解析(mRNA-seq)を行ない、温度の変化の他に、光強度の変化によっても異形葉性が引き起こされることを明らかにしました。

 以上の点から、R. aquaticaを用いて異形葉性の制御に関わる分子基盤の一端を世界で初めて明らかにしました。また、このKNOX1遺伝子とGAが関わる遺伝子モジュールは、いくつかの植物において種間の形態の差異をもたらす進化的に重要なモジュールであることが知られていましたが、これが同一個体内の形態の変化においても関わっていることも明らにしました。今後は、このメカニズムがRorippa属の進化の過程で、どのように獲得されてきたのか、そして異形葉性を示す他の植物でもこのメカニズムが用いられているのか、などを明らかにすることが課題であると考えられます。

 今回明らかになった知見は、植物の形態の多様性がいかにしてうみだされるのか、という根源的な問いに新たな視点を与えるものとして期待されます。

Rorripa aquaticaにみられる生育環境の違いによって誘導される異形葉性

図1 Rorripa aquaticaにみられる生育環境の違いによって誘導される異形葉性.
(A)水中で育てた個体.(B)気中で育てた個体.(C)それぞれの生育温度で一ヶ月間育てた個体.図は植物体を上から見たもの.(D)Cの個体の葉をそれぞれ一枚ずつ発生順(葉位順)に並べたもの.右側がより若い葉.
Barは全て2 cm.
図はNakayama et al. (2014)を一部改変.

 
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