京都産業大学 鳥インフルエンザ研究センター

世界の人々の安全・安心な暮らしに貢献するため鳥インフルエンザに特化した研究を展開

国内だけでなく世界的規模で私たちの安全な暮らしを脅かす鳥インフルエンザ。しかし、その実態や感染のメカニズムの多くは解明されておらず、予防策なども確立されていないのが実情です。鳥インフルエンザは今後も発生する可能性が高く、ヒトの間でパンデミックを起こす新型インフルエンザの出現につながる危険性も危惧されており、対策が強く求められています。

 京都産業大学ではこのような社会のニーズに応えるために、世界的にみても数少ない鳥インフルエンザの研究を専門に行う「鳥インフルエンザ研究センター」を2006 年に開設し、鳥インフルエンザ対策の確立、さらには撲滅を目指した研究を展開しています。

京都産業大学 鳥インフルエンザ研究センター

鳥インフルエンザ研究の第一人者大槻教授をセンター長に高水準の研究をグローバルに実施

 2004年、日本国内で79年ぶりに鳥インフルエンザが発生し、食生活への不安を引き起こしただけでなく、生命をも脅かす大きな社会問題となりました。それまで長い期間発生していなかったために鳥インフルエンザに関する研究はほとんど行われておらず、対策のノウハウはおろか、危険性の認識も低い状態でした。国は疫学の分野では厚生労働省、養鶏関連については農林水産省、ウイルスを運ぶ野鳥に関しては環境省が主体となって対策の取り組みをはじめましたが、それだけでは充分とはいえないのが現状です。

 このような状況を踏まえ、京都産業大学の特長のひとつであるバイオの基礎技術を活用し、鳥インフルエンザ対策の確立と撲滅を目的とした鳥インフルエンザ研究センターを2006年に開設しました。

 センターは鳥インフルエンザ研究の第一人者である大槻教授をセンター長に、生態学研究部門・病原体解析研究部門・防疫研究部門の3つの部門で構成されており、専属の研究者を中心に研究活動を行っています。各部門の研究は密接に関連しているため、それぞれ単独で活動するのではなく、センター全体で協力しながら研究活動を展開しています。

 さらに国や地方自治体(京都府・京都市、大阪府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県)、国内の研究機関(鳥取大学、長崎大学、大阪大学など)、さまざまな分野の企業との連携・協働による研究も積極的に取り組んでいます。また、感染経路の重要なエリアであるベトナムや韓国の関連機関との協力体制を築いて情報共有を行っています。

 これらの活動によって、感染経路の確定、ウイルス・細菌による感染症の解明、予防・対策の技術開発、国際サーベイランス体制の構築を目指しています。

ウイルスの実態調査・抗ウイルス素材の検証・症状の解析を軸に
予防・対策・撲滅に向けての基盤づくり

 現在、センターは以下の3つの活動を軸に研究を行っています。

(1)鳥インフルエンザウイルスの実態調査と研究

 鳥インフルエンザは、ウイルスを持った渡り鳥や各地域に生息する野鳥からニワトリに感染して発生します。渡り鳥はシベリアや中国東北部で子育てをした後、朝鮮半島や日本沿岸地域(福井県・京都府・兵庫県など)に飛来し、東南アジア諸国、オーストラリアへと渡り、鳥インフルエンザもそれに伴って発生する傾向があることが明らかになってきました。

 そのため、国内はもちろん海外のデータも重要となります。現在、国内では西日本に飛来・生息するさまざまな野鳥からサンプルを収集し、ウイルスの分離作業を行う他、ベトナム〜ハノイ市にある国立衛生疫学研究所でも同様の作業を行い、感染が広がる経緯の究明や感染の予測などを目指しています。
 鳥インフルエンザの実態調査の一環として、現在京都市と共同で賀茂川で越冬するカモやカモメの調査も行っています。

(2)鳥インフルエンザウイルスの症状の解析

 生化学的・分子遺伝学的な手法を用いて、鳥インフルエンザの症状を解析します。今後、ウイルスが変異してヒトへの感染が広まる可能性もあるため、症状の解析はセンターでの研究の基礎となっています。
 分離したウイルスの遺伝子性状を諸外国や過去のウイルスと比較することで精度の高い解析が可能となるため、優れた研究者と設備、グローバルなネットワークを持つ当センターは大きな役割を担っています。

(3)抗ウイルス作用を持つ素材の検証・評価

 抗鳥インフルエンザウイルス作用を持つとされる素材の検証・評価を行います。多くは製薬メーカーや衣料メーカーなどさまざまな企業からの依頼を受けて研究を行っています。安全上、鳥インフルエンザウイルスの保有が認められている施設がわずかしかなく、一般企業では鳥インフルエンザウイルスを用いて精度の高い検証を行えないことが背景にあります。このように産業界とも連携することで鳥インフルエンザによる被害の軽減に貢献しています。
 上記の活動に加え、今後は「早期迅速診断法の開発」「ワクチンの研究開発」「自然界における微生物の感染と存続のメカニズムの解明」などにも取り組む予定です。

【BSL3施設】動物を用いた感染実験が可能なBSL3施設を完備

  高病原性インフルエンザウイルスは、人に感染する恐れがあり、また万一周囲に拡散した場合に国内の畜産業に多大な被害をもたらすため、国が定めた厳しい基準を満たしたBSL3(Bio Safety Level 3)施設内でなければ、取り扱うことが出来ません。
 また、ウイルスが感染した動物での体内動態、増殖機構や病原性発現機構を解析するには、鶏などの動物を用いた感染実験等を行う必要があり、当センターは、動物を用いた感染実験が行えるBSL3施設を持つ全国でも数少ない研究機関のひとつであり、高病原性インフルエンザウイルスを用いた分子および細胞レベルから個体レベルまで、あらゆる角度から高病原性インフルエンザウイルスの解析を行うことが出来ます。

BSL3施設を利用した研究

  • 野外材料からの高病原性鳥インフルエンザウイルスの分離
  • 野外分離株のレセプター特異性ならびに低温増殖能に関する研究 など
  • 高病原性鳥インフルエンザウイルスの各種鳥類への病原性に関する研究
  • 高病原性鳥インフルエンザウイルスの哺乳動物への親和性に関する研究
  • 学内だけの研究に留まらず、自治体や他大学、企業との共同研究も積極的に行っています。
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