神山天文台研究員 吉川 智裕

天体望遠鏡の精度を支える縁の下の力持ち「フラット光源システム」

観測データから正確に天体の明るさを測るためには、一様な分布を持つ光を望遠鏡に入れて、その光を受け止める検出器の感度のバラつきを正確に把握する必要があります。その精度をあげるために吉川氏は「フラット光源システム」の開発に日夜取り組んでいます。研究と並行して、学生とともに天文台を訪れる人々とのコミュニケーション活動にも取り組む吉川氏にお話を伺いました。

観測装置の測定精度を上げるフラット光源システムの開発

フラット板から観測装置に
入るまでの光路の調査

 神山天文台の天体望遠鏡から正しい観測データを得るために、観測装置に一様な分布を持つ光を入れるための装置の設計を行いました。「フラット光源システム」というライトと スクリーン(フラット板)からなる装置によって、望遠鏡に一様な光を入れ、望遠鏡に取り付けられた観測装置の感度が場所によってどれくらいのバラつきがあるかを確認し、補正します。適当に光を入れればよいというわけではなく、どういった向きで光を入れるのが良いのかを、計算機の上でシミュレーションし、適切な光の分布となるように設計しました。
 補正前の生のデータで見る星の画像は、検出器のピクセル同士の感度の違いがあったり、端の方は望遠鏡や観測装置の構造物などでケラレて暗くなっていたりするのですが、フラット光源システムで取得したデータを使って補正することで、検出器のどの場所に写った天体でも正確な明るさを測ることができるようになるのです。
 大学院生の頃は、ハワイにある日本が保有する最大の望遠鏡であるすばる望遠鏡の観測装置の開発に携わっていました。そこで開発した観測装置を使って、非常に遠くにある今から100億年ほど前の宇宙における銀河の姿を観測、研究を行いました。その頃の銀河はとても活発に星を作っており、それを観察することで、私たちの住む銀河がどういう成長過程を辿って今の姿となったのか、推測することができるのです。自分の手で観測装置を作りながら、天体を研究することにやりがいを感じ、この神山天文台でもそういった研究を続けています。

望遠鏡、観測装置それぞれに入る光の分布のシミュレーション結果

天文学を通じて様々な技術が身につくやりがい

 天文学は、それ自体が直接的に人の役に立つことは少ないのですが、わたしが面白いと思うところは、その研究を進めるために様々な技術が身についてくることです。例えば近赤外線の観測装置を作るためには、まわりのものからの熱線(赤外線)を防ぐために、「モノを冷やす技術」が必要となる。冷やすことによって、今度は装置の周りの空気に含まれる水蒸気が凍ってしまうため「装置の周囲を真空にする技術」が必要に……というように次々にスキルを身につけていかなければなりません。私自身が最初に身につけた技術は、観測装置を動かすソフトウエアのプログラミングでしたが、機械の設計や加工などの知識も今の研究には求められ、次々と新たな技術と知識を得られることが楽しいと感じています。天文学の研究を通して得られた知識を今後どう社会に役立てるかを考えることも、私たちの大切な仕事だと思います。
 毎週土曜日に神山天文台は一般市民に開放しており、学生と一緒に来訪者の案内を担当しています。研究と並行して、学部生たちにこの天文台をより活用してもらう計画づくりも行なっています。これだけの天文台が大学のキャンパスの中にあるのですから、授業の合間にふらっと立ち寄ってもらい、星について何か知りたいことがあれば、気軽に私たちスタッフに声をかけてもらえたら嬉しいですね。

用語解説

銀河の成長

 銀河は、太陽のような恒星と、水素やヘリウムをはじめとする様々な物質からなる星間物質、そしてまだ正体が詳しくわかっていないダークマターなどが、お互いの重力によって集まってできている巨大な天体である。私たちの太陽を含む「天の川銀河」は、約2000億個の星が集まってできており、宇宙においては典型的な大きさの銀河の一つである。宇宙の基本的な構成要素であり、銀河の成長の歴史を調べることは、宇宙の歴史の中でどうやって恒星たちが作られ、その結果様々な元素がどのように作られてきたかを調べることになる。

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