邦楽家の重森 三果氏が語る「三味線の世界」

2021.05.28

三味線を手に取り講義する重森氏
共通教育科目「京都の伝統文化」が2021年5月12日、オンラインで実施され、邦楽家で三味線奏者の重森 三果(しげもり みか)氏が登壇し、三味線の魅力や歴史について講義しました。
 
重森氏は本学外国語学部イタリア語学科の卒業生。幼い頃から三味線や生け花など数々の日本の伝統文化に触れ、大学では、世界の文化についても学んでみたいという思いから、イタリア語を専攻したそうです。

講義の前に、新型コロナウイルスによる影響と、オンライン形式での講義にかける思いについて話されました。「今の大学生がいろいろな文化を遠くの地へ出向いて実際に学ぶことが難しい状況にあるのと同じく、私たち邦楽家も文化活動が思うようにできない大変な時期にある」と述べ、そんな時こそオンラインを活用するなど、今までにない“新しい形式”で、邦楽を多くの方に知ってもらえるよう精力的に活動しているそうです。今回の講義もその一環であるとし、「今だからできることを学んで、ポジティブに困難なこの時期を乗り越えていきましょう」と、明るいメッセージを発信されました。

まず取り上げられたのが、三味線が日本で生まれるまでの歴史について。16世紀後半、中国から琉球(現在の沖縄)に伝わり「三絃(サンシェン)」という楽器が日本で改良され、「三線」が誕生しました。その三線が、後に堺(大阪)の港に伝わり、手にした当時の演奏家たちが更に改良を重ね、三味線が生まれました。三線では胴体に蛇皮が貼ってあるのに対し、三味線では猫もしくは犬の皮が貼られているのが決定的に違う要素です。「三味線音楽は、“音色”にとてもこだわる」と重森氏。現代では、動物愛護運動が盛んであることを背景に、動物の皮が手に入りにくくなっているそうで、動物の皮が奏でる高い品質の音色にこだわりながらも、それに代わる和紙の開発も進められています。
カメラに三味線を近づけ構造について解説する重森氏
続いて、三味線の構造や各パーツを詳しく説明。中でも特徴的なパーツである「サワリ」について、実演による解説が行われました。サワリとは、三味線の独特な音色の味わいを決める重要なパーツであり、持ち手(棹)の上部、絃を支えるパーツの「上駒」に付属しています。三味線に張ってある3本の絃のうち、一番太い「一の糸」と呼ばれる絃にのみ働き、一の糸を弾いていないときでもその他の絃が弾かれるのと共に雑音のような響きを奏でるようになります。昔とは違い、現代は職人の技術革新により、ねじのようなパーツを調節することで、人為的にサワリをつけたり外したりすることが可能になったそうです。

(サワリがつくか外れるかによる音色の違いを解説する重森氏 “雑音のような響き”が感じられる)
 
 
講義の後半には、三味線の演奏に用いられる楽譜の説明や、現代まで受け継がれる代表的な“歌いもの”(三味線を伴奏に歌う音楽)、『祇園小唄』の演奏が行われました。

楽譜には、三味線の絃を上から見たような三本線が引かれ、音符の代わりに数字が用いられています。中でも特徴的なのが、「ドン」、「チン」、「テン」などのオノマトペの表記があるところ。これは「口三味線」という、日本の独特な音楽の教授方法「唱歌」の一つです。太鼓なら「てれつくてん」、笛なら「つ~ぴーひゃら」などのように、音のリズムを口で表現することによって稽古の補助的な役割を果たすそうです。

『祇園小唄』とは、京都で舞妓や芸妓がおもてなし文化を担う土地「五花街」で舞われる代表的な曲のこと。しかし、元々は舞われるための曲ではありませんでした。京都が映画産業で発展した1930年、サイレント映画『祇園小唄 絵日傘 舞ひの袖』が公開され、その主題歌として『祇園小唄』が生まれたそうです。主題歌は映画と共に大ヒットした後、五花街で有名になり、現代のように舞妓や芸妓が舞う定番の曲となりました。

講義の最後には、気軽に三味線の魅力を楽しめる動画について紹介がありました。

『大江山酒吞童子』 絵巻物とのコラボレーション

こちらの動画では、国際日本文化研究センターに所蔵されている絵巻物『酒呑童子繪巻(しゅてんどうじえまき)』と、重森氏の三味線の弾き語り『大江山酒呑童子(おおえやまのしゅてんどうじ)』を同時に鑑賞することができます。英語の字幕も付いており、国籍問わず誰でも楽しめるのがみそ。コロナ禍ならではの画期的な取り組みです。

重森氏は「この講義を通して少しでも三味線を身近な楽器として感じていただけたら嬉しい」と笑顔で締めくくり、講義を終えられました。

(重森氏による演奏『祇園小唄』「みなさんも一緒に歌ってみましょう」と声をかけ、しなやかな手つきで演奏された)
 
 

コロナ禍でも前向きに文化復興に尽力する重森氏の姿に、「この前向きな力こそが伝統文化を継承し続けるための秘訣なのだろう」と勇気づけられました。この記事には、三味線の音をできるだけリアルにお伝えするため、写真に加えてビデオを挿入しています。京都の文化に興味がある方にも、そうでない方にもぜひご覧いただき、三味線と邦楽の魅力を楽しむ一助になれば幸いです。
(学生ライター  外国語学部3年次 福崎 真子)
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