総合生命科学部 嶋本伸雄 教授の総説がアメリカ化学会が出版するトップランクの雑誌Chemical Reviews(Impact factor 41)に掲載されました!

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総説 概要

「1分子実験とブランド雑誌の落とし穴」

 RNAポリメラーゼは、遺伝子DNAからmRNAや機能性RNAを転写する、遺伝子発現の根幹となる酵素です。現在この酵素ほどあらゆる物理的、化学的、生物学的分析手段が試みられ、酵素反応の物理的内容が分析された酵素はありません。最近の1分子実験からは新しい概念が出ています。例えばRNA伸長反応はブラウン運動だという”Brownian Ratchet説”が提唱され、また、1分子計測では、分子毎に早さが異なっていることがわかってきました。RNAポリメラーゼには、ジレンマがひとつあります。転写開始では、2本鎖DNAをほどくために、プロモーターDNAとの結合は強い必要が有ります。一方、RNA伸長時には、素早く下流に移動するために、プロモーターDNAとの結合は弱くなければなりません。また、プロモーターを長大な染色体DNAからどのように探し出すのか、バクテリアでの転写開始に必要なシグマ因子が解離するかどうか、なぜ、転写開始時に、エネルギーの無駄としか思えない短いRNAを多量に作るのか、などの未解決問題があり、その論争はいまだ混乱状態です。今回の論文では200近い文献を整理し、ブランド雑誌に掲載された1分子FRET等いくつかの”有名実験”が、実験手段の適用限界を超えたものであり、その誤った解釈が混乱をまねいていることを明らかにしました。その上で、転写開始時の無駄な短いRNA を生む新機構を提案し、この原因が転写開始とRNA伸長におけるプロモーターとの結合エネルギーのジレンマに由来する可能性を指摘しました。また、ブラウン運動に、速度論や遷移状態理論を導入することの誤りを明確にして、正確な物理学の上に解釈を行うべきことを指摘しています。

解説図

Abortion(堕胎)が人生のジレンマから起こるように、Abortive転写(無駄な短鎖RNAの生産)は、RNA polymeraseのジレンマから起こる。
A-Dで、RNAポリメラーゼはcore酵素とシグマ因子の2,3,4領域の複合体としてあらわされており、プロモーターDNAの-35boxと-10boxが示してある。A: 長鎖RNAを作る転写開始複合体のコンセンサスモデル。B:abortive 転写の開始複合体の新モデル。シグマ因子の歪みのため、プロモーターとの結合が弱い。C: abortive転写の始まり。開始位置(茶色のbox)からRNA(赤)ができる。D:DNAが結合が弱く下流にずれるとsecond channelからRNAが放出されabortiveとなる。E,F 大腸菌RNA polymeraseの構造は、しっぽを振る犬に似ていて、second channelが犬の腹部にあたる。矢印は、新モデルによるRNAの放出方向。

 
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