経営学部の岩城秀樹教授の論文が国際誌Economic Theoryに掲載

国際学術誌Economic Theoryに、経営学部の岩城秀樹教授らによる「不確実性下の意思決定における新たな理論」についての論文が掲載されました。同誌は経済学の中でも権威のある著名な国際専門誌で、わが国において掲載された研究者はごく少数であり、名誉なことと言えます。

掲載論文

“The Dual Theory of the Smooth Ambiguity Model” 滑らかな曖昧モデルにおける双対定理 Economic Theory

著者名

岩城秀樹(京都産業大学)、尾崎祐介(大阪産業大学)

研究内容の概要

背景

 起こり得る結果が事前には不明な状況の下での意思決定問題を考え、最適な意思決定を求めようとする経済学の分野を「不確実性下の経済学」と言います。不確実性下の経済学では、従来から意思決定基準として、期待効用理論が用いられていました。これは、どれが生起するか分からない状態に対して、選択した行動のもたらす結果の満足度(効用)の期待値を評価基準として、効用の期待値(期待効用)を最大化するような行動を選択するというものです。

 期待効用を用いるには、状態の生起確率が必要なわけですが、現実の意思決定と矛盾しないような確率分布を求めることは困難であり、確率分布が不明な場合の方が現実的です。経済学では、不確実性下の意思決定において、生起状態の確率分布が明らかでない場合を「曖昧性下での意思決定」と呼んでいます。曖昧性下の意思決定問題を解決する一つの考え方が、「2次信念」という考え方です。これは、意思決定者の生起状態の確率分布(1次信念)は確定的ではないが、分布のとり得る集合があり、1次信念の確率分布(2次信念)を考えるという考え方です。この考え方に基づいて、近年、特に注目されているのが、Klibanoffらが2005年のEconometrica誌で発表した「滑らかな曖昧性モデル(Smooth Ambiguity Model)」です。

 滑らかな曖昧性モデルは、各1次信念の下での期待効用値の満足度の2次信念の下で期待値、すなわち、1次信念下の期待効用の2次信念下での期待効用が意思決定基準を与えるというものです。滑らかな曖昧性モデルは、言わば、期待効用の期待効用ですから、他の曖昧性下の意思決定モデルと比較して、期待効用理論で培われてきたノウハウを適用しやすいというメリットがあります。

 しかしながら、二重の期待効用であるがゆえに、現実の意思決定問題を解決する上では、十分に実用的であるとはいえません。そこで、本研究では、この滑らかな曖昧性モデルを、より現実に使いやすい形で表現できないかということに取り組んできました。

成果

 我々は、いくつかの公理を用いることによって、滑らかな曖昧性モデルが、1次信念下の期待効用値のある増加関数値の2次信念の下での補分布関数値の積分形で表現できることを示しました。次いで、この増加関数を用いて、1次信念と2次信念の複合分布を考えることによって、滑らかな曖昧性モデルが、この複合分布の確率分布の下での効用の期待値で表現できることを示しました。

 この成果は、単に理論上の別表現をしたということだけではありません。二重の期待値を一重の期待値で表現したということにより、これまでに期待効用理論で培われたノウハウがよりダイレクトに曖昧性下の意思決定でも適用できるようになりますし、人々の曖昧性を回避する程度を測る上でも、従来の滑らかな曖昧性モデルと比較して、はるかに容易なものとなることから、現実問題の解決に向けてより一歩前進させたということになります。

今後の期待

 現実の曖昧性下での意思決定問題の解決手法への応用が期待されます。現時点では、本論文で導出された意思決定基準を、保険分野への応用、たとえば、市場均衡における保険料の算出や最適保険加入戦略の導出などを研究しています。

 本研究は日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C))の支援を受けて行った研究成果の一つです。

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