外国語学部 英米語学科 ロブ トーマス ニール 教授

「多読学習のための教育プログラム」を開発
語学教育長年の懸案だった「多読」のカリキュラム導入を実現する

 経済の世界を中心にグローバル化が加速、英語教育の一層の充実が求められています。これまで不可能だった「多読」を採り入れた教育システムの開発にこのほど成功、そんな時代のニーズに応えています。

外国語学部 英米語学科 ロブ トーマス ニール 教授

語学教育に効果がありながらカリキュラムに導入しにくい「多読」

図書館にずらりと並んだGraded Readers

■図書館にずらりと並んだGraded Readers

 言語を習得するうえで多くの本(文章)を読むのが効果的なことは広く認められています。読解力の向上はもちろんのこと、書く力・話す力・表現する力の元ともなる「基本的な言語能力」が養えるからで、リスニングにも効果があることが確認されています。このためさまざまな外国語教育の現場で「数多くの本を読むように」と指導されています。しかし、それをカリキュラムや試験の形で導入しているところはほとんどないのが実情です。

 理由の1つは、かつては多読教育のテキストとして最適の書籍がなかったこと。20年ほど前に、必要な語彙力や文法力をグレードに合わせて調整して、各自が自分の英語力に合わせて本を選べるGraded Readersが、オックスフォード大学出版局やケンブリッジ大学出版局、ペンギン社などの出版社から出されるようになり、多読教育用テキストがない問題は解決されました。

 レベルの設定は出版社によって異なりますが、例えば、オックスフォード大学版ならスターターから始まって1から6までの7つのグレード別に書籍が用意されています。

 しかし、宿題としてGraded Readersの多読を要求しても、そのチェック法に問題がありました。学生も読んだかどうかがきちんとチェックされないと読むようにならず、かといってチェックしようとすると、従来の「レポート」や「感想文」などの方法では教員や学生の負担が膨大となり、あきらめてしまうケースが多かったのです。読んだ証拠にノートにレポートをまとめる形式は、リーディングの授業なのにほとんどの力をライティングに割かれてしまう問題点がありました。

 このほか、膨大な数のテキスト用書籍をそろえる予算や、そろえた本をいかにして管理するかなどの問題もありました。

独自開発のMoodleReadersシステムで学生の「読書結果のテスト」を可能に

  私はこうした一連の問題を、コンピューターを利用した独自のシステムで解決しました。

 開発のきっかけとなったのは、既に登場していたアメリカのネイティブスピーカーのためのリーディングチェックプログラムです。設問に答えることで本当に読んだかどうかをチェックするものですが、

  1. 1つの本に対する設問が10問しかない
  2. 同じ設問しか出題されない
  3. 解答のための時間が無制限
  4. Graded Readersではなく一般の本が対象…

などの問題点があり、既に設問に答えた学生から「正解」を聞き出して答え、実際には読まないで読んでいるように振る舞うことが可能だったり、チェックプログラムを受けるときに初めて読みながら、正解を見つけることが出来るといった欠点がありました。

 そこで、

  1. Graded Readersを対象にしたもので
  2. 1つの本に関する設問を20〜40問用意して
  3. そのうち10問をランダムに出題
  4. 解答時間に制限を設定(通常5分間)
  5. 2〜3日おきにしか受けられず「まとめ読み」ができないようにして
  6. インターネットを介して学内はもちろんのこと自宅からでも受験できる…

システムを開発、学習支援システムである京都産業大学のMoodleの中に組み込みました。それがMoodleReadersシステムです。Graded Readersの本の管理は図書館が担当、京都産業大学では500タイトル・5000冊を用意しています。

 Moodleとは授業用のWebページを作るために世界中で利用されているオープンソースソフトで、京都産業大学ではこれを利用して教育システムを構築しています。私が開発したシステムは別の独自サーバーに置かれ、京都産業大学のMoodleから利用できる形になっています。

 このシステムでは上記以外に、

  • 学生が受けた「読んだ本に関するテスト」の記録を保存・管理できる。
  • これまでに読み、テストに合格した本の表紙を表示できる。
  • あらかじめ設定された自分のレベルに合った本のテストしか受けられない。
  • 学生が読んだ本の数がある一定の数に達すれば自動的にレベルが一段階引き上げられる。

 といった特徴があります。
 教員の側からは、

  • 学生の学習状況を閲覧可能(一行表示、全履歴表示)。
  • クラスごとの進度を見て、どのクラスが遅れているかを確認できる。
  • 不正行為の検知機能が組み込まれている。
  • テストに関してトラブルがあったときに問い合わせるヘルプページも設けてある。
  • 問題の解答を分析、良くない項目を検出できる。

 といった特徴があります。

 このシステムを作る上での最大の課題は、大量のGraded Readers1冊ごとに「読んだかどうかが確認できる設問」の制作でした。

 最初は、私と英米語学科の教員とで作っていました。まず、オックスフォードのレベル3までの設問を作りました。その後は、出版社に頼んで出版社に作成してもらいました。又世界中に30人ほどの協力者を得て、設問を作る体制を整えました。

 こうした一連の活動では、私がJALT(全国語学教育学会)で80年代に会長を、90年までは事務局長を務めた実績が生きました。

 ただ、いつまでもボランティア活動だけで支えていくのには無理があります。いずれは2003年に誕生した多読基金(The Extensive Reading Foundation/本部:ハワイ大学/同教授がWebマスター)の活動の一環としてやっていきたいと考えています。

学生の個人成績画面

■学生の個人成績画面

確認された英語力増強効果
世界約50の教育機関に利用が広まる

ロブ トーマス ニール 教授

 このシステムは当初、100名ほどの英米語学科の学生のために2008年に導入したものですが、1年間使ってみて効果が確認できたため、京都産業大学全学の英語カリキュラムに導入されました。

 2009年には3000人を対象に実施、6割の学生が1冊以上の本を読み、その結果、前年比で学生のリーディング能力が20%ほど上昇したことが確認されました。もし、6割でなく10割の学生が1冊以上の本を読むようになれば、さらにその率がアップすると見られています。また、多読システムで本を読む面白さに目覚めた学生は、以後は自発的に本を読み進めるようになることも分かりました。

 同システムは京都産業大学だけでなく、韓国・中国などアジアを中心に、英米・トルコ・モロッコ・スペインなど世界中の約50の大学、高校、中学校で使われています。

 将来はiPadなどを使って紙の本ではなくデータとしてダウンロードする形にして本の保管や費用の問題を解決したり、多読だけではなくリスニングに関する同様のシステムを開発したりすることも予定。システムの効果を測るために、さまざまな機関との共同研究も必要で、設問が作成されていないGraded Readersも多く、そのための協力・応援も希望しています。

このシステムを利用して学生の読解力が伸びたことを示すグラフ

■このシステムを利用して学生の読解力が伸びたことを示すグラフ

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