【産学】石川広吉氏×黒坂学長対談

むすんで、うみだす。

石川広吉氏×黒坂学長対談石川広吉氏×黒坂学長対談

1965年の創設時から、大学と産業界が手をむすぶ産学連携にいち早く取り組んできた京都産業大学。世の中が混沌とするいま、黒坂光学長は「将来の社会を担って立つ人材の育成」という建学の精神に立ち返る姿勢を発信しています。卒業生であり、最前線でモバイル技術の研究開発に携わる石川広吉さんと、大学での学びの大切さについて語り合いました。

大学で研究の基礎を培い 昨年、科学技術賞を受賞

黒坂:石川さんは富士通株式会社で研究職についておられますが、手がけているお仕事をご紹介ください。

石川:スマートフォンなどとつながっている基地局側の小型無線装置の研究開発に、入社以来23年間取り組んでいます。スマートフォンの登場で4G(第4世代移動通信)が普及し、5Gへと進歩していますが、いつでもどこでも誰とでもつながるモバイル時代を支えるのに無線装置は欠かせません。この無線装置の小型化、省エネ化を実現した技術の開発により、令和3年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)をいただきました。

黒坂:まさにこれからの時代を担う研究をされていますね。本学は科学雑誌「ネイチャー」「サイエンス」への論文掲載が私立大学で全国2位(2012~21年。大学調べ。「大学ランキング2023」より)と研究力が高いことを自負していますが、研究とは日々の進歩が見えにくい地道な作業を継続することで、高みに達するものだと考えています。

石川:おっしゃる通り、世に出る成果はごく一部です。派手ではない課題にも真摯に向き合って研究することが成功への秘訣だと思います。

黒坂:京都産業大学は、創設後の早い段階で他大学に先駆けて大型コンピュータを導入した、情報系に強い大学です。その伝統を石川さんが体現されており誇らしいですね。

石川: ありがとうございます。私は大学4年次で移動通信のゼミに入り、修士までの3年間に電波伝搬の研究や学会発表のノウハウ、研究者としての姿勢など、研究の基礎を教えていただきました。大学院での脳研究の講座では、英語力養成のため英語本を輪読し、担当教員からは「流行を追うのではなく、本当に価値あることを追究できる研究者になってほしい」と言われ、それは今も私の指針となっています。

黒坂:本学には、教師と学ぶ者との触れ合いが教育の原点だという創設以来の考えがあります。教員と学生の距離が近い本学でしっかりと基礎研究に取り組んだことが、小型無線装置の社会実装に結び付いたのだと思います。ワンキャンパスに文系・理系10学部約1万5000人の学生が集まるのも本学の特色ですが、多様な人たちと触れ合う機会もあったのではないでしょうか。

石川:はい。多彩な講義を受講し、様々な学生や先生と話し合い、交流でき、学ぶものすべてが新鮮でした。

富士通株式会社
モバイルシステム事業本部
ワイヤレスプロダクト開発統括部 マネージャー
石川 広吉氏
(京都産業大学大学院 博士前期課程1999年修了)
京都産業大学 学長
黒坂 光

建学の精神を体現する情報社会を担う人材

黒坂:本学は学園紛争が拡大する1965年に、日本の行く末を案じた宇宙物理学者の荒木俊馬が創設しました。「将来の社会を担って立つ人材の育成」を建学の精神に掲げ、さらに産学連携を重要視して、実社会の経営を担う人材育成も視野に入れて、数学を学べる理学部と経済学部の2学部からスタートしました。現在では、Society5.0時代をリードする人材の育成に取り組んでいます。いまは創設時と同じように混迷の深まる時代。私は建学の精神に立ち返ることを強く発信していきます。

石川:今思えば、私の中にある建学の精神に通じるマインドは、指導してくださった先生方の言葉や思想から得たものではないかと。私が富士通に入社したのも、製品を通して世の中に貢献する研究開発ができると思ったからです。

黒坂:本学には「神山スピリット」という、前向きで何事にも恐れずにチャレンジし、最後までやり抜く精神があふれています。石川さんは神山スピリットと専門知識を身につけ、社会に役立つ研究に取り組まれており、建学の精神を体現するロールモデルだと思います。

石川:手がけた研究の成果によって、携帯電話技術の変革に貢献できたと思うのですが、私だけではなく同僚や諸先輩からの協力があって初めて成しえることです。自分が何をやりたいのか、強い意思を持って取り組むと、仲間が手を差し伸べてくれます。それは大学時代から変わっていません。周囲を巻き込むような高い熱量を持つことも建学の精神に続くひとつの道だと思います。

黒坂:自分の研究を世に出そうと意欲を燃やすことは大切ですね。

石川:実は4年次で一度就職活動をしました。研究経験が浅いのに、知っているようなふりをしている自分が嫌で先生に相談したのです。親身に考えてくださり、大学院への進学を勧めてくれた最高の恩師です。

デジタルを積極的に活用する教育を推進

黒坂:これからはデジタル社会が進みますが、本学でも全学的にDXを推進しています。学業成績はもちろん、入試や課外活動、履修・面談の記録などの情報を統合し、卒業までにどのような資質・能力が身についたかをデータで可視化・提示します。どの部分が伸び、どこが足りないかを学生に認識してもらうことで、必要な履修科目の選択に役立ち、成長を実感することもできるようになります。

石川:DXはこれからの社会を変える鍵になります。私の研究でいえば5G、さらに次世代のビヨンド5Gを通じたモバイルネットワークの発展に貢献できるよう、通信システムの大容量化などに取り組みたいです。

黒坂:石川さんからは本学で基礎を身につけたというお話がありましたが、大学では基礎を学ぶことが大事だと私も考えます。入学を目指す皆さんには「読み(読解力)、書き(情報発信力)、そろばん(論理的思考力)」に注目してほしい。専門知識を身につけるために必要なことです。ぜひこのキャンパスで自分自身を育て、よりよい大学生活を送ってもらいたいです。

石川:京都産業大学は、多分野が融合するワンキャンパスですから、学びの選択肢が広がります。これから入学する皆さんには、自分は何がしたいのか明確な意思を持って、毎日の活動に取り組んでいただければと思います。

黒坂:これからも石川さんのように、「学び」と「社会に役立つ仕事」を結びつけ、成果を生み出す人材を世に送り出したいと考えています。本日はありがとうございました。

本山・神山地区に広がる広大なワンキャンパス

朝日新聞大阪本社版掲載:2022年9月10日

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