自分が中国で生活してきて感じたこと (Y.K.)

Y.K.


中国で生活してきて様々なものを自分の目で見てきて多くの体験を得ることができました。今回このレポートを書くにあたって、自分が中国人と交流する中で気付いた日本人との思想の違いをテーマとすることにしました。自分自身が体験した事柄、ここでは天津商学院の学生会からインタビューを受けた出来事を中心に記します。
こちらの天津商学院の学生会は学内新聞の発行・学内放送などを活動の主としている学生達によって運営されている組織で、その彼らが留学生に対しどの様な意見を持っているのか知りたいということでインタビュー形式で中国人の学生が留学生に質問し、その内容をテープに録音し後日学内放送で流したいとの申し入れがあり、一般留学生の自分を含め日本人4名が応じることになりました。


学内の喫茶店の一室で行われることになり、あらかじめ質問も教えてもらい挑むことになりました。中国人の学生も初めて日本人と接触するので多少緊張もしており態度も遠慮がちでした。主な質問内容は「何故中国語を学ぶのか?」から始まり「万里の長城をどう思うか?」「行った事のある都市でどんな印象をもっているか?」等、普通の質問が続き問題なく進んでいたのですが「国慶節を中国で過ごしてどの様な感想を持ちますか?」と聞かれ、今思えば多少傲慢であり、深く考えず思っていることを素直に述べました。「中国にとってこの50周年は大きな節目であり意義があるでしょうが、僕らにとって特別うれしい気持ちはありません。」と返答したところ、彼らは不愉快な表情を見せましたがなにも言わず「では軍事パレードについてどう思いますか?」との質問がきたので「僕らには武器をパレードに出す意図が分かりません。殺人の道具を美化するのには共感できません。」と答えました。もっと彼らの気持ちを尊重すべきだったのでしょうが、この時は我々日本人の意見を尊重してくれるものだと思っていたので、思うことをそのまま口に出しました。


が、彼らは逆に自分達の主張を述べてきました。「中国人にとって国が強くなることがうれしい。ミサイルなどの武器はあくまで防衛だけのためのものです。」と大きく反論してきました。以前にもこの様な話題を中国人と話し合う機会があったので大方の中国人の思想は似通ったものと認識していました。確かに日本自体が軍事方面において微妙な位置に存在するので他国の人間との考えは大きく違うでしょう。おそらく同じ日本人の中でも様々な意見がでてくると思われます。この場では自分達の正直な感想を言いました。


もう一つ取り上げたい話題として台湾の独立問題があります。我々は「台湾が独立を希望している。」と言うと「李登輝及び一部の人間が希望しているのであって総ての人間がそう望んでいるわけではない。」という意見でした。これに関しては留学にきてから北方の人もそのように言うのを何度か耳にしたことがありました。この点については大陸の思想というよりも民衆レベルでの情報が誤っているのではないかと思います。自分が実際に友人を通じて台湾在住の台湾人と連絡をとることができ、彼らが、つまり台湾人が一般的に大陸についてどんな風に見ているかを尋ねてきました。


その内容を簡単に記すと;


質問:「あなたは大陸からの独立を望みますか?」
回答:「台湾は長い間一つの国として生きてきており、文化・思想の面において大陸の人達と大きく異なっています。なによりも一つの国として台湾を見ており自分達も<中国系台湾人>であると自覚しています。がしかし今の、又、これからの状況でも完全に独立するというのはなかなか難しいでしょう。」


上記の回答について、これが世論に近いかどうか確認すると、若い世代の人々は大部分がこの意見と同じであるとの返事がきました。しかし、このことを学生会の学生に聞かせても「台湾はやはり中国の一部分であるから分裂は許されない。」と言ってきました。多くの日本人にとって民族問題は余り実感がないものだと思います。この会に参加した日本人は軽率ではあると思いますが、台湾の国民の世論を尊重すべきであると主張しました。中国人の学生の中には今武力を以てしてでも台湾を治めなければならない、との過激な考えもあるようです。以前北京である講演会が催された時に北京大学の学生代表が堂々とこの発言をしていたと友人から聞かされました。


自分は台湾人の主張と大陸、特に北方人との主張があまりに違うことを中国にきて初めて知りました。日本にいる頃は台湾は省の一つであるとの知識しかありませんでしたから、自分にとってこの問題は非常に興味深いものとして感じられました。台湾は中華人民共和国と異なる国名を持ち、貨幣単位は人民元を用いておらず、思想・文化面でも異なり多くの点で一つの国として存在しているととらえざるを得ない状況です。今年(1999年)10月に天津で開かれた世界体操選手権にも中国・台湾と2カ国で出場していました。自分自身台湾に行ったことはなく、なにぶん台湾人の話を聞いただけですのではっきりしたことは分かりませんが、この先中国と台湾がどの様に動き変化していくのか非常に興味もあり、同時に不安でもあります。


学生会のインタビューの話に戻りますが、結局この場は日本人の意見を聞くというよりも討論会の形になってしまいました。討論会になってしまったことは、そもそも学生会側は僕達の意見を聞く気は無かったのでしょう。中国の優れている点をほめているあいだは順調でしたが、彼らの思想を少しでも否定しようものなら強く反論して来る態度なので、途中何度も「自分達は思っていることを述べているだけです。元々君たちが留学生の感想を聞きたいと言って来たのではないですか。」と言っても自分達の発言は阻まれてしまいました。


結局学内で放送されたテープは大きく編集されていて、自分達が中国を賞賛している部分しか流されませんでした。元々彼らと同じ土俵の上に立たせてもらえなかったのだと痛感し、非常に残念でした。


この学生会との件を含め、北方の人間の思想面での統一を強く感じました。これには情報操作も多分に利用されていると思います。


以前自分がテレビを見ているときに戦後の日中関係の問題が放送されていて、中国にとって不満が残る結果だったらしく、報道の内容が日本をひどく批判するものでした。それを見ていた日本人の僕でさえ日本に対し多少なりの嫌悪感を覚えました。が翌日、友人がそのニュースに関しての記事をインターネット上で発見し教えてくれたところ、むしろ中国の報道内容に疑問を覚えました。中国国内で流れるニュースには中国の主観が強く入っており、日本の報道ニュースはまだ客観的であると思います。この、情報に一つの強烈な主観が入ってしまっているのは、日本の環境に住み慣れてしまっている自分にとって恐いものです。日本にも類似の状況は一部に見受けられますが、中国のように国民の思想を一つにまとめ上げる程までにはいきません。この大きな国、様々な民族が共存する国家を治めるための一つの手段であり、また国民性によるものなのでしょう。


今、ここまで中国人の思想の偏りについて書いてきましたが、先日広州の学生と交流している際に上記で取り上げた話題になり、聞いていると全く異なった意見を持っていることを知りました。一人だけでなく、他の友人にも質問してみたいと思い、同じ広州出身の男子学生一人、女子学生二人に一問ずつ尋ねてみると、大体彼らの意見は北方人と異なるものでした。彼らは北京の中央電視台を見ず、香港の電視台の番組を見て育って来ているので、その彼らからすると中央電視台は多少とも過激である、と感じているようです。台湾の独立問題に関しても、完全に独立してもかまわないとまで言っていました。


なによりも自分が一番驚いたのは、毛沢東に対しては、その文化大革命の失敗を大きな原因として、明確に批判の色を示したことです。自分は中国に来てまだ短いですが、この意見は自分にとって余りに予想外でした。彼ら南方の同じ世代の学生は大部分この様に考えているだろう、と言っていました。僕はこの「北方・南方」の思想の差に驚きましたが中国人は当たり前のことである、と思っているようです。北京・天津でも方言・風習が違うのだから南に行くとその差はさらに開くであろう、と学校の先生にも言われました。


この中国人の思想、北方人と南方人の考え方の違い等は、中国人と交流する中で自分が肌で感じ取り発見したものです。アンケートや統計を利用していない分、このレポートに偏りが見られるかもしれません。ここに記した内容も前学期の頃の自分と今の自分では受け取り方が大きく違って来ました。学生会のインタビューに参加した頃は中国の日本に対する感情を理解し難かったのですが、中国での生活が長くなってくると、過去の侵略戦争に対する反発が民間レベルで根強く残っていることを、自分なりに直視出来るようになりました。我々は民族、文化、習慣と多くの点で違いがあるのは当然ですから、どうしても相手を理解し共に発展して行かねばならないと思います。私の今回の留学では、語学修得が第一に大切な事柄ではありますが、中国の現状を見、中国人と交流することによって、今まで見えなかったものが見えるようになり、自分の知識・教養・人格形成において多大な影響を受けることが出来たと思います。


この、今回の留学の機会を与えてくれた両親と、アドバイスをいただいた先生方には大変感謝しています。今回のこの経験はこれからの自分の人生において大いに役立つものとなるはずです。

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