経済学部 大西 辰彦 教授

地域の魅力を発信し、人口減少を食い止める

現状を放置しておくと、全国で約500の自治体が消滅する。
そんなショッキングなレポートが公開されました。
確かに高齢化が進む地方では、若い人の流出が続き、人口減少に歯止めがかかりません。
そんな状況の中で、京都府井手町において、人口減少を食い止めるための地域と大学の連携による「域学連携」のモデルケースづくりに取り組んでいます。

井手町と大学による連携協力包括協定

 京都府綴喜郡、奈良県との県境に近いあたりに人口約8000人の小さな町、井手町があります。この町から、人口減少対策のプラン作りを依頼されました。人口減少を食い止めるための検討委員会を立ち上げるので、座長として提言をまとめて欲しいとの要請です。これを受けて平成25年3月に提言を出し、提言に基づいた活動を行うために井手町と本学の連携協力包括協定を京都府の立ち会いのもと、平成25年8月に締結しました。京都府が加わった理由は、本プランを全面的にバックアップすることを通じて、府下全域に展開するモデルケース作りを視野に入れているからです。『町の仕事人』として実際に府の職員を派遣したことが、山田・京都府知事の本気度を示しています。
 本学からは私のゼミ生が参加しています。大西ゼミ、イコール井手町応援隊です。この活動は『井手町イノベーティングチャレンジ事業』として事業化され、今年4月からは町の予算も付きました。また、井手町から新たなリクエストとして、若い女性から見て魅力的な町であるためにはどうあるべきかとの課題も出されています

定住人口を増やすために交流人口を増やす

 人口減少を食い止めるための最終的なゴールは、定住人口、それも若い人たちを増やすことです。そのためには町に魅力を感じてもらい、UターンやIターンを含めて、外部からの人口流入を促す必要があります。とはいえ、一足飛びにそこまで持っていくのは難しいため、まず交流人口の増加を最初の課題としました。
 観光でも、遊びでもいいから、とにかく町まで足を運んでもらう。実際に町を見てもらえば、数多くの魅力の発見があるはずです。みずみずしい水田に囲まれた日本の原風景のような心やすらぐ土地には、奈良と京都の中間地域ならではの文化的な資源も多く残されています。町の住民は、みんな心あたたかな人たちばかりです。とにかく一度来てもらえれば、その魅力を理解してくれる人が増えると考えました。
 そこで学生の活動としては、さまざまなイベントを通じて井手町の魅力を伝えることに重点を置きました。例えば町を紹介するパンフレットを作成して配り、本学の学園祭である「神山祭」では町の特産品を使った商品販売を行っています。今年の神山祭では、流行りのゆるキャラ「いでたん」を呼んで集客を促す企画も実行しました。
 一方で、実際に町で暮らして、より深い魅力を知ってもらう『民泊』企画が進んでいます。空き家を改装し、一ヶ月ほど滞在して農業体験などを行います。学生のインターンシップとしても使えるので、京都の他大学にも声をかけています。短期間とはいえ、実際にそこで暮らして、町おこしに取り組む活動は、定住につながるプログラムとして期待しています。

活動を通じて、学生が大きく成長する

 井手町での活動が知られているせいか、私のゼミには地域経済に強い関心を持つ学生が集まります。地方出身で本学に在学している学生も多く、自分の故郷が疲弊していく様子を目の当たりにしています。そのため井手町での体験を、地元に戻って活かしたいと考えているようです。
 モチベーションの高い学生たちが揃っているので、私も活動のハードルをあえて高く設定しています。概念的な例示になりますが、とにかく多くの人を巻き込むよう指示しています。自分たちで考えた企画を、自分たちの思うように実施するだけでは単なる自己満足に過ぎません。井手町には12団体が所属する「井手町まちづくり協議会」があり、役場の職員さんがいて、企業もある。そこに地元の商店や農家の人もすべて巻き込んで活動するよう学生に指示しています。
 その狙いは2つあり、まずは学問的に多様な学びを深めてもらうことです。さらにはさまざまな人と触れ合う中で人間性を高めてほしいのです。文化が違い価値観の異なる人と一緒に活動するのは、とても大変です。けれども、目的は共有しているため努力すれば必ずどこかで折り合うことができる。町おこしにかける思いをぶつけ合い、みんなの力をまとめながらプロジェクトを進めていくことで、学生たちは驚くほど成長します。相手との交渉により、コミュニケーション能力が飛躍的に高まり、チーム活動を円滑に行うための「報・連・相」などを通じて、組織的な意思決定の仕組みや文章力も磨かれます。結果的に就職活動にも有利に働いているようです。

実践から理論へ、専門科目の学びも変わる

 町で実際に活動する学生たちにとって、地元の方々とのふれあいは強烈な印象として残り、人間性をより豊かにする貴重な経験です。地域の方にとっても、町に若者が来ると世代間交流が生まれ、活気が出るというお互いにとってよい効果を生み出しています。また、交流活動が町民の方々にも自らの町の魅力を再発見してもらう契機にもなっています。
 また、この活動は、自治体の政策を実践的に学ぶ格好の機会にもなります。地域活性化のための施策を調べ、活動に役立つ助成金などがあれば、積極的に申請するよう指導しています。京都府からはいろいろな助成制度や支援制度が整備されているので、それらを自分たちで調べて活用することで、現場から地域政策の一端を学ぶ機会にもなるのです。
 地域の人口減少対策は、つまるところハード、ソフト両面からの魅力ある町づくりが鍵を握ることになりますが、一方で、財政的な限界や過疎問題など様々な構造的課題がその底流に横たわっています。学生たちはここで紹介したような現場での活動を通じ、その苦悩を肌感覚で知ることになります。そして、その気づきや体験こそが、解決の糸口を示唆する科学としての経済学を学ぶ大きなモチベーションになっています。それは学生たちの専門科目に対する学びの姿勢の変化を見ても明らかです。現在の活動の中心は4年生から3年生に移行しています。そして、4年生は自らの実践経験をもとに研究論文の作成に勤しんでいます。こうした活動の継続性はゼミ活動として行うことの大きなメリットでもあります。実践から理論へ、そして再び実践へ。彼らが地域に戻って活躍する姿を想像するだけで胸が躍ります。

経済学部 大西 辰彦 教授

1981年 関西学院大学法学部卒業
1981年 京都府庁
2002年 京都リサーチパーク(株)
2004年 関西学院大学大学院商学研究科修士課程修了
2006年 京都学園大学経済学部教授
2011年 京都産業大学経済学部教授
2014年 京都産業大学副学長
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