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人権教育啓発講演会「病(やま)いとスティグマ 〜結核、ハンセン病、エイズの場合」

教育プログラムの導入が重要であると
語る鬼塚教授
平成20年度 人権教育啓発講演会(人権委員会主催)は7月9日(水)、図書館ホールで開催され、文化学部 鬼塚哲郎(おにつか てつろう) 教授が 「病いとスティグマ 〜結核、ハンセン病、エイズの場合」と題して講演し、教職員、学生等約50人が参加した。鬼塚教授はパワーポイントの資料に沿って話を進めた。
感染症に対して社会がどう対応してきたか。結核の場合、感染力が強く、「誰もが罹りうる病気」という概念が政策を通じて社会に行き渡ったので、感染した人たちが差別されることは起こりにくかった。ハンセン病は逆に、感染力は極めて弱いにもかかわらず、もしくはまさにそれゆえに、「誰もが罹りうる病気」という概念が生まれにくく、近代以前からあった「業病」「遺伝病」といった偏見が克服されず、民族浄化思想、優性思想を背景に政策的にむしろ増長された。
エイズの場合、病原体の感染力が結核に比べはるかに低いため、感染は性行為や薬物注射などプライベートな時空間における人と人との親密な関係を通じてのみ拡がっていくことから、国や社会の管理が及びにくく、またスティグマ(偏見)をつけられやすい。
HIVウィルスは人種・国境・国籍などのバリアを軽々と越え、世界の生存HIV感染者数(2006年末)は約4000万人と広く進行しつつある。エイズ予防がはかどらない理由に社会的脆弱性(Social vulnerability)があげられる。HIV感染に関してVulnerableな(脆弱な)集団は、アジアの文脈では、セックスワーカー&クライアント、薬物静注者、MSM(Men who have sex with men)、受刑者、移動労働者、軍隊、これら男性集団のパートナーである女性、そして難民などである。これらの人々は情報・医療サービスへのアクセスが困難である場合が多い。また社会的脆弱性を形作っているものとして1.貧困、2.低教育、3.女性/少数者への差別・抑圧があげられる。またMSMの場合は密な性的ネットワークを形成しており、感染しやすい要因となっている。ちなみに本学男子学生数を10,000人とすると5人〜20人がHIVに感染していると推定され、自分たちの問題として捉える段階に来ている。感染が拡がる理由としては(1)医学的困難(激しい変異性→ワクチン開発の困難、耐性ウイルスの出現)。(2)社会的困難(性行為や薬物使用など行動変容の難しい行為、人の油断を誘う等)が挙げられる。差別偏見を誘うことも一因して、国としても対策が進んでいない。しかしこれらが放置された結果、国内の一般集団においてはHIV感染前夜の状態となっている。特に若者層においては性的健康教育の不徹底→性的健康への無関心→情報・医療サービスへのアクセスが困難→リスクの高いセックスという悪循環が生じている。これらの社会的脆弱性をどう克服するかについては、学校における教育プログラムの導入が最も遅れており、かつ重要である。また感染症対策の協働モデルを披露。一次予防としての予防啓発、二次予防=検査、三次予防=治療・ケア・アドボカシーの三つの領域が互いに連携していくこと、またその連携において行政、医療機関などの専門職集団、NPOなどの民間セクターの三者が参画することが大切である。
最後に三つの感染症から何を学ぶかについては、かつてハンセン病問題に携わった市民の経験がエイズ対策に活かされ、その後今度は薬害エイズ訴訟における弁護団の経験がハンセン病国賠訴訟に活かされるということが現実に起こっており、社会がこれまで感染症にどう対処してきたかを学ぶことが大切である。エイズは誰もが罹る可能性のある病気として、人々の偏見(スティグマ)を払拭すること。もし罹った場合でも、我が国においては治療・ケア・アドボカシーの仕組みはひととおり整備されていることを含め、誰もがこの病いに対して理解していくように対策を講じる必要があると述べた。