久道 亮(ドイツ)

ドイツ留学体験記(ライプツィヒ)

留学生仲間とライプチヒのレストランで

留学生仲間と
ライプチヒのレストランで

早いもので、私がドイツに来てから既に3カ月近くが経とうとしています。体験記を書かなければいけないということで何について書こうか色々迷いましたが、こちらに来てから体験したネガティブな事について書こうと決めました。 と、いうのも、恐らく他の方が異文化交流の素晴らしさや、初めてドイツに来た時の戸惑いであるとか、そういったものは語ってくれるだろうと思ったからです。

 ドイツに来てからたくさんの人と出会いました。自分の研究でドイツ語を勉強する必要が出た人、ドイツ語の教師を目指して大学で研究中の女性、公園の設計と環境保護について日本では学べないと決心し、0からドイツ語を始めた人もいます。さらに、幸運にも自分の腕一本で生計を立てている画家の方とも知り合うことができました。こういった人たちに共通しているのは、何らかの夢があってそのための手段としてドイツ語を勉強している(した)ということです。

 それは私には無いものでした。私は初対面の人やドイツ人の学生に必ず尋ねられる「君は語学コースの後何を研究するんだ」という問に対して何も答えを持っていませんでした。

 私達、ドイツ語学科では当然のことながらドイツ語を専門的に勉強します。ドイツの文化や、歴史、風俗習慣等文化的な面についても学びました。ですが、それは「専攻している」と言えるレベルではなかったと私は思っています。ですから、こちらに来て私はまず今までの自分に深い失望を覚えました。ドイツで会った日本人やコースのクラスメート達には目標があるが、自分にはそれがない。自分は留学するということを目標に今までの授業をこなしてきたから、そこから先のことは考えていなかったのです。
 つまり、語学コースに参加し、仮に大学入学資格であるDSH-Pruefungに合格したところでそれが将来役に立つのか、何のためにドイツに来ているのか、そう考えてしばらく憂鬱な気持ちになっていました。

 今でもその思いが変わったとは言えません。ドイツ語の語学力を活かせる具体的な目標があるわけではありませんし、ドイツの大学に入学することは(魅力的ですが)今のところ考えていないからです。
 それでも今は悩んでいた当時よりも前向きになっていると思います。以前友人と話しているときにこの悩みについて話したことがあります。私より10も年上のある友人はこう言いました。
 「確かにドイツ語を日本の社会で活かすことは難しいと思う。さらにドイツの大学でも外国人が無事卒業してその後ドイツで生活をするのは難しい。それでもきっとこの1年は君の為になるはずだ。それに勉強する上で大切なのはgeniessenだよ」
例え役に立たなかったとしても思い出はできるし1年楽しんだらいいじゃないか、と彼は言いました。そう考えると何か、以前より悩まずにやっていける気がします。教養としての勉強であると割り切ってしまうのは心苦しいですが、楽しんでいるうちに見つかるときは何か見つかるだろうと、今は楽観的に先のことを考えています。

 以上の経験から、もし私がこれからドイツに留学しようと思っている人にアドバイスするとしたら、それは「考える」ことです。
 確かにドイツに来るのは面白い。知らないことばかりですし、その上色々な国の友達もできます。でも本当にドイツに来てまで、高い学費と経費をかけてまでしたいことがあるのかどうか、それは日本ではできないことなのか。留学が目標だった私の場合、日本にいる間は留学するまでの準備にかかりきりで先のことは全く見ていませんでした。もし、同じ立場にいる人がいるのであれば留学した先のことを少し考えてみて欲しいと思います。

 随分と偉そうな、上から物を見るような書き方をしてしまいました。元来自分は視野が狭い人間であると自覚しているので、考え方が変わることもしばしばあります。ですが、ここに書いたことが間違いなくドイツに来てから私が抱くようになった最も大きな悩みです。
 これからどう対処していけばいいかはわかりませんが、今自分にできることは真面目にドイツ語を勉強することだけなので、当面のところはDSHでNoten1を獲得できるように精進するつもりです。 更に、空いた時間に色々な場所を見て回ることも自分のためになるだろうと考えています。それは日本の文化には決してないものであったり、また日本と交流が無かったにもかかわらず大変似通ったものであったり様々ですが、全体的に見てドイツの文化や建造物、思想はとても好ましいと考えています。

 最後に、繰り返しにもなりますがわかったことがあります。一つは、たとえ言葉が通じなくても何かをする意志があればどこの国に行ってもやっていけるだろうということ。そしてもう一つは反対に言葉というものの素晴らしさ、有用性も同時にひしひしと感じています。ですから、今回ドイツに来て、勉強をさせていただいていることは僕にとってとても有意義です。そのために尽力してくれた両親、先生方や見送ってくれた友人たちに感謝をしつつ残りの9ヵ月を過ごそうと思います。

2009年5月
外国語学部ドイツ語学科
久道

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