側頭葉てんかんモデルマウスを用いた、新規の尿中揮発性有機化合物・バイオマーカーを発見
2019.07.25
京都産業大学生命科学部 加藤 啓子教授と藤田 明子研究助教らのグループは、「側頭葉てんかんモデルマウスを用いた、新規の尿中揮発性有機化合物・バイオマーカー」を発見しました。
【本件のポイント】
- 情動中枢として知られている扁桃体の外側基底核に電極を挿入し、辺縁系回路(海馬→視床前核→大脳皮質帯状回)を刺激することでてんかん発作を誘導する、側頭葉てんかんモデルマウスを作成した。このてんかんモデルマウスの尿を採取し、尿中揮発性有機化合物をガスクロマトグラフィー質量分析計により検出した。
- 新規のてんかんバイオマーカー候補物質として、15個の揮発性有機化合物 (Volatile organic compounds, VOCs)が検出された。そのうちの13個は、物質名を特定することができた。
- 受信者動作特性曲線(Receiver Operating Characteristic(ROC))分析、主成分分析、クラスター分析、ステップワイズ線形判別分析により、バイオマーカーを評価した。
- 受信者動作特性曲線(Receiver Operating Characteristic(ROC))分析の結果、15個のVOCsは、3個の著しく能力の高いバイオマーカーと、11個の高い能力をもつバイオマーカーを含むことがわかった(Table 2)。
- 15個のVOCs(バイオマーカー)を使った主成分分析(回転なし)の結果、てんかんモデルマウスと手術後未刺激(コントロール)マウスを完全に分別できた。このことは、「15個のバイオマーカーはてんかんを判別できる」ことの証明となった。
- 15個のVOCはバイオマーカーのグループとしては大きいので、いくつかの小さなグループに分類するように試みた。そこで、主成分分析(PCA)を行うことで、変数の数を減らし、クラスター分析を用いてVOCを分類し、ステップワイズ線形判別分析を用いて数を絞り込んだ。具体的には、物質名が特定できている13個のVOCs(バイオマーカー)を使った主成分分析(プロマックス回転)と、クラスター分析(樹状図)により、13個のバイオマーカーを3つのグループに分けることができた。次に、ステップワイズ線形判別分析により、3つのVOCs(methanethiol; disulfide, dimethyl; and 2-butanone)の抽出に成功し、さらにこの3つのバイオマーカーは、先に分類した3グループに、それぞれ帰属した。
背景
てんかんは、ヒト・ネコで1%、イヌで平均2~3%に発症する頻度の高い慢性神経疾患である。その原因は遺伝的素因に起因した突発性の場合と、ガン化・虚血・水頭症等も含めた二次的な素因に起因した症侯性の場合によるものが知られている。根本的な障害は、経回路網の異常な同期性放電による。てんかん患者・患畜の約20~30%は、てんかん薬に対する抵抗性を獲得する難治てんかんへと進行し、複数の抗てんかん薬の調整や外科治療などの専門的なてんかん治療を必要とする場合がある。
てんかん患者は、小児では発達や就学、成人では就労や自動車運転、女性では妊娠と出産など、生活上のさまざまな問題に対する継続的なサポートを必要としている。てんかん発作が発症する可能性を簡便に検査できるキットがあれば、患者に多大な安心を与えると共に、福祉的ケアサポートの助けとなる。
イヌの死亡原因の第4位は、てんかん発作である。言葉でコミュニケーションをとることが難しい動物の場合、病気の発見が遅れることが多く、特にてんかん発作は、重篤化した後に見つけられることが多い。動物の場合、侵襲性のある検査は、麻酔を必要とすることが多く、てんかん診断のために脳波を測定する場合にも全身麻酔を必要とする。このため、非侵襲性の尿検査は、イヌやネコなどの伴侶動物のてんかん発症の早期診断を可能にする。
てんかんモデルマウスは、難治てんかん発症の50%が発火点となる側頭葉に含まれる扁桃体神経核(外側基底核)に微小電極を挿入し、1日1度微細な電流(450μA, 60Hz, 2秒)を与えると、約3週間後にてんかんを発症する扁桃体キンドリングモデルマウスである。このモデルは、1969年にラットで開発されたモデルである。イヌ、ネコ、サル等の哺乳類全般でも同様のてんかん発作を誘導するモデルであり、マウスにおいては2003年に発表者が確立した。すべてのモデル動物の症状はヒトの側頭葉てんかんと酷似している。以上のことから、非侵襲性の尿検査システムで利用できるバイオマーカーの発見は、社会に広く求められる技術である。
てんかん患者は、小児では発達や就学、成人では就労や自動車運転、女性では妊娠と出産など、生活上のさまざまな問題に対する継続的なサポートを必要としている。てんかん発作が発症する可能性を簡便に検査できるキットがあれば、患者に多大な安心を与えると共に、福祉的ケアサポートの助けとなる。
イヌの死亡原因の第4位は、てんかん発作である。言葉でコミュニケーションをとることが難しい動物の場合、病気の発見が遅れることが多く、特にてんかん発作は、重篤化した後に見つけられることが多い。動物の場合、侵襲性のある検査は、麻酔を必要とすることが多く、てんかん診断のために脳波を測定する場合にも全身麻酔を必要とする。このため、非侵襲性の尿検査は、イヌやネコなどの伴侶動物のてんかん発症の早期診断を可能にする。
てんかんモデルマウスは、難治てんかん発症の50%が発火点となる側頭葉に含まれる扁桃体神経核(外側基底核)に微小電極を挿入し、1日1度微細な電流(450μA, 60Hz, 2秒)を与えると、約3週間後にてんかんを発症する扁桃体キンドリングモデルマウスである。このモデルは、1969年にラットで開発されたモデルである。イヌ、ネコ、サル等の哺乳類全般でも同様のてんかん発作を誘導するモデルであり、マウスにおいては2003年に発表者が確立した。すべてのモデル動物の症状はヒトの側頭葉てんかんと酷似している。以上のことから、非侵襲性の尿検査システムで利用できるバイオマーカーの発見は、社会に広く求められる技術である。
内容と成果
マウスてんかんモデルの尿中揮発性有機化合物(VOCs)から、てんかんのバイオマーカーの発見に成功した。具体的には、15個のVOCs(バイオマーカー)中13個のVOCsについて、物質の特定に成功した。15個のVOCsはバイオマーカーのグループとしては大きいので、いくつかの小さなグループに分類するように試みた結果、3つのグループに分類することができ、それぞれのグループから、3つVOCs(methanethiol; disulfide, dimethyl; and 2-butanone)の抽出に成功した。
さらに発表者らは,物質名が特定できた13個のVOCsが尿中の最終代謝産物であることを理由に,てんかん発作が影響する生体内での代謝システムを逆行性に探った。その結果、てんかん発作がトランス硫酸化、メチオニンーホモシステインサイクル、ヒスチジン代謝系に影響すること、また、腸内細菌の脂肪酸代謝や解糖系に影響を与えていることが見つかってきた。今回用いた疾患モデルがマウスであり、マウスは哺乳類であること、さらに、13個のVOCsのうち11個がヒトの尿、便、血、液、唾液等において検出されていることから、今回の発見は,ヒトや伴侶動物にも十分外挿可能である。
さらに発表者らは,物質名が特定できた13個のVOCsが尿中の最終代謝産物であることを理由に,てんかん発作が影響する生体内での代謝システムを逆行性に探った。その結果、てんかん発作がトランス硫酸化、メチオニンーホモシステインサイクル、ヒスチジン代謝系に影響すること、また、腸内細菌の脂肪酸代謝や解糖系に影響を与えていることが見つかってきた。今回用いた疾患モデルがマウスであり、マウスは哺乳類であること、さらに、13個のVOCsのうち11個がヒトの尿、便、血、液、唾液等において検出されていることから、今回の発見は,ヒトや伴侶動物にも十分外挿可能である。
今後の展開
今回論文で発表されるバイオマーカーは、扁桃体キンドリングモデルマウスの尿中に検出した揮発性有機化合物であり、哺乳類全般に通じるてんかん発作に連動した尿中揮発性有機化合物である。このことから、ヒトや、犬や猫等の伴侶動物にも応用できる可能性が高い。また,臨床現場の一次スクリーニングとして、運輸会社や公共施設に応用することで、故を未然に防ぐことができるかもしれない。加えて、マウスモデルを用いた創薬スクリーニングへの利用も提案していきたい。
論文タイトル
英文:Urinary volatile metabolites of amygdala-kindled mice reveal novel biomarkers associated with temporal lobe epilepsy
和文:扁桃体キンドリングマウスの尿中揮発性代謝産物は、側頭葉てんかんの新規バイオマーカーを表わす
著者
藤田 明子(京都産業大学)
太田真菜美(京都産業大学 生命科学研究科 2019年3月修了)
加藤 啓子(京都産業大学)
責任著者
加藤 啓子(京都産業大学)
事業・研究領域・研究課題
- 平成27〜29年度 基盤研究(C)一般 15K07774(研究代表者:加藤啓子)
- 平成28年度 水谷糖質科学振興財団,第23回研究助成(208号)(研究代表者:加藤啓子)
参考図

本試験において、16匹のてんかんマウスと15匹の手術後未刺激マウス(対照群)を調べた。手術10日後から無拘束で意識下のマウス(10週齢)に対し、電気刺激装(SEN-3301,日本光電)とアイソレータ(SS-202J)を用いて、二相性方形波パルス(480μA,60Hz,200μ秒を2秒間)を1日に1回、扁桃体外側基底核に与えた。1日1回の扁桃体への刺激によって、てんかん後発射時のスパイク数の増加、てんかん後発射期間の延長、最終的にてんかん発作を誘発した。尿サンプルは、てんかん発作後、13.5週齢~18.5週齢で採取した。

尿を固相マイクロ抽出後にガスクロマトグラフィ・マススペクトロメトリ(GC-MS)解析を行った。図中の番号は,85%以上のSIを示す代謝物を意味する。各番号の化合物は,下記の通りである。1) Carbon dioxide/Carbamic acid, monoammonium salt/dl-Alanyl-l-alanine; 2) Methylamine, N,N-dimethyl-; 3) Methanethiol; 4) Acetone; 5) 2-Butanone; 6) Butanal, 2-methyl-; 7) Ethanol; 8) 2-Hexenal, 2-ethyl-; 9) 2-Pentanone; 10) 2-Pentenal, 2,4,4-trimethyl-; 11) Disulfide, dimethyl; 12) Butanenitrile, 2-methyl-; 13) 3-Penten-2-one; 14) 1-Butanol; 15) RI1148; 16) Methane, nitro-; 17) 2-Heptanone; 18) 4-Hepten-2-one, (E)-; 19) 5-Oxohexanenitrile; 20) 2-Acetyl-1-pyrroline; 21) Dimethyl trisulfide; 22) 1-Nitro-2-methyl propene; 23) 7-Exo-ethyl-5-methyl-6,8-dioxabicyclo[3.2.1]oct-3-ene; 24) Benzaldehyde; 25) Butanoic acid, 3-methyl-; 26) Acetophenone; 27) Disulfide, methyl (methylthio)methyl; 28) Benzenamine, 3-methyl-; 29) Hexanoic acid, 2-ethyl-; 30) Ethanone, 1-(1H-pyrrol-2-yl)-; 31) Formamide, N-phenyl-。



- お問い合わせ先
-
研究に関すること:
加藤 啓子(かとうけいこ)kato@cc.kyoto-su.ac.jp
藤田 明子(ふじたあきこ)a_fujita@cc.kyoto-su.ac.jp
603-8555 京都市北区上賀茂本山
京都産業大学 生命科学部 先端生命科学科,生命科学研究科
取材について:京都産業大学 広報部
Tel.075-705-1411