私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 第6回・7回 セミナー開催のお知らせ

第6回

 東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻の中山北斗さんと、九州大学システム生命科学府・システム生命科学専攻の吉田貴徳さんのお二方をお迎えして、セミナーを行います。大学院生、学部学生の参加も大いに歓迎しますので、皆様ふるってご参加下さい。

 
日時 平成23年2月21日(月)16:00〜17:30
場所 16号館2階会議室

演題(1題目)

 非モデル植物アスパラガスを用いた、葉のような茎、「擬葉」の進化発生学

講師

 中山北斗博士(東京大学大学院 理学系研究科 生物科学専攻)

要旨

 アスパラガス属(Asaparagus)は単子葉類に属し、世界に約300種存在すると言われる大きな属である。そのアスパラガスの特徴のひとつは、葉が鱗片状に退化し、本来は側枝が発生する葉腋の位置に、擬葉と呼ばれる葉状器官を形成することである。擬葉は主たる光合成器官としての役割も担っており、形態学的および生理学的に葉との類似点を有する。擬葉は古くから形態学者の興味の対象であったが、分子遺伝学的背景はおろか、その詳細な発生過程も未だ明らかとなっていない。属内においてその形態は多様化しており、アスパラガス属の擬葉は、植物におけるシュート構造の多様化の過程を、発生学的および進化学的観点から明らかにすることが可能な、独自性の高いモデルであると言える。そこで本研究では、特異なシュート構造である擬葉の発生、およびその多様化機構の理解を目的として研究を行った。これまでに、属内の系統関係において基部に位置し、擬葉の形態が卵形のA. asparagoidesを用いて、擬葉は葉とも茎とも異なる独自の内部構造を有すること、擬葉では葉の発生に関わる遺伝子群のオーソログが発現することを明らかにしてきた。また、擬葉の形態が棒状のA. officinalisではこれらの発現パターンが変化していることを明らかにし、現在その原因についても解析を進めている。加えて、これらの遺伝子の擬葉における機能を解析するために形質転換系の構築を行っており、本発表ではそれらを含めた現時点でのデータに基づき、擬葉の進化発生機構について考察する。

 また、アスパラガス属は、単子葉類の系統樹上において、モデル植物であるイネよりもその分岐が古く、イネにより得られた知見を進化学的に比較するために都合のよい系統的位置に存在する植物である。今回はシロイヌナズナとイネとの間で機能分化が見られるYABBY遺伝子群のCRC/DL遺伝子の進化を例に、アスパラガスの系統的有意性も議論したい。

演題(2題目)

 典型的パイオニア種カラスザンショウの分子集団遺伝学的研究

講師

 吉田貴徳博士(九州大学システム生命科学府・システム生命科学専攻)

要旨

 生物集団の遺伝的な変異を解析する分子集団遺伝学的研究は近年盛んに行われており、集団遺伝学や生態学、進化学などの多くの分野において新たな知見をもたらしている。今回、カラスザンショウの遺伝的構造や塩基多型のパターンとその形成に関与している要因の解明を目的とした、分子集団遺伝学的研究について紹介する。樹木カラスザンショウ(Zanthoxylum ailanthoides)は、日本に生育する典型的なパイオニア樹種である。カラスザンショウは、ミカン科サンショウ属の落葉高木で、中国、朝鮮半島、日本列島などに分布している。日本各地の自然集団を対象に、9つのSSRマーカーおよび26の核遺伝子座の塩基配列を用いて解析を行なった。その結果に基づいて、集団間の遺伝的分化や種の歴史的背景を推定した。

第7回

 静岡大学・連合農学部の安部淳博士をお迎えして、下記によりセミナーを行います。大学院生、学部学生の参加も大いに歓迎しますので、皆様ふるってご参加下さい。

 
日時 平成23年2月23日(水)16:00〜17:00
場所 16号館2階会議室

演題

 寄生バチにおける極端に雌に偏った性比の進化

講師

 安部 淳博士(静岡大学・連合農学部)

要旨

 どのような割合で雄と雌の子を産むべきかを考える性比調節の問題には、自らの戦略だけでなく、集団内の他個体の戦略も影響するため、個体間の駆け引きを考える上で好適な問題である。性比調節に関する研究は、理論研究と実証研究のインタラクションにより、進化生物学の中で最も成功を収めてきた分野のひとつでもある。しかし、寄生バチMelittobiaの示す極端な雌偏向性比(雄率1-5%)は、産卵時の状況によらずいつも偏った性比を示すため、これまでの理論だけでは説明することができない。今回の講演では、Melittobiaの性比をさらに雌に偏らせる新たな要因について紹介する。これまでのところ、その中でも殺し合いの雄間闘争の効果が最も有望である。後から羽化する雄が殺されやすいことが確認されたため、この効果を理論モデルに組み込んだところ、母親は雄間闘争を避けるように、少数の雄を少しずつ産むことが予測された。この予測は、実測性比に近づくだけでなく、実際の雄と雌の生産パターンにも定性的に一致することがわかった。さらに、Melittobiaの極端な雌偏向性比には、一緒に産卵している雌どうしが、お互いにとって有利になるように、協力的に雌を多く産んでいる可能性も考えられる。この効果について検討した現在進行中の研究についても紹介する。

問い合わせ

京都市北区上賀茂本山
京都産業大学 総合生命科学部事務室
Tel.075-705-1466