神山天文台専門員 藤代 尚文


夢は「第二の地球探し」、小型補償光学装置がもたらす天文観測の進化

藤代氏が取り組むのは「小型補償光学装置」の開発です。これまでごく限られた大型の望遠鏡にしか取り付けられなかったこの装置を、小型化・低コスト化することで、日本の天文学研究に多大な貢献をもたらすのが目標です。世界の天文学者がしのぎを削る「第二の生命がいる惑星」の発見を目指して、日夜努力を続けています。

望遠鏡の性能を飛躍的に高める小型補償光学装置

小型補償光学装置の概念図

 神山天文台の研究室で、学生たちと一緒に「小型補償光学装置」の開発に取り組んでいます。地上にある望遠鏡で天体を観測するときは、分厚い大気の層によって、どうしても星から降り注ぐ光がゆらぎます。まるでピンぼけの写真のように、不鮮明な星の像しか得られなくなってしまうのです。それを波面センサ、可変形鏡、およびコンピュータを組み合わせて修正するのが補償光学装置です。大気のゆらぎを計測する波面センサの情報をコンピュータが分析し、その情報をもとに可変形鏡の鏡面形状を微調整することで、乱れた光を修正します。
 補償光学装置の効果は絶大であり、たとえば口径2メートルの望遠鏡に取り付けると、日本最大の口径8メートルを誇るすばる望遠鏡に匹敵するほどの性能が得られるようになります。これまでの補償光学装置は大型で値段も非常に高く、それゆえほとんど国内の天文台にある中小望遠鏡には取り付けられてきませんでした。私たちの開発する装置は、半導体露光装置などで使われているタイプのレンズを応用することによって、従来の補償光学装置に対して大きさ・費用ともに10分の1程度に抑えることを目指しています。来年2月頃に試作機の完成を予定し、将来的には国内にある19台の口径1メートルから2メートルの天体望遠鏡への設置を目指しています。実現した暁には、日本の天文観測に多大な貢献をもたらすと考えています。

世界の天文学者が夢見る「第二の地球探し」への貢献

 小型補償光学装置によって、望遠鏡の性能を向上させる目的の一つには、「第二の地球探し」への貢献があります。地球と似た環境の、生命が存在する可能性のあるハビタブルゾーンに存在する太陽系外惑星の発見は、現在の天文学において世界中の研究者が成果を競い合う最もホットなテーマです。恒星と違い自ら光を発しない惑星は、直接観測することが極めて難しく、さまざまな間接的証拠を積み上げることによって存在を確認しています。アメリカのNASAが2009年に打ち上げた宇宙望遠鏡・ケプラーは、ある特定の方向を常に観測し続け、その光の変化からその領域にどれだけ惑星があるか割り出そうと試みています。そうやってケプラーが探し出してきた惑星の候補を、現在すばる望遠鏡のような大型望遠鏡の分光装置を用いて追認観測するプロジェクトが世界中で行われています。さらに、2017年に打ち上げ予定の宇宙望遠鏡・TESSにより、候補惑星の数が飛躍的に増加すると期待されていますが、追認観測に使用可能な大望遠鏡が不足する状況が想定されます。そこで、私たちが開発している小型補償光学装置によって中小望遠鏡の性能を向上させ、本研究に使用することを目指しています。
 2013年5月の段階ですでに800個以上の惑星が見つかっていますが、ハビタブルゾーンにある惑星はそのうちの10個程度にすぎません。このような惑星のサンプル数を増やし、次世代の口径30メートル級大望遠鏡でそれらの星を直接的に観測することが、今後、天文学者の第一の目標となっていくでしょう。

用語解説

すばる望遠鏡

 アメリカ・ハワイのマウナケア山の頂上にある、自然科学研究機構国立天文台ハワイ観測所が運用する口径 8.2 メートルの光学赤外線望遠鏡。1999年から試験観測が開始され、設置当初は世界最大の一枚鏡を持つ反射望遠鏡だった。

ハビタブルゾーン

 生命の存在が可能になると考えられる恒星からの距離の領域のことを指す。惑星の場合には、表面温度が生命の存在に必要と考えられる液体の水を維持できる程度に保たれていることを指す。

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