2008年度・夏期休暇課題図書等リスト

横山 史生

堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書、2008年、700円)

アメリカ合衆国は本当に「自由」で「豊か」な「大国」なのでしょうか?自然災害時に行政の対応の不備による「人災」の苦難を受ける人々、学校給食がジャンクフード化しているために貧困のなかで肥満に苦しむ子どもたち、公的な医療保険の不備による膨大な医療費負担に耐えられず病気になっても病院に行けない労働者たち、高校・大学を卒業しても就職先がなく選択肢を奪われて軍隊に入隊しイラクの戦場へと駆り立てられていく若者たち。アメリカ在住歴の長い著者(証券会社在職中の2001年には9.11テロに遭遇)が、現地でのインタビューをもとに、アメリカ政府による予算縮小の断行と市場原理への過信がアメリカの一般市民の生活を脅かしている状況をつぶさに描き出しています。

本山美彦『金融権力―グローバル経済とリスク・ビジネス』(岩波新書、2008年、780円)

アメリカの住宅ローンの債権を世界中に転売する金融商品の価格暴落による米欧日の金融市場の混乱、ライブドア・村上ファンド事件で明るみに出た株式市場の歪み―「金融」といえば、ごく一握りの富裕な資産家が財産を増やす「儲け」のための手段であり、複雑な取引手法を駆使する特殊なビジネスの世界、というように世の中では受け止められている面があります。しかし、「金融」とは本来は、社会全体の経済活動に必要な資金の流れをうまく調節するものであるはずなのです。金融が本来の役割を離れて「儲けがすべて」「リスクは転売できる」というような投機的な性格を深めていったのは、いったいいつからで、どのような背景があったのでしょうか。本書は、金融に秩序を取り戻すためには何をすべきかを真摯に問いかけています。

西川潤『データブック 人口』(岩波ブックレット、2008年)

人口問題はたんに人口増加の問題にとどまらず、人々の誕生・成長・健康、資源や環境、社会の高齢化や雇用、世界各国での都市部の過密化・農村部の過疎化の同時進行など、さまざまな問題と密接に結びついており、また、南の途上国から北の先進国への労働力移動も急激な勢いで進んでいます。著者は、今日の人口問題とは何か、世界的規模での人口問題が世界の未来にどういう問題を投げかけているかについて、客観的なデータをもとに冷静かつ真摯に問いかけています。

川北 稔編『ウォーラーステイン』(講談社選書メチエ、2001年、1500円)

現代の先進国・途上国の間の経済発展水準の大きな格差は、いったいいつ、どのような事情で生じたのか。先進国は昔からずっと先進的で、途上国は昔からずっと遅れていたのか。そうではない。コロンブスらヨーロッパ人による新大陸の「発見」(?!)以来、ヨーロッパの一部の国の資本・企業が世界へ進出することで、世界は大きく変化させられ、世界の各地の人々の日常生活のあり方は大きく変わっていった。現代における経済や社会の「グローバリゼーション」の根源的背景を、世界の歴史のダイナミックな動きから読み解いていく。現代アメリカの歴史学者・ウォーラーステインによる「世界システム論」という歴史観をわかりやすく紹介する。編者の川北稔氏は、ウォーラーステイン研究および近代イギリス社会経済史研究の第一人者で、大阪大学名誉教授・本学文化学部教授。

薮下史郎・荒木一法 編著『スティグリッツ早稲田大学講義録―グローバリゼーション再考』(光文社新書、2004年、700円)

米国クリントン大統領の経済顧問や世界銀行上級副総裁を歴任し、2001年ノーベル経済学賞を受賞した、コロンビア大学教授ジョセフ・スティグリッツ。そういう華麗な経歴の経済学者が、アメリカ政府やIMFなど国際機関の世界経済戦略は途上国を含む世界の社会・経済を発展させるどころか、大きな不平等と格差を生む原因になっていると、痛烈に批判する。しかも、2003年来日時に早稲田大学で日本の大学生に向けて行った特別講義でわかりやすく語りかける。その迫力と臨場感に、あなたも触れてみてください。

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