総合生命科学部 高橋亮プロジェクト助教の研究内容が雑誌「米国科学アカデミー紀要」(オンライン版)に掲載されました

 総合生命科学部 高橋亮プロジェクト助教の研究内容「遺伝子発現を制御するトランス因子とシス因子の補償的な共進化」が雑誌「米国科学アカデミー紀要」(オンライン版)に掲載されました

概要

遺伝子発現を制御するトランス因子とシス因子の補償的な共進化

 従来の生物進化論の考えでは、遺伝子発現をトランスに制御する因子は保守的で、ゆっくりとしか進化できないと信じられてきました。例えば、トランスに作用する転写因子が変化すると、たくさんの遺伝子の発現が一気に変わってしまい、生きものに重篤な影響を及ぼすと予想されるからです。この予想通り、遺伝子の発現制御領域に生じるシス変異が進化に大きな役割を果たした証拠が報告されてきました。本研究では、これまで無視されてきたトランス制御因子とシス制御因子との補償的な相互作用に注目して、計算機の中で生物進化を再現しました。シミュレーション実験の結果、従来の研究はシス変異の役割を過大に評価していたことがわかりました。更に、約40万年前に分岐したショウジョウバエ近縁種を用いて交雑実験を行ったところ、トランス制御因子を入れ換えた“アウェイ”の状況よりも、本来の“ホーム”の状況でしばしば遺伝子の発現量が高くなることを見つけました(図1)。この結果は、トランス因子がシス因子と協調しあいながら、予想よりもずっと急速に進化していることを示しています。

 本研究成果は、2011年8月29日(米国東部時間)に米国の科学雑誌Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA誌(米国科学アカデミー紀要)のオンライン版に掲載されました。

 図1。ホームとアウェイでの遺伝子発現量の違い。種A、Bに由来する二つの対立遺伝子(allele A、B)は一つの細胞という同じ環境に置かれている。そのため、雑種(F1 hybrid)での発現量の違いはすべて遺伝子本体のシス制御因子(CRE)の違いが原因と考えられてきた(中央)。しかし、それぞれの種でトランスに働く転写因子(TF)とシス制御因子が補償的に進化すると、転写因子は別種のシス制御因子にうまく働けないかもしれない(破線)。例えば、種Aのホーム(左図)では種Aに由来する対立遺伝子の発現量が高く(大きい矢印)、種Bの対立遺伝子の発現量は低い(小さい矢印)。逆に、種Bのホーム(右図)では種Bの対立遺伝子の発現量が高くなる。このとき、雑種での発現量の違いは必ずしもシス制御因子の違いだけが原因ではないことになる。

掲載論文名

Two types of cis-trans compensation in the evolution of transcriptional regulation
(転写制御の進化における二つのシス−トランス補償作用)
高橋亮(京都産業大学)、松尾隆嗣(首都大学東京、現東京大学)、高野敏行(国立遺伝学研究所)

Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 108巻37号15276-15281頁

 
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