理学部 米原厚憲 准教授らの研究グループが共同研究により3000光年離れた連星系中に地球に似た惑星を発見し、米国科学雑誌「Science」に掲載されました。

 理学部 米原厚憲 准教授、大阪大学大学院理学研究科 住貴宏 准教授、名古屋大学太陽地球環境研究所 阿部文雄 准教授を中心とするMOAグループ ※1 は、他のグループとの国際共同観測で、地球から約3000光年離れた連星系 ※2 の片方の星(主星)をまわる地球に似た惑星を発見しました。

 本研究成果は2014年7月3日(米国東部時間)付で、米国科学雑誌「Science」に掲載されました。

掲載論文名

Discovery of a Terrestrial Planet in an Earth-like Orbit Around One Member of a 〜15AU Binary

著者

A. Gould 他、OGLEグループ、μFUNグループ、MOAグループ、WISEグループによる共著
※なお、この論文の共著者として理学部 米原厚憲准教授の他に、本学卒業生の山井 直斗(やまい なおと)さん(2014年理学研究科博士前期課程修了)がいます。

研究概要

 重力マイクロレンズ現象を利用して発見されたこの惑星、質量は地球の約2倍で、主星から惑星までの距離が太陽から地球までの距離と同程度だということが分かりました。しかし、その主星は太陽の10分の1程度と軽く暗いため、発見された惑星の表面温度は-210℃程度と地球よりはるかに冷たく、木星の氷衛星エウロパよりわずかに冷たい程度です。
 またこの主星は、太陽から土星までの距離にある、同程度の質量の星と連星系をなしています。この様に比較的近傍に伴星 ※3 をもつ星の周りに、地球のような軌道と質量を持つ惑星が発見されたのは初めてです。
 星の約半数は連星系をなしていますが、連星系での惑星探査は難しく、これまであまり進んでいませんでした。しかし今回の発見で、連星系中にも地球のような軌道にある地球型惑星 ※4 の存在が明らかになったことで、今後地球のような惑星の探査の可能性を大きく飛躍させる事につながると期待されます。

発見された連星系中の惑星の想像図 (提供:Cheongho Han, Chungbuk National University, Republic of Korea)

研究背景

 系外惑星 ※5 は1995年に初めて発見されてから、これまでに1800個以上も発見されており、系外惑星研究は、今や天文学で最も活発な分野の一つとなりました。これら発見された惑星のほとんどは、我々の太陽系の様に単独で存在する恒星(主星)の周りを回っているものです。それに対して、連星系での惑星の発見は大変稀です。これまで多くの系外惑星を発見してきた視線速度法 ※6 や、トランジット法 ※7 、また今回我々が使ったマイクロレンズ法も、観測天体が連星系であると分かると観測を中止したり、観測頻度を減らしてしまいます。これは、連星系中の惑星検出が技術的に難しいのと、連星系中では惑星はあまり形成されないであろうという理論的な予想が関係しています。

 一方、我々MOAグループは、専用1.8m望遠鏡(図2)を用いて重力マイクロレンズ現象を利用した系外惑星の探索に取り組んできました。この現象は、アインシュタインの一般相対性理論が予言する「重力によって光が曲がる」という性質のために起こります。ある星(背景光源)の前を偶然別の星(レンズ天体)が横切るとレンズ天体の重力によって背景光源からの光はあたかもレンズを通ったかのように曲げられて集光し、一時的に明るくなったように見えます。普通の星がレンズ天体となる場合には、20日程度の間に単調に明るくなり(増光)、また同じ時間をかけて元の明るさに戻ります(減光)。しかし、もしこのレンズ天体である星の周りに惑星があると、その惑星の重力の影響で単調でない増光や減光が余分に加わります(図3)。したがって、この余分な増光・減光を見つける事で逆に、レンズ天体である星の周りに惑星がある事が分かります。

 この重力マイクロレンズ現象はそもそも、百万個の星を見てようやく1個程度しか起こらない非常に稀な現象であるため、我々MOAグループやOGLEグループというサーベイグループが、銀河系中心(いて座 ※8 )方向の数千万個に及ぶ膨大な数の星を毎晩観測し、現在では毎年500〜2000個程度の重力マイクロレンズ現象を発見しています。そして発見された現象の中から更に、余分な増光・減光を探し出すことで、現在までに20個以上の系外惑星を発見しています。

  • 図2: MOA-II 1.8m望遠鏡

  • 図3: 重力マイクロレンズによる系外惑星検出の概念図

本研究の内容

 今回観測された重力マイクロレンズ現象は、サーベイグループが日々の観測で発見している現象の中の1つで、2013年3月26日にチリのOGLEグループがイベントOGLE-2013-BLG-0341として発見し、その少し後に我々MOAグループもMOA-2013-BLG-260として独立に発見しました。そしてOGLEグループとMOAグループの観測データ中に、系外惑星が存在している兆候である約1日の短い余分な増光・減光が発見されました。この特徴の解析から、主星から太陽から地球までの距離程度(約1天文単位)離れた場所を、地球質量の2倍の質量をもつ惑星が回っている事が分かりました。更に、WISEグループ、μFUNグループなど、世界各地の時間帯の異なる合計9カ所において、増光のピークにおける非常に高頻度な観測が行われました。それらの観測データもあわせて解析を行った結果、主星は0.1-0.15倍太陽質量のM型赤色矮星 ※9 で、これより若干重く太陽から木星までの距離程度(約15天文単位)離れたところにあるM型赤色矮星と連星系をなしている事が分かりました。

 連星系中の系外惑星はこれまでに様々なものが見つかっています。連星の二つの星の外側を廻る周連星惑星は、ケプラー衛星によって7例発見されています。また視線速度法によって、連星系中の木星質量の惑星が2例発見されています。一方で、地球型の系外惑星は4個見つかっています。しかし、これだけ距離の近い(20天文単位以下)連星の中に、軌道半径が地球と同じ1天文単位と連星間の距離に対して比較的大きい場所に、しかも地球型惑星が発見されたのは初めてのことです。これまで、このような惑星は伴星の影響で形成されにくいと考えられていました。しかし、このような系外惑星の検出が非常に難しいにも関わらず、実際に今回1個発見されたという事は、このような惑星が実は非常に一般的である事を示唆しているかもしれません。

本研究の意義

 この惑星は、主星が暗いために生命が生存するには冷たすぎますが、もし主星が太陽程度の星だったら、液体の水が存在し、生命が存在しうる惑星、いわゆる「ハビタブル」な惑星であった可能性もあります。これまで、連星系での惑星の探査は難しくあまり進んでいませんでした。しかし、銀河系内の全ての星の半数は連星系をなしており、その中でも赤色矮星は宇宙で最も一般的な星です。今回の発見から、連星系にも地球の様な軌道の地球型惑星が存在する事が分かったことで、地球のようなハビタブルな惑星の探査の可能性を大きく飛躍させる事につながると考えられます。特に、暗い赤色矮星の周りにあり、しかも軌道半径の大きい惑星を発見するのは他の方法では難しく、マイクロレンズ法はこのような惑星系に感度をもつユニークな手法です。マイクロレンズ法で今後更に多くの連星系中の地球型惑星を発見し、惑星形成の理解が深まることが期待されます。

用語解説

※1. MOA(モア)グループ: 日本とニュージーランドの共同研究グループ。
世界で最も星空が美しいとされる、ニュージーランド・テカポにあるMt.John 天文台で、独自のMOA-II 1.8m望遠鏡を用いた重力マイクロレンズ現象の観測を行っています。

※2. 連星系: 二つの星が互いに重力で引き合い、その重心のまわりを互いに回り合う系。

※3. 伴星: ある星と連星系をなす、もう一方の星。

※4. 地球型惑星: 地球質量程度の岩石を主成分とする惑星。

※5. 系外惑星: 太陽以外の恒星の周りを回る惑星。

※6. 視線速度法: 惑星の公転の反動で中心にある主星はふらつきます。この主星の視線方向の速度の周期的変化をスペクトル観測で精密に測定する事で惑星を発見する方法。

※7 トランジット法: 惑星が主星の前を横切る時の減光を観測して惑星を発見する方法。

※8. いて座: 本学の学章がこの星座の一部に相当します。

※9. M型赤色矮星: 質量が太陽の0.1-0.5倍と軽くて温度が低く赤い星。宇宙の星全体の70%を占めています。

 
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