神山天文台専門員 近藤 荘平

120億年前の宇宙の姿を見るために赤外線の観測装置の開発に全力を尽くす

近藤氏が取り組むのは、「赤外線高分散分光器」という観測装置の開発です。
神山天文台の望遠鏡に設置されているこの装置は、目に見えない赤外線の光を捉えるための装置です。
現在、天文学の世界ではこの観測装置で天体観測を進めることでさまざまな新事実がわかるのではないかと大きな期待が寄せられています。

宇宙の金属進化の研究から天体観測装置の開発へ

 私はもともと、「宇宙の金属進化」を専門に研究していました。天文学では金属とは水素とヘリウム以外のすべての元素を指しています。現在の宇宙は、鉄やマグネシウムなどさまざまな金属元素が存在していますが、宇宙の誕生の時点では水素やヘリウムと軽い金属元素(Li, Be, B)しか存在していなかったと考えられています。それよりも重い金属元素が生成、増加してきた歴史を、遠く離れた宇宙(すなわち過去の宇宙)の光のスペクトルを観測することで明らかにしようとしてきました。
 遠く離れた宇宙を見るためには、非常に暗い天体の光を観測する必要があります。そのための観測装置の開発も研究と同時に行ってきました。その経験を生かして、現在、神山天文台では、「赤外線高分散分光器」(通称「WINERED」)という装置の研究開発・改良を行なっています。
 このWINEREDは、赤外線を高い精度で分光(虹に分ける)観測する機器です。ビッグバンで始まった宇宙は現在もなお膨張を続けており、遠くの天体ほど早いスピードで遠ざかっていることが確認されています。救急車が遠ざかるときにサイレンの音が低くなることを「ドップラー効果」と言いますが、それと同じ理論で、遠ざかっていく天体から発せられる光の波長も音と同じように伸びていきます(そのことを「赤方偏移」と呼びます)。つまり、より遠く、より昔の天体を見ようとするならば、可視光よりも波長が長い赤外線の波長まで赤方偏移した光を捉えることが必要になってくるのです。

目指すは感度世界一知られざる宇宙を明らかに

 現在、私たちのチームでは、WINEREDの改良を進め、感度を世界一のレベルにしようと奮闘しています。WINEREDの完成後、まずは神山天文台で、さまざまな天体に対し、赤外線での高分散分光観測を進めていく予定です。最終的にはWINEREDを海外の大口径望遠鏡に移設することにより、宇宙の年齢137億年のうち今まで難しかった120億年以前の宇宙の金属進化の歴史を明らかにできると期待しています。研究によって新しい事実を発見できることが、私の何よりのやりがいになっています。

  • 赤外線高分散分光器のカメラ部(実験中)

用語解説

光のスペクトル

プリズムや分光器に光を通すことで得られる、虹のように光の波長ごとに分かれた分布のこと。天文観測ではどんな物質の組成からなるのかを調べるために分光観測を行う。

ビッグバン

今から137億年前に起こったとされる宇宙の誕生時の大爆発。現在の宇宙論では、宇宙誕生時には、すべての物質とエネルギーが一箇所に集まっていて、超高密度、高温度の状態にあり、この初期状態から爆発的に宇宙が広がり、現在の宇宙の姿になったと考えられている。

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