コンピュータ理工学部コンピュータサイエンス学科 筒井 稔 教授

電磁波パルスの解析で、その波源位置が震源と一致していることを発見。
確立した検出・解析方式による多点観測網を構築すれば地震発生予測も実現可能。

地中の電磁波パルスの研究に挑まれた時、その存在を確信しておられたのですか。

コンピュータ理工学部コンピュータサイエンス学科 筒井 稔 教授

 現在も共同研究は続けていますが、京都大学の時代に宇宙の電磁波を探査するグループに属していました。これが、今日の研究をはじめるきっかけになりました。見上げてばかりいるのではなく、足元を探ってみようと思い立ったのです。そこで、早速調べてみると、誰も地中の電磁波の探究をしていない。ですから、電磁波が地中に存在するのかどうかもまったく不明でした。そこで、地中電磁波環境測定の必要性を訴え、 '98年に研究を開始しました。大学の 敷地内に地下100m、直径10cmの穴(ボアホール)を掘り、このボアホール内に垂直電界と水平直交2成分の磁界を検出するセンサーを挿入。開発した解析用プログラムで、電磁波パルスの検出と同時に画面地図上に到来方位も表示できる測定システムを完成させました。これは1ミリ秒以下のパルス幅を持った電磁波パルスの到来方位を算出できる画期的な装置です。穴掘りを行った時に出て来た地中の岩石も数mごとにサンプリングしました。これで各深さにおける地中媒質の誘電率や導電率が分かり、電磁波パルスの伝播に関する貴重なデータが得られます。また、偶然ですが、設置位置にも恵まれました。ご存じのように京都は盆地で、いわば泥の上に都市があり、その深さは京都駅周辺では300〜400mにも達します。でもキャンパスの下は約50mで基盤岩に突き当たり、測定に好都合だったのです。地中起源の電磁波パルスを発見したのは'00年です。'02年に地球物理に関する学会では最高峰の米国地球物理連合のGRLに論文を提出し、受理され、出版されました。

地震発生予測の研究を開始されているそうですが、現在どこまで進んでいるのでしょうか。

 '04年1月に熊野灘で地震が発生しましたが、この時に検出した強い電磁波パルスを解析すると、その波源位置は震源域と見事に一致していたのです。これは検出した電磁波パルスには周波数分散特性があり、伝播距離をも算出することができ、これを到来方向に当てはめると位置が同じだったのです。これまでも地震が起きると電磁波パルスが検出されてはいたのですが、確実に震源域で生じていることが確認できたわけです。これに関する論文も、この8月にGRLに受理され、近々出版予定です。原因は地殻変動です。岩石に圧力変化がかかると、電磁波パルスが発生するのです。実は地震発生の約2日前からこのような地殻変動による電磁波パルスを検出しています。そこで、波源位置の特定精度をさらに高めるために、多点観測網の構築を押し進めたいと考えています。名古屋大学大学院環境学科研究科附属地震火山・防災センターの観測点と京都産業大学で開始した共同観測は、その第一歩です。
 正確な電磁波パルスの検出を実現し、その発生位置・時間変化のデータから地殻変動のモニターを行い、地震発生予測の研究に取り組んでいます。地震発生予測はきわめて重要な課題です。現在は不可能とされていますが、この地殻変動による電磁波パルスを糸口にした予測システムを実用化できれば、かなりの確率で発生予測は可能と考えます。'95年1月の阪神・淡路大震災では死者・行方不明者6435人に達しました。
 つい最近のパキスタン大地震の犠牲者は数万人に及ぶと報道されています。予測ができれば、このような大惨事を防げます。すでに述べたように電磁波による新たな検出・解析手法の研究開発によって方式は確立しました。これから必要なのは多点観測網の整備です。ぜひ観測点設置にご協力いただきたい。また、本研究の産学連携も実現できればと願っています。

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