龍村 周氏が京都の伝統文化「錦織物の魅力」について講演

2021.05.12

画面越しの受講生に向け、語りかける龍村氏
共通教育科目「京都の伝統文化」が2021年4月28日、オンラインで実施され、錦の伝統織物作家である龍村 周(たつむら あまね)氏が登壇し、錦織物の魅力や歴史について講義しました。

明治時代、伝統的な織物の研究に勤しみ、織物自体の価値を高めた歴史的人物である初代の龍村 平蔵(たつむら へいぞう)氏。錦織物美術のパイオニアとして地位を確立し、二代平蔵、その息子光峯とにわたり国内外に通用する唯一無二の技術を継承してきました。初代のひ孫になる登壇者の龍村 周氏はその四代目にあたります。
講義では、原材料となる絹糸の作り方、錦織物が出来上がるまでの作業工程、錦織物の特徴、織物文化事業の心得などを、写真や図、実物の作品を示しながら説明しました。

講義の序盤、「錦織と西陣織は何が違うのかとよく聞かれる」と話を切り出され、「錦」という言葉の意味から説明。
錦とは古来から“錦の御旗”、“錦秋”、“錦鯉”など、美しいものの代名詞として使われる他、「金に値する織物」という意味があります。そこから、特有の立体感があり、繊細で複雑で多彩な織物、日本の美である“錦”を目指しものづくりをしています。一方「西陣織」とは、昔、職人たちが京都(西陣)で織物業を営んだ当時の伝統を引き継ごうという意味を込めて「西陣織工業組合」が登録した“商標”のこと。「生産量の少ない、京都で生産される先染(さきぞめ)の紋織物」*を総称して呼ぶそうです。

*参考:西陣織工業組合ホームページ(西陣織とは | 西陣織工業組合 (nishijin.or.jp))

錦織は様々な場面で使われています。龍村氏は帯やタペストリーをはじめ、打掛(女性が結婚式で使う着物)や能装束、現代では財布や名刺入れなどの日用品、自然の風景をリアルに再現した絵画のような錦織美術作品まで制作しています。

文化学部の吉澤健吉教授と錦織の魅力について語り合った
講義の終盤には、織物文化事業を担う心得について説明。絹糸は蚕の繭から、高機(機を織る機械)は木から作られている…というように、自然無くして織物は完成しないことから、織物とは“自然に添う技術”であることを常に意識してものづくりをされているそうです。さらに、もう一つ意識されているのが「翻古為新(ほんこいしん)」という言葉。これは四字熟語の「温故知新」になぞらえて作られ、龍村家初代から受け継がれる心得なのだとか。意味は「古きを翻して新しきを為す」。伝統を守っていくだけではなく、常に“創造的”にものづくりを続け、後世に伝えていくという思いが込められています。

講義の最後には、龍村氏の会社で行っている「錦織物の工房見学・機織体験」の紹介がありました。職人の方から直接話を聞けたり、実際に機織り機を動かせたり、錦織物の魅力をたっぷり味わえる見学・体験だそうです。「工房見学は、コロナ禍なので今は難しいですが、興味のある人はぜひ来てみてほしい。今回の講義で織物の文化を少しでも楽しんでいただけていたらなと思う」と、受講生にメッセージを送って締めくくりました。

錦の伝統織物 光峯KOHO HPはこちら(錦の伝統織物 光峯錦織工房 (koho-tatsumura.com)

取材時に見せていただいた実物の作品からは、目を見張るほど上品で美しい輝きが感じられました。文化を守り抜き継承し続けていくことに加え、常に創造力を持ち続けねばならないという「翻古為新」の心得は、文化を学ぶ全ての学生と共有したいと思いました。時を経てもなお錦織物が愛され続け、価値の高い文化として認められている理由は、外部環境が著しく移り変わる現代に対応するように、龍村氏の創造力が共にあるからなのかもしれません。

(学生ライター 外国語学部3年次 福崎 真子)
錦織物の作品をカメラに向ける龍村氏
作品の一種 その表面は一際繊細な輝きを放っている
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