構造生物学研究センター員 総合生命科学部 生命システム学科 教授 永田 和宏

細胞内タンパク質の品質管理に不可欠なタンパク質の構造解析に取り組む

 生命のいとなみの根源であるタンパク質がどのように作られるのか、また生体にかかるさまざまなストレスでタンパク質が変性した場合、どのように再生、あるいは分解されるかのメカニズムを研究しています。

シャペロンに関する常識を覆した分子シャペロン「HSP47」を発見

“個々の分子が細胞という場の中でどのような振る舞いをするか”というのが細胞生物学という学問分野ですが、その中でタンパク質がどのように作られ、機能しているかという「細胞内のタンパク質の品質管理」の研究に取り組んでおり、構造生物学研究センターでは、この研究に欠かせないタ ンパク質の構造解析を行っています。

 私はこれまでの研究で、コラーゲンというヒトの身体の中でもっとも多いタンパク質が作られる上で重要なはたらきをする分子シャペロン「HSP47」を発見しました。発見前までシャペロンといえば、さまざまなタンパク質と無差別に結合するというのが常識とされていましたが、HSP47はコラーゲンに特異的に結合してその構造形成に必須の役割を持っていることが分かったのです。

 この発見は世界的に注目され、多くの研究者がHSP47の研究に取り組み、これまでにHSP47を扱った論文は600本を上回ります。

神経変性疾患など、タンパク質異常による病気の治療につながる「EDEM」「ERdj5」を発見

 HSP47の発見は、近年急増している肝硬変を筆頭とする肺線維症、腎線維症、動脈硬化などの線維化疾患の治療に新たな道筋を示しました。

 例えば、過度の飲酒や肝炎ウイルスなどによって肝細胞が傷ついた場合、応急処置をするためにコラーゲンが作られます。しかしコラーゲンを作り過ぎ、分解しきれなくなると固くなり、肝硬変を発症してしまいます。つまり、HSP47のはたらきを阻害する物質を見つければ、これらの病気の治療薬を作ることができるわけです。

 そしてその後、糸口となる「EDEM(エデム)」「ERdj5」など、約10種類のタンパク質を発見することに成功しました。EDEM は変性してそのまま放っておくと病気を引き起こすタンパク質を認識する役目を果たし、ERdj5は効率的に分解過程に導く機能を持っていることが分かりました。しかし、これらのメカニズムは非常に複雑で、HSP47やEDEMの構造はまだ解明されていません。

 今後これらのタンパク質や、まったく異なるタンパク質の品質管理に関する研究が進めば、アルツハイマー病、ハンチン トン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患に、どのように細胞レベルで対処しようとしているのかが分かるのではないかと考えています。

用語集

HSP47

 コラーゲンは長い3本のポリペプチドが3本螺旋を形成するが、小胞体におけるコラーゲン生合成には特異的な分子シャペロンを必要とする。HSP47はコラーゲン合成、かつマウスやヒトの発生に必須の分子である。一方で肝硬変をはじめとする線維化疾患時には発現が顕著に上昇し、線維化疾患治療薬のターゲット分子となっている。

代表論文

  • Ushioda, R., Hoseki, J., Araki, K., Jansen, G., Thomas. Y. D., Nagata, K. ERdj5 is required as a disulfide reductase for degradation of misfolded proteins in the ER. Science. 2008; 321(5888):569-572.
  • Oda, Y., Hosokawa, N., Wada, I., Nagata, K. EDEM as an acceptor of terminally misfolded glycoproteins released from calnexin. Science. 2003; 299(5611):1394-1397.
PAGE TOP