経営学部ソーシャル・マネジメント学科 大室 悦賀 准教授

企業、行政、NPO、研究機関、それらの有機的結合。
さまざま商品やサービス、仕組みを活用して社会的課題を解決へと導く。
新しい価値を創造するソーシャル・イノベーションとは。

社会的課題の解決をめざすソーシャル・イノベーション。市場が持つメカニズムをどのように活用して進められていくのですか。

経営学部ソーシャル・マネジメント学科 大室 悦賀 准教授

 ソーシャル・イノベーションとは、さまざまな社会的課題をビジネスの手法を用いて解決していく、つまり新しい商品、サービス、仕組みを通じて、従来とは違った新しい社会的価値が創発されていく状態のことです。アメリカではソーシャル・エンタープライズ、ソーシャル・ベンチャーなどという言葉とともに研究が進み、シリコンバレーに代表されるサンフランシスコのベイエリア地域が、ソーシャル・イノベーション創発の代表事例となっています。
 ソーシャル・イノベーションが成立するのに必要な概念にクラスターがあります。クラスターは本来、ブドウの房のような一群という意味で、いくつかの組織や個人が集まって形成される事業形態です。クラスターには企業やNPO、行政、大学などの研究機関、資金提供機関、中間支援機関などが有機的に相互作用しています。例えば、札幌市などはもともと市民活動が盛んなところでしたが、そこに行政が加わり、NPOや研究機関が結びついて、社会が活性化していることが明らかになっています。北海道グリーンファンドと呼ばれる「風車へ投資をして風力発電を促進する」ビジネスなど、ユニークな活動を展開しています。
 クラスターは有機的な結びつきですから、商取引があって、利害関係が発生することも大切だと思っています。つまり、非日常ではなく日常の世界空間の中で形成されるものですから異業種交流などとも違います。ネットワークという線でのつながりのようなイメージでもなく、面と面でのかかわりが大切になってきます。 いまやソーシャル・イノベーションは先進国のみならず、世界的な時流になってきました。例えば、バングラデシュのグラミン銀行は貧困層向けにお金を融資し、生活の質の向上を促す活動を行っています。創設者のムハマド・ユヌスと共にノーベル平和賞を受賞し、一躍有名になりました。もう一つの事例として、ビッグイシューがあります。ホームレスの人しか売り手になれない雑誌で、目的は彼らの救済ではなく仕事をつくることにあります。英国で大成功し、世界に広がっています。日本版も2003年から発行され、ホームレスの人たちが街中で販売しています。これらは、明らかに社会的な課題をビジネス手法で解決しようとしています。

ソーシャル・マネジメント学科の設立と同時に着任されました。全国の動向や関西の特徴、具体的な研究を教えてください。

経営学部ソーシャル・マネジメント学科 大室 悦賀 准教授

 2007年の4月、経営学部が生まれ変わってソーシャル・マネジメント学科ができました。それまでは東京にいたのですが、新学科設立と同時に着任して京都に住んでいます。ソーシャル・イノベーションの研究は、まだ研究者も少なく新しい分野ですが、これからの日本を考えたときには必要不可欠な研究だと思っています。東京では一昨年(2005年)にソーシャル・イノベーション・ジャパン(SIJ)というNPOも立ち上がって、ソーシャル・イノベーションの促進と、主体となる社会的企業家の育成を目指しています。NPOやNGOが台頭する中で、市場競争や経済主導的な社会に限界が見え、社会的にも責任ある企業活動が求められています。これからの企業は社会的課題を解決する手法を持たない限り、成長しないかもしれません。企業がCSR(企業の社会的責任)や社会的事業への参入を希望しています。そうした活動をさらに充実させたい場合には、このソーシャル・イノベーションという概念が役に立つと思います。
 現在の研究の対象はNPOや企業、行政ですが、関西には注目すべき企業が多いように感じました。例えば品質管理を徹底して身体障害者のつくった商品を販売している会社、10言語によるFM放送を流している会社、5言語による携帯サイトを配信している会社、大企業でも攻めのCSRを実践し、社会や環境などに積極的にかかわろうとしているケースも見うけられます。
 現在私がかかわっている事案の中で滋賀県での市民事業創出支援がありますが、ここでは行政とNPO、そして企業と大学などが加わって、それぞれの資源を活用しながら地域の活性化をしようと試みています。地域の内外から人が集まって、さまざまな議論を重ねながら、まさにクラスターの形成を目指しています。大切なことは、ビジネスとして成立させようと考えていることで、決してボランティアではなく、みんながきちんとした利益を得られるようにすることです。やはり人間が生きていくうえで、ある程度の費用が必要で、それを稼ぎ出してこそビジネスといえます。ビジネスとなれば片手間ではなく、その事業に没頭できるようになるわけです。まだ、始まったところで最終的な形態が見えてはいませんが、これからの展開を楽しみにしているのと同時に、大きな意義を感じています。
 目標としては、日本国内においてソーシャル・イノベーションを実現させる企業(ソーシャル・エンタープライズ)の調査により、この様な企業の数や内容を把握したいと思っています。さらに先進国であるアメリカ・サンフランシスコ地域に行って、状況を把握したいと思っています。

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