コンピュータ理工学部インテリジェントシステム学科 岡田 憲志 教授

音声・画像・センサで制御する電動車椅子の開発。美術館から大病院まで大施設の移動手段にも最適。

音声制御の電動車椅子」について具体的にお聞かせいただけますか

コンピュータ理工学部インテリジェントシステム学科 岡田 憲志 教授授

 これは学部の特別卒業研究として取り組んだテーマです。学生たちが3年次生の秋から約1年間をかけて研究しました。まず、音声認識ですが、もともとケンブリッジ大学で開発され世界中で使用されているHTKというソフトがオープンになっているので、これをプログラムに取り込んで使用しています。車椅子の動作制御に用いている言葉は前進、後退、左寄れ、右寄れ、停止、加速、減速の7種類でゴー、バックなどの英語版もあります。  音声をコンピュータに認識させるためには、事前に訓練が必要です。トレーニングをした人が訓練時と同じテンポで命令を発した場合の認知率は98%前後です。また、自動的に危険を回避することができるように、Webカメラ、超音波センサ、赤外線センサを車椅子上に設置しています。Webカメラは前方約2mの主に床部分を捉えています。仮に未確認の物体を次々に映し出しても何があるのかを瞬時に画像認識するのはきわめて難しいので、床の部分を中心に視るようにしているわけです。  それより遠くは超音波センサで感知します。前方約5m先までの比較的硬い物体を検出し、その距離と接近速度を確認します。つまり、あらかじめ超音波センサで「前方に何かある」と察知しておき、Webカメラの視野に入ってきた段階で対象物の大きさを二次元的に計算して具体的に把握するわけです。赤外線センサは前方約8mまでの人間など温度のあるものを検出します。さらに、超音波段差センサで窪みや溝、階段などを検出し転落を防ぎます。車椅子の左右の車輪に取り付けた半径20cmのゼブラ模様の反射板で、左右それぞれの移動距離と速度を連続的に測ることができます。このようにWebカメラ、超音波センサ、赤外線センサなどを組み合わせて安全な走行を追求しています。障害物の位置に応じて、右や左に回避させるのが最終目標ですが、実際にはまだそこまではできていません。

現状での課題と産学連携も視野に入れた実用化の可能性を教えてください。

 音声制御の部分では汎用性ですね。誰の声で指示しても同じように認識できるようにしたい。現状では認識のトレーニングをした人以外の認識率は、まだ60〜75%程度です。  また、特定の人の認識訓練にも時間がかかり過ぎます。ただ、最近開発された「Julius/Julian」という日本語音声認識のオープンソフトを使えば、この欠点をかなりカバーできると思います。それから、先ほどご説明した障害物の回避。停止させるのは簡単ですが、避けるのは結構難しいわけです。  Webカメラで視ているので、どの方向に障害物が位置しているのはわかるのですが…。実用化の点では、たとえば大きな美術館や博物館、大学、図書館、大病院などエリアを限定した空間で非常に役立つのではと考えています。屋外ではまだ危険ですが、限られた場所であれば、この機能を十二分に発揮できると思います。館内にくまなく超音波発信機を設置し、これを受けて車椅子の位置を確認し、移動する。ローカルなGPSです。これと館内の正確なバリアフリー経路のマップを組み合わせれば、館内の行きたい場所を指示するだけで、車椅子がそこまで安全かつ迅速に運んでくれるわけです。たとえば、広大な建物なんかの場合、私たちでもトイレを探すのに苦労します。車椅子を利用しておられる方や足腰の弱ったご高齢の方はもっと不便な思いをしておられるはずです。こんな課題もなんなくクリアできます。  GPSよりも超音波センサの方がこのシステムに適している理由は音波の方が光よりも圧倒的にスピードが遅いので、検出位置の精度が高くなるからです。福祉関連の機器でいえば、この「音声制御の車椅子」の他に、3Dグラフィックスを活用した「日本語から手話への翻訳機」やコンピュータによる「点字トレーニング機」などを研究した学生達もいました。いずれも、実用化すれば社会に大きく貢献できるはずです。

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