Vol.065 神山交響楽団 小澤 拓真さんインタビュー

100人近くの団員を擁する神山交響楽団で、
今年度学生指揮者を務めている
小澤 拓真さんにお話を伺いました。

神山交響楽団はどのような活動をしていますか?

小澤 拓真さん(経済・3年次)
神山交響楽団では、夏のサマーコンサート、初冬の定期演奏会の年2回の演奏会をしています。 また、今年度からは依頼演奏力による地域との交流に一層力を入れています。例えば今年は北東ロータリークラブとの演奏や、静原小学校での演奏や楽器クイズ、介護老人保健施設「がくさい」での演奏の他に、本学図書館からの依頼を受けてのフルオーケストラ演奏も行いました。このような新しい依頼がたくさん増えているので、知名度の向上にもつながっていると思います。

オーケストラを大学から始めたにもかかわらず、学生指揮者となった秘訣と、その感想はありますか?

静原小学校での演奏会

正直に言うと、指揮者になったのは他に立候補者がいなかったという事と、安直に「かっこいいな」と思ったからです。京都産業大学のOBに今西 正和さんという、プロの指揮者がいらっしゃいまして、一度レッスンをしていただきました。今西先生が在学していた頃に本学に神山交響楽団は無かったのですが、母校という事で非常に親身になってレッスンをしていただきました。その時、今西先生は「音楽大学を出ているわけでもない普通の大学生が指揮者になったらかっこいいよね」とおっしゃって、そのおかげでモチベーションは高く持てます。

オーケストラに対する強い野心や音楽観を持って指揮者になると、躓いた時や、否定された時に受けるショックは非常に大きいです。私自身音楽に対して消極的になったつもりはありませんし、本気で向き合っていますから精神的に辛さを覚えることはありますが、ある程度軽い気持ちで指揮者になったからこそ、比較的気を楽に持つことができていると思っています。

団員への広い気配りが必要なポジションで、苦労する点はありますか?

指揮者は、団員がついていけなかったり理解できないような指揮はできません。仮にテンポを間違えた場合、指揮についてきてくれる団員と、正しいテンポで演奏する団員がいますからずれが生じますし、私の間違いで演奏にずれが生じるのは本当に辛いです。一人ひとりが音楽に対しての並々ならぬ思いを持っていますから、演奏中にぶつかり合うことはありますし、私も出来ないことばかりです。かといって指揮者だから特別、大変な存在ではなく、他の団員のみんなと一緒の存在でありたいです。ですから、団員からの真摯なアドバイスを積極的に吸収して成長していきたいです。
合宿にて

指揮者にとって大事なスキルはありますか?

当初私は、指揮者は人前で緊張せず話すことができれば良いと思っていましたが、今は、曲を聴いて理解し、表現しようとする、音楽に対するひたむきさが大切だと思います。中学、高校時代の私は楽譜通り、言われたとおりに吹ければいいという音楽に対する受け身さがありました。指揮者は、きれいな形で腕を振ることができればいいと思っていましたし、心がこもっていない指揮をしていました。すると、昨年度指揮者だった先輩から「お前のしていることが許せない。」というお叱りを受けました。今になって考えてみると、振り方の練習をするよりも、ただその曲を聴いている方がよっぽど練習になるからです。曲を聴くことで音を表現するための振り方や演奏の進め方を考え工夫します。曲を解釈する感情面と、表現する指揮の技術面でのバランスをとりながら成長していきたいと思います。

指揮者となって、具体的に印象に残っているエピソードはありますか?

合宿でレッスンの先生が奏者として参加された際、合奏中に「君の指揮では吹けない」と言われました。前日の夜中に、本を読みながらテンポ通り振る練習をして臨んだので、ショックでした。しかし、その晩、レッスンの先生から「例えば赤いものと言えばポスト、トマトなど色々あって、赤いもので間違いないが一人ひとり異なった意見がある。指揮者というのは、例えばその曲において『赤いもの』という曲があれば、ここはトマトの赤で行きましょう。ここは唇の赤で行きましょう。というように、全員の意志を受け止め共感を集めて音を出すのが指揮者の仕事だ。」というアドバイスをいただいて大きく納得をしました。
これからは教科書通りの指揮に終わらせるようなことはしたくありません。団員一人ひとりの個性の強さは神山交響楽団のいいところだと思いますし、喜怒哀楽を全面に表現し、目まぐるしく変化するような音楽をしたいですし、できると思っています。そのために私が冷静に振っているようではいけません。

11月30日に開演される、第16回定期演奏会についておしえてください。

演奏会

スッペ 序曲「軽騎兵」

この曲は当時の喜歌劇の中でもとりわけ華やかで軽快なので、神山交響楽団にぴったりの曲だと思います。序曲とはいわばその曲のあらすじ、ダイジェストのようなもので、このような華やかな喜歌劇では陰陽のコントラストを激しく出すことができますし、そうしたいと思っています。そのために、先述した通り、自分が持っているものがないと何もできないと思うので、心をいかに持つかという事をポイントにしていきたいです。

伊福部昭 交響譚詩

『ゴジラ』のテーマを作曲したことで有名な伊福部昭ですが、今まで神山交響楽団では邦人作曲家の曲を演奏したことがありませんでした。今年は伊福部昭生誕100周年というこの上ない機会なので、みんなが普段あまり目を向けない法人作曲家の曲にも挑戦します。

ブラームス 交響曲2番

今回のメインである曲で、非常に難しい曲です。今まで演奏してきた曲は、楽譜通りに演奏すれば迫力も出ますし、形にもなります。しかし、この曲はそうはいきません。ブラームスはベートーヴェンを非常に尊敬していて、最初の交響曲である第1番はその偉大な作曲家のような素晴らしいものを書こう、という思いから何十年も練って完成させた曲です。そんな第1番とは対照的に、今回演奏する第2番は半年ほどで作られています。というのも、ブラームスは一度曲を完成させたらそこから流れるように旋律を考えることができたようです。実際この曲は旅行中の体験を元に作曲されています。また、気難しい第1番と比べてこのような繊細な曲を作ってしまったので「私はこの曲は聞くに堪えない」と照れ隠しで語っていたそうです。

また、先日サマーコンサートで演奏したベートーヴェンの交響曲第5番「運命」は出だしから強い恐怖心を煽られるようなインパクトのある曲ですが、対照的に第6番「田園」は大自然の豊かさを表現したとてもきれいな曲です。ブラームスの交響曲第1番も劇的なインパクトがありますが、第2番は先述した通り大自然に触れて書いた広々とした曲です。そのため、今回演奏するブラームスの交響曲第2番は別名“田園交響曲”とも呼ばれています。ですから、先日神山交響楽団として初めて、サマーコンサートで交響曲、第5番「運命」を演奏したことには田園交響曲へとつなげるための大きな意味があります。

具体的にはどういう点で難しいと言えるのでしょうか?

合宿の様子
ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」は、交響曲の中でも有名な「基本中の基本」と言える曲で、団員で音楽を演奏できる喜びを感じるという目的がありました。その発展として、今回のブラームス交響曲第2番があります。演奏は楽譜が読めれば出来ると思われがちですが、弾けるだけでは絶対に合奏になりません。なぜならこの曲の序盤にはきれいな旋律の裏で全く関係のない旋律が演奏されています。まるで小説のような伏線を持ち、あちこちがパズルのようになっている曲なので、全員が曲の全容を知らないといけないからです。例えば、ミュージカルのように、一人ひとりが役割を理解しなければ役者になれないのと一緒です。
第2番ではチェロを演奏しますが奏者として、楽譜通り弾くだけの演奏にはなれないと思っています。自分以外の周りの音を聴いて他人がしたい演奏を理解し、それに反応できる引き出しを増やして、楽器と楽器で会話ができるようになりたいですし、できなければいけないと思っています。

今後の目標を教えてください。

今年で16年目を迎える神山交響楽団の16歩のうちの1歩となって、先輩方が培った音、技術を越えていかなければなりません。例えば先輩が「京都一やかましいオーケストラ」を表題に挙げてきたおかげで、ミスを恐れて自分の音を狭めることや、ミスをしてもごまかすような風潮は無くなってきました。このような、先輩から受け継いだすばらしいものを失うようなことはできませんし、17歩目となる次の世代にもしっかりと引き継いでいきたいです。

これからも神山交響楽団全体で、「数多くの新しい楽器や音楽がある現代において、何故クラシックをやるのか」というその魅力、素晴らしさを全力で伝えていきたいです。

(2014.10.21) 【記事:文化団体連盟本部 近持 恒平さん(経済・3年次)】

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