神山天文台で理学部 池田准教授・大学院生・学部生のグループが
国内最高性能を誇る天体観測装置の開発に成功

 京都産業大学・神山天文台では、池田 優二 理学部 准教授が率いる研究開発グループ(池田准教授以下、大学院理学研究科博士前期課程2年生の新崎 貴之さん、博士後期課程1年の新中 善晴さん、理学部4年次生の糸瀬 千里さん)が、国内最高性能を誇る天体観測装置「LIPS(リップス)」の開発に成功しました。

 この装置はLIPS(リップス)と名付けられた「線スペクトル偏光分光装置(LIne Polarimeter and Spectrograph)で、池田准教授が約10年の歳月をかけて東北大学、国立天文台、広島大学などと共同で開発を続けてきたものです。この装置は、国内の望遠鏡に装備されているものとしては最高性能を有する装置であり、世界的に見てもトップレベルの装置です。池田准教授らは、12月6日(火)の夜、神山天文台の口径1.3m荒木望遠鏡にて本装置のファースト・ライト(装置を望遠鏡に取付けて初めて科学的な観測を開始すること)を達成し、その後の解析で目的の性能を発揮していることを確認しました。

概要

 今回、開発に成功した装置LIPSは、宇宙にある天体から来る光の様々な性質を、幅広くしかも同時に観測できるという特徴があります。光は波としての性質を持っており、波の山と山の間が長い光は「赤く」、逆に山と山の間が短いものは「青く」見えます(専門的には、波の山と山の間の長さを「波長」と言います)。LIPSは、目に見える光を数千色以上に分けて、しかも同時に観測することができます。これにより、天体がどのような早さで運動しているのか?あるいはどのような成分から出来ているのか?ということを詳しく知ることができます。しかも、LIPSは「色」だけではなく、「光の偏り具合」も同時に詳しく調べることができます。

 「光の偏り具合」とは何でしょうか。たとえば雪山でスキーをする際に雪面が眩しくないようにかける「偏光サングラス」は、雪に反射した太陽の光が特定の方向に偏っている(波の振動する方向が偏っている)ことを利用して、雪面で反射して目に届く光を暗くする働きがあります。このような「光の偏り」を、専門的には「偏光」と言います。「光の偏り具合」を精密に調べることで、はるか彼方にあって望遠鏡を使っても直接は画像を得られないような星々の様子(特に、星の周りに存在するガスやチリの雲の形状など)を詳しく調べることができます。

図1:神山天文台/1.3m荒木望遠鏡に装備されたLIPS (手前の黒い箱状の機器)。神山天文台は、毎週末に一般の方向けに見学会や星を見る観望会を実施しています。望遠鏡に取付けられたLIPSの実物をご覧いただけます。


 さまざまな「色」について細かい色の違いまで「光の偏り具合」を非常に精密に調べることができる天体観測機器は、国内の全ての望遠鏡を見回してもLIPSのみであり(国立天文台・すばる望遠鏡の装置をもしのぐ性能です)、世界的に見ても、非常に高い性能を誇っています。同様な天体観測機器は世界的に見ても数台しかなく、また、このような観測装置のアイデアは、池田准教授らが開発を続けてきたLIPSに始まっています。まさにパイオニア的存在なのです。

神山天文台での研究について/学生のコメント

 神山天文台では、こうした世界トップレベルの装置を、学生らが参加して開発することを実践しています。学生が装置開発を通じて様々な技術を身につけ、困難を克服して目標を達成することを体験し、そうした技術・経験をもって社会へ飛び出すことが、神山天文台の目指すゴールの一つです。今回、世界トップレベルの性能を達成する観測装置が神山天文台で誕生したことは、「産業」の文字を冠する京都産業大学として、大変、意義のあることだと言えます。

 LIPSの光学系(レンズなど)/機械系の設計に携わった新崎貴之さん(本学大学院理学研究科/博士前期課程2年)は「実際に完成するまで自分の設計が本当に大丈夫なのかと不安にもなりましたが、実際に星の光を分析できている様子を見て、非常に感激しました」と語っています。また、観測したデータの解析を行うソフトウェアの開発を行っている糸瀬千里さん(本学理学部/4年次生)は、「自分たちの開発してきた装置が、ちゃんと設計通りの性能を発揮できて、とてもうれしいです」と語っています。また、観測装置の制御を担当している新中善晴さん(本学大学院理学研究科/博士後期課程1年)は、「いよいよこれから観測が本格的にスタートし、この装置を使った研究成果を出さなくてはと思うと、気がひきしまる思いです」と語っています。最後に、研究開発グループを率いている池田准教授は「新しい機能を持った観測装置の実現は、新しい発見によって天文学を大きく躍進させることができるので、大変な意義があります。本装置を用いて、これから学生と一緒に数多くの研究成果を配信していきたいと考えています。」と語っています。

 神山天文台では、今後、LIPSを用いた観測研究を本格化させ、本装置を用いた科学的成果を精力的に発信してゆくことを目指しています。また、世界トップレベルの観測装置が更にもう一台、開発中となっています。

図2:星の光の色を精密に決めるための参照光源を撮った画像。波長を決めるための「目盛り」の役割を果たす、特殊なランプを観測したものです。一つ一つの線が「目盛り」に相当しています。これにより、光を約10000色に分解できていることが確認できました。

図3:こと座β星の偏光スペクトル画像。二本ずつのペアが光の偏りを調べるための情報になっており、横に何本も伸びた明るい線が色の異なる光の強度分布を示しています。


図4:こと座β星の偏光スペクトル。波長が6563Å(目では赤色に見える)には、水素原子のガスが発するHα(エイチ・アルファ)と呼ばれる光が見られます。こと座β星は一見、普通の星ですが、光を波長ごとに分ける(分光する)とHαの光を強く放っていることが分かります(最上段のグラフ)。しかも、このHα光は非常に偏っており(直線偏光度が高く)、かつ偏りの方位角(偏光角)が途中で90度回転していることがLIPSの観測から分かりました(中段/下段のグラフ)。こうした情報は、こと座β星の周囲にある物質の分布などを明らかにするために、非常に重要となります。普通に望遠鏡で写した画像では分かりませんが、この星の周りにはガスが噴き出すジェットが存在していると考えられています。

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