構造生物学研究センター長 総合生命科学部 生命システム学科 教授 吉田 賢右

タンパク質の立体構造の形成を補助するメカニズムを研究

 当センターの特長は、タンパク質の構造研究を軸にして、研究者一人ひとりが優れた研究を行っていることです。私は構造解析の専門家をはじめ、さまざまな研究者と自由に協力できるセンターの環境を活用し、タンパク質が機能を果たすメカニズムについて研究しています。

タンパク質がからまないよう折れたたみを助けるシャペロンの原理を探る

 タンパク質は例えるなら、形状記憶性のヒモの様なものです。両端を持って引っぱると一本のヒモ状になりますが、手を離せば決まった形(立体構造)に折れたたまれます。その形は、タンパク質の種類ごとにさまざまです。ところが、細胞の中ではヒモがたくさんありますから、お互いにからまってしまいます。そうするとタンパク質は正常な働きができません。

 こんなことが起きないように、折れたたみを助ける仕組みが細胞にあることがわかってきました。それはシャペロン*と呼ばれています。例えば、中心に大きな空洞のあるタンパク質が存在するとします。このタンパク質は、他のヒモ状のタンパク質をその中に引きこみ、フタをします。そうすればもう他のヒモとからみ合う心配なく、正しい立体構造を形成することができます。そうしてある時間がたつとフタが開くのです。

 でも、なぜヒモ状のタンパク質(蝶)が狭い空洞(虫かご)の中に自分から入りこむのでしょうか。なぜ適切なタイミングでフタが閉まったり開いたりするのでしょうか。そこまで知りたいと思って研究をしています。

 タンパク質はヒモ状で誕生します。また、タンパク質がストレスを受けると立体構造がほどけてヒモ状になります。タンパク質が膜を通過する時もヒモ状になります。このようなときに異常に折れたたんだタンパク質の凝集が起こると、病気になることがわかってきました。狂牛病(プリオン病)、アルツハイマー病などです。そして、感染(細菌、ウイルス)、がん(細胞の異常な増殖)、炎症(刺激応答)に加えて、新たな病因があることが明らかになってきました。

 こういうときにシャペロンが活躍します。タンパク質の折れたたみや、シャペロンによるその制御がわかってくると、そのような病気の治療に応用できる可能性も出てくるでしょう。

世界を相手にした研究が可能な日本屈指の研究施設

 構造生物学研究センターの大きな特長は、それぞれの分野で立派な業績を持つ研究者が集まっていることです。タンパク質の構造解析については津下教授がセンターの メンバーとして所属しており、高度なタンパク質X線結晶解析装置も完備されています。また、その他の研究者も世界でトップレベルの研究をされている方ばかりです。

 よく“共同研究”という言葉を見聞きしますが、それぞれユニークな知識や技術、アイディアのある人が共同研究をしてはじめて素晴らしい研究ができます。オリジナリティが重要な研究は、結局、一人のアイディアから始まるのです。その上で、それぞれの得意分野の知識や技術を出し合ってこそ、本当の意味での共同研究に発展するのです。

 当センターの研究者はそれぞれが素晴らしい研究をし、なおかつタンパク質の構造研究という共通したテーマに沿って研究を行っているため、研究内容が重なる部分もあり、それぞれの研究を補完し合える理想的な環境です

凝集タンパク質(ゆで卵)を
元に戻す(生卵)分子シャペロンClpB。
X線結晶解析により構造が明らかになった

用語集

分子シャペロン

 タンパク質は、アミノ酸が直鎖状につながったヒモである。このヒモが折れたたまれて立体構造ができて、機能のあるタンパク質ができる。合成されたばかりのポリペプチドや、構造がゆるんだタンパク質が、うまく折れたたんで立体構造を形成できるように、手助けをする専門のタンパク質が細胞にある。これを分子シャペロンという。

代表論文

吉田賢右

  • Motojima F, Yoshida M. Polypeptide in the chaperonin cage partly protrudes out and then folds inside or escapes outside. EMBO J. 2010;29: 4008-19.
  • Fujikawa M, Imamura H, Nakamura J, Yoshida M. Assessing actual contribution of IF1, inhibitor of mitochondrial FoF1, to ATP homeostasis, cell growth, mitochondrial morphology, and cell viability. J Biol Chem. 2012;287:18781-7.
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