植物ゲノム科学研究センターを支える研究員、スタッフ

京都産業大学 植物ゲノム科学研究センターでは、光合成の場であり、植物細胞の代謝の中心をなす葉緑体と、呼吸により生命活動に必要なエネルギーを生み出すミトコンドリアの二つのオルガネラを中心に、さまざまなテーマで研究を行っています。これらの研究の中から、将来、私達の生活に大きく貢献する成果が生み出されるかもしれません。本ページでは各研究を支える研究員、スタッフを紹介します。

植物ゲノム科学研究センター 研究員 辻村 真衣さん

2005年 京都産業大学工学部生物工学科 卒業
2007年 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科博士前期課程 修了
(バイオサイエンス修士)
2007年 一般企業に就職
2009年 京都産業大学 研究員

成功すれば世界初 コムギの葉緑体の遺伝子組換えに挑む

サンプル調製自動化装置。多数のサンプルから
DNAやRNAを自動的に抽出できる

 私の研究対象は世界の主要作物のひとつであるコムギです。その葉緑体のDNAを組換えて、より優れた特質を持つ植物を作ることを目指しています。現在取り組んでいるのは、強い光や暑さ、寒さなどのストレスに耐え、過酷な環境でも育つコムギを作ることです。そのため、有害な活性酸素を消去可能な酵素を作る遺伝子を、葉緑体DNAに組み込もうとしています。

 世界中の研究者が挑戦しているものの、コムギで葉緑体の遺伝子組換えに成功した例は、まだ一つもありません。遺伝子を導入する最適な条件を見つけることが非常に難しいためです。私たちのグループでは、遺伝子を撃ち込む材料である未熟胚から、カルスを経て、個体へと至るサイクル(再分化系)を確立することはできています。しかし、どのような条件下であれば確実に遺伝子が葉緑体へ入るのかは、まだわかっておらず、それを現在探り続けています。テーマはもう一つあります。コムギのミトコンドリアのゲノム配列の解析です。対象はコムギとその近縁野生種。この研究でコムギの進化の全貌が明らかになると考えています。

植物ゲノム科学研究センター 研究員 吉見 麻衣子さん

2005年 京都産業大学工学部生物工学科 卒業
2007年 京都産業大学大学院工学研究科生物工学専攻博士前期課程 修了
(工学修士)
2007年 一般企業に就職
2009年 京都産業大学 研究員

ナスの細胞質雄性不稔と稔性回復のメカニズムを解明したい

サーマルサイクラー。
PCR法によりDNA断片を増幅させる機器。

 ナスは日本で生産される主要な野菜の一つですが、細胞質雄性不稔(CMS)を利用した育種はこれまで行われたことはありません。またミトコンドリアにあるCMSの原因遺伝子もわかっていませんでした。私の研究テーマは、その原因遺伝子を見つけ、ナスがCMSを引き起こす機構を解明することです。ナスにおける雄性不稔の表現型は、細胞質の違いによって、花粉形成不全型と葯裂開不全型の二つの型に区別できますが、前者については、我々の研究から、原因遺伝子を概ね特定できつつあります(Yoshimi et al. 2013)。

 一方、雄性不稔は、核ゲノム上に存在する稔性回復遺伝子(Rf 遺伝子)の働きで抑えられることがわかっています。これは雄性不稔が、ミトコンドリアと核の双方の遺伝子の相互作用によって現れることを示しています。花粉形成不全型のナスについては、Rf 遺伝子の存在が遺伝学的に特定されています。本研究センターでは、このRf 遺伝子のクローニングを試みており、現在は、それに連鎖するDNAマーカーの開発を行っています。

植物ゲノム科学研究センター 研究員 ギャワリ ヤダフ プラサドさん

1998年 トリブバン大学 講師
2002年 カトマンドモデル大学 講師
2003年 韓国 釜慶国立大学 プロジェクトアシスタント
2010年 京都大学大学院農学研究科 博士号取得
2010年 京都産業大学 研究員

コムギの表現型とミトコンドリアDNAの関係を探る

電気泳動装置。DNAの長さや性状を調べる。

 近縁野生種を母親にして、コムギの花粉を毎世代交雑し続けると、異なる種の細胞質を持った「核・細胞質雑種コムギ」を育成することができます。このコムギは、たとえば雄性不稔、半数体の誘発、出穂遅延、といったさまざまな特徴(表現型)を示すので、育種の素材として重要です。

 そうした特徴が発現するに当たってミトコンドリアのDNAが重要な役目を果たしていると考えられますが、そのメカニズムはまだ解明されていません。私は、パンコムギの核とAegilops mutica(種名)の細胞質からできた2系統と、パンコムギの核とAegilops geniculata(種名)の細胞質からできた1系統の、計3系統のコムギから、それぞれミトコンドリアDNAを取り出して、その塩基配列を完全に解読しました。そのデータを詳細に比較することで、ミトコンドリアDNAの構造の違いと表現型の関連を解析しようとしています。ダイコンやナスで明らかになったように、近い将来、コムギにおいても雄性不稔が起こるメカニズムが見えてくると考えています。

京都産業大学 職員 山下 陽子さん

2005年 京都産業大学工学部生物工学科 卒業
2005年 京都産業大学 嘱託職員
2010年 京都産業大学 退職
2010年 WDB(株)より京都産業大学へ派遣
2011年 京都産業大学 嘱託職員

細胞融合によって害虫に強いキャベツを作り出す

融合細胞から植物を再分化させるため、
最適なホルモン条件を検討する。

 私の仕事は、植物の細胞同士を融合して新しい作物を作り出す実験の補助です。たとえばハルザキヤマガラシというアブラナ科の植物は、サポニンという物質があるため、害虫のコナガに食べられません。その性質を同じアブラナ科の作物に導入することで、害虫に強いキャベツなどの作物ができる可能性があります。

 実験方法としては、二つの植物の葉を切り取り、細胞壁を特殊な酵素を使って消化し、プロトプラスト同士を融合させます。その細胞を培養して、カルスと呼ばれる細胞の塊にまで育てます。さらにカルスを新しいホルモン条件で培養して、シュートという植物体の状態にまで持っていきます。それを土壌に植えて成長させて、きちんと雑種になっているか、期待する性質が獲得できているかを確認します。この実験の成果によって、将来的に農薬を大幅に減らすことが期待でき、とても夢のある研究だと感じています。

京都産業大学 職員 植村 香織さん

2003年 京都産業大学工学部生物工学科 卒業
2003年 一般企業に就職
2006年 京都産業大学工学部生物工学科 嘱託職員
2011年 WDB(株)に転職。研究を継続。出産のため退職。
2012年 京都産業大学 嘱託職員

遺伝子組換えで鉄分を数十倍にやりがいは今までにない有用植物を作り出すこと

遺伝子銃。DNAをコーティングした
金の粒子を植物細胞に撃ち込む。

 タバコの葉緑体が持つDNAを、遺伝子銃を用いて、組み換える実験を行っています。現在はフェリチンという、鉄を貯蔵するタンパク質に注目しています。ダイズの染色体が持っている、フェリチンを生産する遺伝子(DNA)を取り出し、微細な金の粒子に乗せて、遺伝子銃でタバコの葉に撃ち込みます。遺伝子を葉緑体DNAに組み込んで、フェリチンを通常の何十倍も発現させるのが目標です。この研究をレタスなどの食べられる作物に応用すれば、鉄分を多く含む野菜が生産できるようになります。この野菜で貧血などの鉄分不足から起こる病気を防ぐことが可能となるでしょう。

 高校時代から植物の遺伝に関心があり、京都産業大学に入学後、寺地先生の研究室で葉緑体の形質転換に関する研究を行いました。卒業後はしばらく一般企業で働きましたが、先生からスタッフを募集しているとお声かけいただき、数年前に大学に戻りました。実験は試行錯誤の連続ですが、今までにない有用な植物を作り出すことができるのが、研究の一番のやりがいとなっています。

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