鳥インフルエンザ研究センター 兼務所員
総合生命科学部 動物生命医科学科 准教授 髙桑 弘樹

幅広いネットワークと充実の設備を最大限に活用し、鳥インフルエンザの出現予測、ワクチンの開発を目指す

 センターの大きな特長は国内外のさまざまな機関とネットワークを持ち、鶏などの産業動物を用いたウイルス実験を行えるBSL3施設を保有していることです。全国でも数少ない充実した環境を活かし、鳥インフルエンザの出現予測やワクチンの開発につながる研究を行いたいと考えています。

これまでの研究で培ったノウハウを活かして鳥インフルエンザの感染メカニズムの解明へ

 20世紀初頭から人の間で何度も繰り返されていた新型インフルエンザの発生が、20世紀後半は新型インフルエンザの発生も起こらず、高病原性鳥インフルエンザの大きな流行も少なかったため、インフルエンザの研究は国内だけでなく世界的にも注目度が下がって来ていました。

 しかし、1997年に香港でH5N1ウイルスが初めて見つかり、また人に感染し死亡例も発生し、その後、2004年には日本においても高病原性鳥インフルエンザが発生し、その状況は一変しました。そのような状況の中で当センターが開設され、ちょうどその頃鳥インフルエンザウイルスの研究を開始したばかりだったのですが、自分が今まで培ってきた知識や技術、そしてこれからの研究によって鳥インフルエンザに関する問題に貢献できるのではないかと思い、研究メンバーとして加わりました。センターで研究活動をするまでは、ニワトリをはじめ多くの鳥類に感染して高病原性鳥インフルエンザウイルスと似た症状を起こすニューカッスル病ウイルスや、宿主や症状も全く異なるヒトのヘルペスウイルスの研究に携わり、異なるウイルスの研究してきた経験が今も役立っていると思います。

ベトナム、琵琶湖などでのウイルス調査とBSL3施設を使った実験でウイルスの変異を探る

  現在は「インフルエンザウイルスの生態と宿主域の解析」をテーマに研究を行っており、主な活動としては次の2つが挙げられます。

(1)ベトナム、琵琶湖などの自然界に生息するウイルスの解析

 日本国内では鳥インフルエンザの発生は今のところ国外からウイルスが侵入した時のみの流行に留まっていますが、ベトナムなどの東南アジア諸国では鳥インフルエンザウイルスがすでに定着してしまい、清浄化が困難な状態にあります。そこでベトナムのハノイ市近郊の家禽や野鳥からウイルスの分離を行い、現在どのようなウイルスが蔓延し、そしてウイルスがどのような変異を繰り返し、維持されているのかを調べています。

 また、2010年冬から2011年春にかけて国内で発生した高病原性鳥インフルエンザは、カモが北方から南下する際に日本国内に持ち込んだと考えられます。このウイルスは自然宿主であるカモには病原性をほとんど示さないため、このウイルスが野生水禽の間で受け継がれ自然界に維持される可能性も十分あります。

 そうなれば、日本に毎年の様に高病原性のウイルスが持ち込まれることになります。センターでは多くの水鳥や渡り鳥が飛来する琵琶湖でのカモ糞からウイルス分離を毎年行っていますが、今後、琵琶湖での調査が重要になってくるかも知れません。

(2)インフルエンザウイルスの宿主域の研究

 現在、世界で流行し、ニワトリに対して病原性を示しているH5亜型のウイルスも、もとは自然宿主であるカモが持っていた低病原性のインフルエンザウイルスであり、普通はニワトリに感染することが出来ませんが、感染を繰り返すうちに感染性を獲得しました。これは同じ鳥類でも自然宿主であるカモとニワトリとではインフルエンザウイルスに対する感受性が異なるためです。この研究を行う上で大きな役割を果たすのがBSL3施設です。ニワトリやマウスのウイルスに対する感受性の比較は、実際に動物に感染させてみなければ分かりません。動物を用いることで、試験管レベルの実験では分かりづらい生体内でのウイルスの体内動態や発症機構などを解析することができます。また、遺伝子レベルの研究によって、インフルエンザウイルスを構成するヘマグルチニンの変異が宿主域決定の要因になっていることも明らかになってきました。今後はマウスを用いた実験を行うことで、鳥からほ乳類に対する感染性獲得メカニズムが解明できるのではないかと期待しています。

 鳥インフルエンザウイルスは解明されていないことが多く、成果を出すまでには時間がかかりますが、それだけやりがいのある研究だと思っています。これからもセンター内での研究に留まらず、さまざまな研究機関や企業と協力することで高病原性インフルエンザの出現予測やワクチンの開発などに貢献できればと考えています。

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