コンピュータ理工学部インテリジェントシステム学科 河合 由起子 准教授

個人の嗜好や興味を発見し各人にカスタマイズされた心地よい情報空間を提供できる先進的パーソナライゼーション技術を探求

現在、取り組んでおられる研究の目的と概要をお聞かせいただけますか。

 世界中には情報が満ち溢れています。この中から個々の人間が求めている情報を的確に見出し、それを個人の嗜好や興味、感性などに即応して提供するのが研究の目的です。つまり情報の個人適応化、パーソナライゼーション。現在は、特にWebの情報を対象に「検索」と「提供」に関する先端技術を探究しています。具体的には、まず情報提供者側を分析します。情報を発信するのも「人」であり、仮に同じテーマであったとしても、内容(意図)や捉え方(観点)は異なります。たとえば、靖国神社参拝について。朝日新聞と読売新聞では記事の論調に違いがあります。この違いを上手く抽出したいわけです。具体的には、関連する記事をすべて集めて、靖国神社に関する記事がどのように記述されているかを自然言語解析などを用いて調べます。自然言語とは人間が日常生活で文書や会話として使う言語のことです。これらをコンピュータによって分析すると、傾向や違いなどが見えてきます。このような解析によって情報発信者側の観点を把握することができ、内外の新聞社をはじめとする、世界の情報を多元的かつ客観的に読むことができるわけです。次に受信する側の個人の分析です。  先ほど申しあげた嗜好や興味、感性などの要素をベースにユーザーのプロファイルを作ります。これらに基づいて各人を満足させる情報を次々に提供できるようになります。  また、極端な偏りが生じないように異なる視点をもつ情報も多少は混在させるようにします。ただし、人間は複雑です。経験や時間経過により、嗜好や興味は当然変わります。感性や感情も一元的に捉えることはできません。現在は心理学の領域にまで踏み込んで、プロファイルの精度を高めるようにしています。

情報アーカイブや異種メディアとの融合に関する開発状況もお教えいただけますか。

 情報検索に関してはアーカイブデータやレーダーチャート検索の研究を進めています。  これまでの検索の場合、キーワードが同じであれば、結果も同一でした。これでは個人適応化した情報とはいえません。そこで、キーワードとサブキーワードが同時に表示されるシステムを考えました。たとえば、「イラク」というキーワードと共に「ブッシュ」、「フセイン」、「内戦」といったサブトピックが出現します。その時点でユーザーが「ブッシュ」や「フセイン」には関心がなくて、「内戦」に関する情報を知りたいと考え、これにレーダーチャートを対応させると、検索結果もフレキシブルに変化するというものです。パーソナライゼーション検索を推進する新たなシステムになると考えております。異種メディアを視野に入れたものでは、Web情報と3Dコンテンツの融合を探究しています。たとえば、新車の3Dのしかるべき位置にWebのブログ情報や消費者のコメントなどを自動的に貼り付けていく。さらに、見る人に合わせて提示される情報が異なるような表示方法に関しても研究中です。  カーナビでも情報の個人適応化を図っています。現在は目的地まで画一的に誘導する機能しか備えていません。これでは面白くないので、途中の観光情報や景観を提供してくれる新しい技術を開発しています。行程に富士山がある場合、それを景色として見ながら走れるような、最良のルートを選んでくれるといった具合です。文字通りの快適ナビです。また、Web情報と雑誌などの印刷媒体との融合も考えています。たとえば、朝日新聞のニュースサイトがありますが、これを普段から読み慣れていない人は使いづらいです。そこで、ユーザーが雑誌のMONOマガジンを愛読していれば、この構成に朝日新聞のWeb情報を組み替えるわけです。これも異種メディアをテーマにした情報のパーソナライゼーションです。

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