京都産業大学の学び×和歌山県立串本古座高等学校

これからの時代を担う人材を生み出す取り組みを紹介

京都産業大学の創設者・荒木俊馬氏は天文学・宇宙物理学者。宇宙を自由奔放に駆け巡る星々に、世界へ雄飛する若者の姿を重ねました。その思いは、サギタリウス(射手座)をあしらった学章にも込められています。開学の志を受け継ぐ宇宙をテーマに連携授業を和歌山・串本で開講。京都産業大学は「知」と「人」を結び、未来を明るく照らします。

京都産業大学は教育・研究成果を社会と共有することに力を入れています。高校での連携授業もその一つ。11月9日に和歌山県立串本古座高校で、理学部宇宙物理・気象学科の河北秀世教授が授業をしました。知と人を結び、これからの時代を担う人材を生み出す取り組みをご紹介します。

体育館で1年生約90人が熱心に聞き入りました
「宇宙と運動の不思議一緒に考えよう!」
理学部 宇宙物理・気象学科
河北 秀世 教授

宇宙からどう帰る?ロケットの町で授業

「いま、あなたは宇宙で一人ぼっちです。船外作業中、宇宙ステーションからうっかり離れてしまいました。どんどん遠ざかっていきます。どうしたら戻れると思いますか?」。そんな問いかけから、河北教授の授業は始まりました。テーマは「ニュートンの運動の3法則」。体育館に集まった一年生約90人は友達と顔を見合わせて、興味津々です。
本州最南端の潮岬に近い串本古座高校。民間小型ロケット発射場が町内に昨年完成したのをきっかけに、宇宙探究コースが来年春に開設されます。一方、京都産業大学は1965(昭和40)年に天文学・宇宙物理学者の荒木俊馬氏によって創立。京都市北区のキャンパスに私立大学で国内最大の反射式望遠鏡を擁する神山天文台があるなど、宇宙に深い縁があることから、今回の授業が実現しました。

運動の3法則ニュートンから学ぶ

移動する円盤状のホーバークラフトに興味津々な生徒たち

「まず、宇宙ステーションから宇宙飛行士が遠ざかっていく理由を考えよう」と河北教授。外部から力を加えられない限り、静止している物体は静止状態を、運動している物体は同じ速さで動き続ける「慣性の法則」を、底からの空気で浮き上がるホーバークラフトを使った実演で体験です。生徒が体育館の床で浮かせて指で前に押すと、床の抵抗を受けないため、まっすぐ同じ速さで進みました。
次に取り上げたのは、物体に働く力は物体の質量と加速度の掛け合わせで決まるとの法則。キャスター付きの椅子に生徒が座って実験です。「足を床に付けずに思う方向に進んでみて」と河北教授。体重の掛け方や向きを巧みに変えて何とか動き出した生徒を見て、「うまくやりましたが、それは床とキャスター間の摩擦を利用していて、床のない宇宙では使えません。一人では方向転換もできないんです」と続けました。
最後は「作用・反作用の法則」。物体Aから物体Bに力を加えると、物体Aは物体Bから同じ大きさの逆向きの力を受けるという考え方です。生徒2人が先ほどの椅子に座ってバスケットボールでキャッチボール。一人が思い切り投げると、その生徒は「ボールを投げた反作用」で椅子が後ずさりしました。「ボールを投げた反作用で力が発生することがわかります。この法則を活用したのがロケット。燃料を高速で放出することで、その反対向きにロケットが進むための力を発生させています」
気になるのが宇宙飛行士の行方。「手に持ったライトを宇宙ステーションと逆向きに放り投げれば帰れる」と生徒から答えが飛び出ます。「正解です。でも宇宙では後ろを振り返るのも大変。回転運動はどうしたらいいでしょう?続きはまた授業で・・・」と河北教授。「『なぜ?』と疑問を持ち、面白いと思ったら何でもチャレンジしてください」と締めくくりました。

宇宙で大きなうちわをあおいだら移動できるかを考えました
バスケットボールを投げ合って力が働く方向を体験しました

「知」と「人」結ぶ学びの成果を発信

自転車の車輪を使って回転運動も体験しました

京都産業大学では、宇宙を自由奔放に駆け巡る星々の姿に、新しい時代の世界へ雄飛する若者の姿を重ね、高校など他教育機関とも連携して、大学の「知」と「人」を結ぶ活動に力を入れています。日本最大規模の「ワンキャンパス」に10学部18学科がそろい、15,000人が学んでいる同大学。文系・理系の分野を越えた多様な学びと個性が結びつき、新たな発想や価値が生み出されるなかで、一人ひとりの好奇心のアンテナに応じた学びが見つかることを体感してほしい。今回の出張授業にも、そんな思いが込められていました。授業を受けた谷村シナンさん(15)は「宇宙への興味が強くなりました。いろんな考えが出てきて楽しかったです」と声を弾ませました。
河北教授は「宇宙では地球の常識が通じませんが、これからの時代、私たちの社会でも、経験則が生きず、イチから考えないといけない場面が増えてきます。自分の手足を動かして考える大切さを伝えたい」と話していました。

世界をリードする神山天文台研究開発を強化
若者の夢を創造する

京都産業大学は今年10月、理学部と神山天文台で行ってきた研究活動を発展させようと、神山宇宙科学研究所を設置し、初代研究所長に河北秀世教授が就任しました。民間ロケットの打ち上げが一般的になり、宇宙開発が変革期を迎える中、大学が得意としてきた分光分析技術や関連機器開発技術を組み合わせ、JAXA(宇宙航空研究開発機構)などとも連携。文理融合の一拠点総合大学の強みを生かし、将来は宇宙ビジネスへの参入を目指して、産学連携・学際融合の研究教育に取り組む方針です。
また今年5月には、ソフトバンク、LINEヤフーの両社と先端技術を活用した新しい学生生活の実現・教育研究に関する包括連携協定を締結。5G通信やAI(人工知能)を駆使し、キャンパスのスマート化を加速します。アントレプレナー(起業家)など次代をリードする人材育成を推進する京都産業大学に注目が集まっています。

日本最大規模の反射式望遠鏡を備えた神山天文台
京都市内にある、広大なワンキャンパス

朝日新聞掲載:2023年12月14日

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