京都産業大学と徳島新聞社の新たな挑戦

京都産業大学と徳島新聞社の新たな挑戦

池上治徳氏×黒坂学長対談池上治徳氏×黒坂学長対談

先進的な学びの場を創出する京都産業大学の黒坂学長と、同大学の卒業生である徳島新聞社の池上社長が対談を行いました。テーマは、京都産業大学のスローガンである「むすんで、うみだす。」 徳島、そして日本の未来を切り拓く人材ビジョンや、その育成方法などについて、学問と報道の道を歩んできた二人が意見を交換しました。その言葉には、今の時代に「新たな価値」を産み出すためのヒントが詰まっています。

新しい物や価値を産み出す「むすぶ人」を育むために

黒坂:2024年に徳島新聞社が80周年を迎えるそうですね。池上さんは今年6月に社長にご就任されましたが、どのような取り組みを進めていらっしゃいますか?

池上:いま、新聞業界は大変革期にありますが、社員には「原点に立ち返って努力をしよう」と呼びかけています。実は80周年というのは徳島新聞社が社団法人化をしてからの年月です。前身の新聞が創刊した1876年から数えると今年で146年の歴史となります。言わば「近代の徳島」と共に歩んできたわけですが、戦後間もなく5カ条からなる社是「われらの信条」を朝刊紙面で発表しました。公共の福祉を守る、社会に先駆する、文化の灯となる、県民と共に行く、まず自らを試すという5つの信条が徳島新聞社の原点であり、今後進むべき道標だと考えています。

黒坂:徳島新聞社には、そんなに古い歴史があったのですね。実は私も、学長に就任してから「原点に立ち返る」ことの重要性を発信し続けてきました。現在、私たちの社会は混乱しており、見通しが立ちにくい時代になっています。あまりにも近視眼的な目標を立ててしまうと、進むべき方向を見失いかねません。そこで「将来の社会を担って立つ人材の育成」という建学の精神をしっかりと見つめ直し、今の時代から見た「将来の社会」をイメージしながら大学運営を行っています。

池上: ブレない思考を身に付ける上でも、原点という拠り所を持っておくことは重要ですよね。弊社では2年後の創立80周年に向け「人結ぶ未来、明日の徳島のために」という方針を掲げました。信条の一つである「県民と共に行く」という言葉にもある通り、徳島での活動にこだわるとともに、バーチャルな世界が広がる現代だからこそ「人」にこだわろうと考えております。人と人を結んで知恵を出し合ったその先に、徳島の未来が見えてくるのではないかと期待しています。

黒坂: 2015年に創立50周年を迎えた本学では「神山(こうやま)STYLE2030」という中長期事業計画を設けています。そのスローガンとなるのが「むすんで、うみだす。」です。学問や社会、企業、自然などをむすびながら、新しい物や価値をつくる「むすぶ人」を育てることを目標にしています。

池上: 京都産業大学のスローガンにも「むすぶ」という言葉が入っているんですね。

黒坂: 人と人をむすびつけると「1+1」が2以上になりますから。会社でもプロジェクトを進める際にはチームを作りますが、良い人材を集めて5人、10人のチームを作ることができれば、その力は何十倍にもなる。人と人をむすぶことで、新しい時代を動かす大きな力が、うねりとなって発揮されると思っています。

先進的な学びを実現する「神山STYLE2030」

池上: 私自身、学生時代の4年間を京都産業大学で過ごしました。卒業後はどうやって生きていこうかと考えながら、いろんな学部の仲間たちと学問や寝食を共にしたことを覚えています。

黒坂: 池上さんの時代は全部で5つの学部があったと思いますが、現在では文系と理系を合わせて10学部まで増えているんです。ワンキャンパスの中で約1万5千人もの学生が活動しており、無意識のうちに周囲から多くの情報が得られる環境になっています。「京都産業大学で、こういうことを勉強したい」という若者たちの希望を叶えるだけの受け皿は十分あると思います。

池上: 私の時代と比べても、学びの可能性が大きく進化していることに改めて驚きました。

黒坂: 本学は日本最大規模のワンキャンパスだけでなく、地域との共生や連携を推進し、新しいものを産み出す環境づくりにも力を入れています。小豆島や淡路市をはじめ、徳島の牟岐町との連携もその取り組みの一つです。また、京都の西陣にも「町屋 学びテラス・西陣」という施設を設けるなど、多様な学びの場を創出しています。今後も学生たちが学びを深めるための拠点を増やし、社会の課題解決に向けた経験を積めるよう背中を押していきたいですね。

池上: 一つのキャンパス内で学生同士が交流を深め、実社会の課題にも向き合える環境は本当に素晴らしいと思います。私も、もう一度学んでみたいくらいです(笑)。京都は日本が誇る歴史・文化だけでなく、画期的な考えを持った人や企業が多く存在しているのも魅力ですよね。

黒坂: 東京や大阪の方が街の規模は大きいですが、積み重ねられた歴史と文化は、かけがえのないものです。古いものと新しいものが混在する街は多様性に富んでおり、学生生活を送るには素晴らしい環境だと思います。池上さんは、在学中に得た知識や経験が役立っていると思われることはございますか?

池上: これまで、記者や管理部門の一員として働いてきましたが「明朗公正で、やり始めたことは最後までやり抜く」という精神は、京都産業大学で身に付けたものではないかと感じています。自然に囲まれた環境の中で、学問や学生生活を送れたことは、社会人になってからも大きな財産になりました。

黒坂: 近年では、施設面の強化も積極的に図っています。学生の主体的な学びを支援するため、ラーニング、グローバル、スチューデント、ナレッジからなる4つのコモンズを設けているのも、その一つです。これらのコモンズでは、本学の学生たちが学習スタイルに合わせた空間で交流を深め、お互いに高め合いながら学部を超えた学びを自由に行うことができます。

池上: 多くの学生たちが1カ所に集う「ワンキャンパス」の良さが詰まった施設ですね。

黒坂: 授業が終わった後の事後学習はもちろん、次の授業の予習や学生同士のミーティングなど、本当に自由に活用できます。今後も学生たちの学びを力強く支援していきたいと思っています。

徳島や日本を元気にする未来への人づくりを

黒坂: 社会が大きく変動するなか、池上さんは今後どのような人材が必要とお考えでしょうか。

池上: 一つの専門領域を深く掘り下げた上で、大きく性質の異なる領域の知識を併せ持った人が、新たなイノベーションを起こしていくのではないでしょうか。国際情勢や世界は大きく動いていますが、物事をいろんな観点から捉える能力が求められると思います。

黒坂: 池上さんがおっしゃったことが、まさに本学が今やろうとしている教育です。学部の専門的な学びに加え、今後のデジタル社会に対応できるよう、データサイエンスやAIに関する科目を立ち上げ、すべての学生が受講できるようにしています。 また、日本の未来を切り拓く高度な人材育成が求められる中、10学部のすべてが参画し、全学部生を対象とした「アントレプレナー育成プログラム」を次年度から始動させます。

池上: 学生の起業を支援するプログラムは、地方で活躍する人材を育む意味でも素晴らしいと思います。徳島でも起業家の成長と挑戦を支援する組織が立ち上がるなど、新しい風が吹き始めています。ぜひ人や地域をむすんでいただき、徳島出身学生の地元回帰につなげていただければ嬉しいです。

黒坂: ありがとうございます。徳島とは就職協定も結んでおりますので、ぜひ一人でも多くの方に京都産業大学で学んでいただき、ゆくゆくは、ふるさとや日本を元気にしていただければと思います。

池上: 本日は、ありがとうございました。

京都産業大学 学長 黒坂 光
京都大学薬学部、同大学大学院博士後期課程修了。薬学博士。
1986(昭和61)年 京都産業大学赴任。生命科学部先端生命科学科 教授(現職)。
2020(令和2)年10月 京都産業大学 学長就任。
大阪市出身。64歳。
徳島新聞社理事社長 池上 治徳氏
京都産業大学経営学部経営学科1984(昭和59)年卒業。
同年4月 社団法人徳島新聞社入社、2022(令和4)年6月 理事社長・グループ経営会議議長に就任。
徳島市出身。61歳

徳島新聞掲載:2022年12月24日

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