経済学部経済学科 西村 佳子 准教授

個人の資産選択に不可欠な金融知識を学ぶ
シミュレーション方式の学習支援ツールを開発。

進めておられる研究開発のテーマと概要を教えていただけますか。

経済学部経済学科 西村 佳子 准教授

 資産を運用する場合、まずは負担できるリスクと目標とするリターンを考えなければなりません。もちろん,高いリターンを求めれば、これに比例してリスクも大きくなります。確かに分散投資を行えばリスクの軽減を図ることができますが、ただやみくもに資産を組み合わせるだけでは、リスクの軽減やリターンの確保といった目標の達成は困難です。今後は誰もが主体的に(自己の責任において)資産選択を行う必要に迫られます。そのためには、基本的な金融知識を身につけ、金利や為替の変動、ひいてはその背景にある経済情勢に興味を持つことが望まれます。私たちの研究会(金融資産管理支援研究会)では、このような社会状況を踏まえて、家計に体系的かつ基本的な金融の知識を提供し、それぞれのリスク許容度に応じたポートフォリオを構築・管理するための学習支援ツールの開発に取り組んでいます。

自己責任の時代を迎えて、このツールは大いに役立ちそうですね。

 最低限の知識や情報収集能力がなければ、適切な資産選択や管理はできません。しかし、金融資産選択に必要な知識の学習機会という点では、日本は欧米と比べてまだまだ遅れています。各金融機関は、それぞれの金融機関の商品情報を発信してはいますが、そこから得られる情報や知識は断片的なものになりがちです。体系的に資産選択について学ぶことのできる場は、確定拠出型年金導入時教育などに限られていますし、その教育の機会が与えられる対象者も多くはないのです。大多数の人々が、意志決定を行うためのバックボーンを十分に持っていないのが現状です。
 日本にはリスクを好まない文化があるといわれますが,これには戦後の政策が大きく影響しています。日本の経済を立て直し復興を図るために、家計の資産を郵便局や銀行に集め、基幹産業等へ集中的に投資する・・・という政策の下では、家計は何も考えず預貯金を保有していればよかったわけです。このような状況が長く続く中で、どの程度のリスクなら取れるのか、どのような金融資産を保有すればリスクが抑えられるのかといったことを考える機会を失ってきたのです。
 たとえば、米国では幼稚園から経済学的な考え方を教え始めます。英国でも2000年頃から体系的な金融教育が始まっています。日本でもようやく金融教育の必要性が認められてきましたが、未だに消費者教育(家計運営やクレジットなどに重点)のアプローチに偏っています。
 ご高齢の方々や主婦などを対象にした金融関係の詐欺事件が後を絶ちませんが、高収益でしかも安全な金融商品などはあり得ない、という基本的な知識に欠けることが大きな原因でしょう。経済学部を卒業しようという学生でさえ、自社株積立て(社員の忠誠心を高める意図も込め、社員に自社株を積み立てさせる制度)の危険性を解いてもキョトンとしているというありさまです。
 こうした危機的な状況ですが、日本銀行の関係機関を始めとして、ようやく金融教育の試みが始まりつつあります。教材の開発も今後進んでいくことでしょう。

現在の開発状況と今後の課題を聞かせていただけますか。

 具体的には、eラーニングやゲームソフトの開発会社と共に、シミュレーションを用いたある程度の娯楽性を備えたツールや、基礎から知識を積み上げる形での教育教材的なものなど、利用者がもっとも効率的に学べるプロトタイプの開発を行っています。  すでに、講義において教材として活用をしており、研究開発に反映させる予定です。講義とシミュレーションを併用することによって、講義で学ぶ理論に対する理解が進むことを期待しています。
 ソフト開発面での今後の課題は、固定されたシナリオではなく、時々刻々と変化する内外の経済情勢をフレキシブルに反映させるプログラムの開発です。もちろん基礎的な情報に限定されますが、これが可能になれば、シミュレーションとしての面白さによって、学習効果はより高まると考えています。

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