浜 千尋教授、中山 実助教のグループがシナプスの新しい分化機構を発見。The Journal of Neuroscienceの ”This Week in The Journal” に選ばれました。

 総合生命科学部・生命システム学科の浜 千尋教授、中山 実助教、松下史弥君(昨年度学部卒業)のグループは、脳のシナプス間隙に存在するマトリックスタンパク質であるHigが、シナプスの分化を調節していることをショウジョウバエを用いて明らかにしました。このことにより、脳機能の中心的な役割をはたすシナプスの形成機構に新しい知見がもたらされました。

 本研究成果は、2014年10月15日付けで米国神経科学会誌 The Journal of NeuroscienceのShort Communicationに掲載されました。

掲載論文

The matrix protein Hikaru genki localizes to cholinergic synaptic clefts and regulates postsynaptic organization in the Drosophila brain.
J. Neurosci. 34, 13872-13877 (2014).

著者

中山実(京都産業大学)、松下史弥(京都産業大学)、浜千尋(京都産業大学、責任著者)

発表内容

 脳が機能をもつためには、膨大な数の神経細胞の間で情報がやりとりされる必要があります。その情報のやりとり(神経伝達)が行われる神経細胞間の接続部をシナプスとよび、それが人間の脳には1014個以上存在するといわれています。個々のシナプスでは、異なる種類の神経伝達物質(グルタミン酸やアセチルコリン等)が「すきま」に放出され、その放出された伝達物質が、シナプスで対をなす細胞上の受容体に結合すると、細胞膜を通してイオンの流出入が起こり細胞内にシグナルが伝わります。ここで、シナプスの「すきま」はシナプス間隙(図参照)とよばれていますが、そこにどのような物質が存在し、神経伝達やシナプスの分化においてどのような役割をはたすのか、という基本的問題が中枢神経系では殆ど解明されていませんでした。

 本研究では、まず、ショウジョウバエのHikaru genki (Hig)タンパク質が、アセチルコリンを神経伝達物質とするシナプス(コリン作動性シナプス)の間隙に特異的に存在することを見出しました(図参照)。このHigタンパク質が突然変異によりシナプスに存在しなくなると、ショウジョウバエは動きが悪くなり寿命も短くなります。さらに、その原因を探ると、シナプスにおけるアセチルコリン受容体の局在量が減少し、逆に足場タンパク質として知られるDlgが増加していました。すなわち、Higタンパク質はコリン作動性シナプスの分化を調節していることが明らかとなりました。また、Higタンパク質は様々な種類の神経細胞から細胞外へ分泌されたのちに分散し、コリン作動性シナプスの間隙に特異的に捕捉されることもわかりました。

 このHigタンパク質の解析により、中枢コリン作動性シナプスのシナプス間隙に存在するマトリックスタンパク質が、動物種を問わず、世界で初めて同定され、今後この分野を切り拓く先駆けとなることが期待されます。また、ヒトでは、Higタンパク質と類似したSRPX2タンパク質が異常となると、てんかんや発話異常が生じることから、Higおよび関連タンパク質の解析が医学的な問題に結びつく可能性があります。

図 Higタンパク質は、コリン作動性シナプスのシナプス間隙に特異的に存在する。Higタンパク質が欠損すると、アセチルコリン受容体の局在量が減少するとともに、Dlgタンパク質の局在量が増加する。


 
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